2-3 ラヴェリテの決意
バンドネオン海の穏やかな海に故郷の港。
飛び交うカモメ。
そして、帝国艦隊随一といわれるラングドッグ号の姿。
いずれは艦隊指揮官も任せられるだろうと噂されていた自慢の父親が指揮する船だった。
幼い頃からそんな父の姿を見てきて、いずれは自分も父のような船長になるものだとラヴェリテは普通に思っていた。
けれど、船長になったラヴェリテの姿を見てくれるはずの父は戻ってこない。
父の友人でもあるスウィヴィ少佐がラングドッグ号沈没の知らせを伝えに来てから3日が経っていた。
その日は、本来であれば、ラングドッグ号が戻ってくる予定の日だ。
ラヴェリテは、いつもよりずっと早く起きた。
朝食を済ませると、一目散で港に向かった。
もしかしたら、沈没の知らせは間違っていて、ラングドッグ号が何事もなかったかのように港に現れる気がしたからだ。
ラヴェリテは、船が入港してくるを見るのが好きだったし、海を見ているのも好きだ。待つ時間は苦ではなかった。
港に帰ってくる船の仕事をやり遂げて戻ってくる姿に尊敬のような気持ちが浮かんでくる。
出港していく姿も好きだ。
目的地を目指して進む出す姿は冒険に繰り出す騎士のよう。遠くに見えなくなると少しさびしい気持ちになるが、そうなったら船が広い海を進む姿を想像する。
ラヴェリテは港で過ごすのは楽しい時間。
その中でも今日は特に楽しめる日になるはずだった。
ラヴェリテの一番お気に入りの船、ラングドッグ号の姿がを見るといつもラヴェリテは胸がワクワクした。
いつだってラヴェリテは、大好きな父の乗るラングドッグ号が港に戻ってくる姿を待ちわびた。
しかし、その日、父の船は入港してこなかった。
「きっと遅れているのね。あまりいい風がなかったんだわ」
その日、ラヴェリテは自分にそう言い聞かせて家路についた。
だが次の日も、ラングドッグ号は姿を見せなかった。
「海流のせいよ。今年は北の海流がちょっとおかしいって誰かが言ってたし」
だが次の日にもラングドッグ号は入港しなかった。
「大丈夫よ。だってお父様は帝国艦隊一番の船長だもの」
そして3日目、海を見つめるラヴェリテは、海軍のスウィヴィ少佐がした祖父への報告を思い出していた。
それは家族の誰もが聞きたくなかったこと。
「ラングドッグ号、沈没。生存者数名……その中にセルメント・ローヤルティ中佐のお姿はありませんでした」
祖父はその場に立ち尽くし、祖母は、泣き崩れていた。
「スイングワット島の沖を北上中に海賊と思しき艦船と交戦。奮戦虚しく、あえなく撃沈されたとの事です」
その日、日が暮れる前に家に戻るラヴェリテは部屋に篭った。
そして思い切り泣いた。
まるで一生分の涙を使い切るかのように。
次の日、部屋から出てきたもののいつものような元気はなく、祖父たちや執事、近所の子供たちもラヴェリテのことを心配していた。
そんな時、クリストフがある話を持ち込んできた。
「ラングドッグ号を沈めたのは海賊はただの海賊ではなく”幽霊船”だって」
それはラヴェリテの気持ち羅針盤の方向を一気に変えるものだった。
「父ちゃんが生き残りの船員から話しを聞いだんだ。
大昔の大海戦で敗れた亡霊たちが乗り込むヴォークラン船長の幽霊船が、数百年以上も自分を沈めた敵を探して今でも海をさまよっているって。
それが、ラングドッグ号を攻撃したんだって生き残りの船員が言ってたんだって」
では、父上の船は、その幽霊船に敵と勘違いされて沈められたの?
相手が冥界の船乗りだとしてもこんな道理の行かない話はない!
その時、ラヴェリテは決めた。
私が……私がヴォークラン船長の幽霊船を倒すのだ!
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