6-3 ロサーノ食料問屋
「あんたら何か買いたいのかい?」
髭面の体格のいい男がラヴェリテたちを見つけて声をかけてきた。
「ここは、荷出し用の倉庫だよ。買い付けだったら表の……お?」
男は、ジョルドゥの顔を見ると態度を変えた。
「お前、ジョルドゥじゃねえか?」
男は、懐かしそうにそう言うとジョルドゥの肩を叩いた。
「お久しぶりです。ロサーノさん」
「おまえ、いつこの島へ来たんだ」
「今朝、早く入港したばかりです」
「コーレッジも一緒か?」
「はい、あっちでミカエラさんと話してますよ」
ロサーノは、ラヴェリテに気づいた。
「で、このお嬢ちゃんは、お前の子供か?」
「い、いえ? 違いますよ」
ジョルドゥは、慌てて否定した。
「ご店主。私はジョルドゥの子供ではない。あ、まてよ? 私がジョルドゥの子供だったら毎日、チョコレートケーキを作ってもらえそうだな。それもちょっといいかも……」
「おいおい、ラヴェリテ……」
ジョルドゥは、苦笑いをする。
「あ、違う、違うぞ。ご主人。私は幽霊船討伐隊であるミラン号の船長です」
ラヴェリテは、ロサーノに自慢げにそう言った。
「幽霊船討伐隊? 船長だって?」
ロサーノはラヴェリテの言葉に大笑いする。
「いや、ロサーノさん。それが本当の話なんですよ……おれたちこの船長の下で働いてます」
ジョルドゥがバツの悪そうな顔でそう言った。
「おいおい、お前らガキの頃とか笑んじゃないか。一体どんな悪ふざけとやろうってんだ?」
「それが……」
ジョルドゥがロサーノに経緯を説明をしようしたその時、話を終えたコーレッジとミカエルが戻ってきた。
「おお、この鼻タレ小僧! やっと戻ってきたか」
ロサーノは、コーレッジを見るとそう嬉しそうに抱擁した。
「ロサーノおじさんも元気そうだね」
「海軍の制服を着た大男が武器の買い付けに回っているって聞いたから、お前も一緒にきてるんじゃないかと思ってたら、案の定だ。お前は言うほど身体がでかいわけでもないのにな」
「海軍制服を着た大男が武器を?」
コーレッジは、心当たりのある男を思い出して眉をしかめた。
「おじさん、それどんな風貌の奴か聞いてる?」
「うーん、確か、顎髭に浅黒くて黒髪で2メートルくらいの……」
やっぱりルッティのヤツだ!
「おじさん、そいつに会っても絶対、商談に応じちゃだめだ。何も売っちゃダメだからね!」
「あ? 何故だ?」
「とにかく、関わっちゃダメだ! そいつはかなり問題のある奴なんだから」
「あ、ああ……わかったよ」
ジョルドゥがコーレッジに耳打ちする。
「コーレッジ、それってもしかしたら」
「ああ、まったく、ルッティの野郎め。何かやるとは思ったが海軍兵になりすますとは……」
事情を知らないロサーノが二人の肩に手を置いた。
「それより、コーレッジ。せっかく島へ戻ってきたんだ。どうだ? このミカエラと一緒になって俺の跡目を継がんか?」
「な、何言ってんのよ! 父さん」
「こいつは一見、チャラチャラしてあてにならなそうだが、頭も回るに腕っ節も強い。こいつなら俺の後釜も任せられるってもんだ。大体、ミカエル。お前だってコーレッジの事が好きなんだろ? だったら、ちょうどいいじゃないか」
ミカエラは顔を真っ赤にさせて背を向けてしまう。
「い、いや、ロサーノおじさん。俺すぐに出航するし、そういった話はまた今度……」
「今度ってお前、次はいつ島に戻ってくるかわからんだろ。なんだったら、ミカエラを連れて行くか?」
「お、お父さん! ちょっと話があるから、こっちへ来て」
「なんだ。わしはお前のことを思って……」
「とにかく来て!」
ミカエラはロサーノの腕をつかむと引っ張っていった。
倉庫の奥へ入っていく二人をコーレッジは見送った。
「やれやれ、相変わらずだよな、ロサーノおじさんも。なあ、ジョルドゥ。あれ? ジョルドゥ? ラヴェリテ?」
ラヴェリテとジョルドゥの二人はいつの間にかその場からいなくなっていた。
「あいつら、どこへ……」
コーレッジが周囲を探すと二人は倉庫の外でメガネをかけた男と話し込んでいるのを見つけた。
「これは海水だ。本物だよ」
メガネの男はそう言って海水の入ったジョッキをラヴェリテに差し出した。
ラヴェリテは、ジョッキの中の水に指をつけてペロッと舐めてみる。
「うん、しょっぱい。確かに海水だ」
「それをこの小樽に入れて……」
メガネの男は、樽の中に海水を入れる下の蛇口の下にコップを置いた。蛇口のコックを回すと水が出てコップの中を満たした。
「さあ、お嬢さん。飲んでみて」
コップを渡されたラヴェリテは、言われたとおりコップの水に口をつけてみた。
「しょっぱくない! 真水だ」
「どう? すごいだろ」
「どうなってるんだ?」
「特別な砂利やら珍しい海藻の灰とかを調合して詰め込んである。配合は秘密だよ」
「なあ、ジョルドゥ。これがあれば水を積まないでもいいんじゃないか? 海水からいくらでも真水を作れるぞ」
「そうかもしれないけど……何か胡散臭いなぁ」
「この装置は、本物だよ。もう二十樽も売れてるんだから」
「やっぱり売り物か。いくら?」
「この樽一個で水の入った大樽五個分の金額だ」
「本当なら安い買い物だと思うけど、嘘だったら大損だし……」
「本物だよ。なんだったら大樽三つ分の代金でもいいよ」
「うーん」
ジョルドゥが腕を組む。
「ねえ、試しに一個だけ、買っていこうよ。ジョルドゥも水が豊富なら料理の種類も増やせるって言ってたじゃないか」
「でもなあ」
「ところで、あんたらどこへいく?」
「スイングワット島の方面だけど」
「スイングワット島? それなら俺を乗せていってくれないか?」
「はあ?」
「実は俺。スウイングワット島の方に用事があるんだが、金が底をついちまって、仕方なくここで旅費を稼いでたんだ。もし俺を乗せてくれたらこの大樽をタダでやるよ」
「そうか。いいぞ」
ラヴェリテは、あっさりそう言った。
「せ、船長」
「タダでこの魔法の樽が手に入るんだいいじゃないか」
「決まりだな。よろしく頼むよ。俺はサジェスっていうんだ」
「わたしはラヴェリテ・ローヤリティ。ミラン号船長だ」
「ずいぶん若い船長だね」
「船長の優劣は年齢ではないぞ」
「たしかにそうだな。よろしく、ラヴェリテ船長」
メガネ男がラヴェリテに右手を差し出した。がっしりと握手を交わす二人。
「これで、新しい乗組員が増えたぞ。やったな、ジョルドゥ」
嬉しそうにそう言うラヴェリテだったが。
いや、この人、スウイングワット島の方に行きたいといっても、幽霊船の出る海までは行くつもりないと思うんだけど……。
ジョルドゥは思った。
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