決戦! 幽霊船 対 殺し屋艦隊

14-1 戦闘開始

 殺し屋艦隊がミノルカ号を取り囲み最後の集中砲を火浴びせようとしていた。

 そこへ突如、船と船の間に見たことのない形をした大型艦が割って入てきた。


「ミノルカ号右舷に正体不明艦!」

 ミノルカ号の最後を見届けようと上甲板に上がってきたイグノーブル提督は、ヴォークランの姿を見て眉をしかめた。

「あの船はなんだ?」

 イグノーブル提督は艦長に聞いた。

「わかりません。ミノルカ号の横につくまで全く気が付きませんでした。しかも、あの様な形状の艦は見たことはありません」

 ヴァシレフスの船長は、そう説明したが明らかに戸惑っているのがわかる。


「正体不明艦より、発光信号あり!」

 部下の将校がヴォークランからの信号に気づいて報告した。

「読め」

「”卑怯な殺し屋艦隊に告ぐ。ミノルカ号を攻撃するなら、ヴォークランがお相手する”……以上!」


 ヴォークラン?


 艦長とイグノーブル提督は、その名前を聞いて驚いた。

「ヴォークランだと? バカな……」

 自分たちが名を騙っていた幽霊船と同じ名の船が目の前に現れたのだ。

 しかも、沈めるべき船を守ると宣言している。

 そもそも二人ともヴォークランの幽霊船の話など、信じていなかった。しかし、目の前の艦は、確かに存在し信号まで送ってきているのだ。

 ナヴァリノ・イグノーブル提督は、ヴォークランと名乗る大型艦に望遠鏡を向けた。

 それは、奇妙な形状の船だった。

 装甲艦のようではあるが、見慣れないその船体は、彼の知っている船のどれにも当てはまらない。

 提督がヴォークランの甲板の様子をうかがっていると新たな照明信号送られてきた。将校が信号を読み上げる。

「”卑怯者の乗る船に継ぐ。命が惜しければ武装を解き降伏せよ”」

 イグノーブル提督たちはその内容に顔を見合わせた。

 ヴァシレフス号は、前面砲も装備する帝国の新型装甲戦艦だ。外見は幽霊船に見せかける為に多少の改修は加えているものの、戦闘力に変化はない。そのヴァシレフスの同クラス艦が二隻。さらには巡洋艦が六隻を周囲に布陣させている。

 無謀な警告を発する相手が戦艦級の艦船一隻だとしても戦力差は明らかだった。


「あの船の船長は、とは思えぬな」

 イグノーブル提督は言った。

「は……はあ」

 偽装幽霊船の艦長は、正体不明艦がヴォークランを名乗ったのが気になっているのか、覇気のない返事をした。不気味な髑髏の仮面も今や滑稽だ。

「艦長! 何をしている! 全艦で攻撃だ」

 提督は憤怒の表情で怒鳴りまくる。

「あのヴォークランを名乗るおかしな艦ごとミノルカ号を沈めてしまえ!」

「は、はっ!」

 攻撃命令の信号が周囲の装甲艦や巡洋艦に送られた。

 ヴァシレフス号の後方で待機していた戦艦二隻が速力を上げ、ミノルカ号とヴォークランの左右に展開しようと進みだしていく。ミノルカ号の後方を追ってきた巡洋艦群も距離を詰め始める。

「こっちは、装甲戦艦三隻を擁する艦隊だぞ。馬鹿めが!」

 イグノーブル提督は、吐き捨てるようにそう言った。



 ヴォークラン艦橋 ――


「敵艦隊が展開を開始」

 エイクスが告げた。

「やつら、やり合う気だな……」

 コーレッジはレーダーの表示する画面を睨みながら呟いた。

「本艦とミノルカ号を包囲しようとしています。集中砲火の狙いがあるものと思われます」

「戦闘準備だ! おい、大砲はどこにある!」

 コーレッジがアレックスに言った。

大砲キャノンは装備しておりません」

「武器がないのか?」

「武器はあります。私に攻撃目標と兵器の種類を指定していただければ、速やかに攻撃体制に入ります」

 エイクスがそう言うと装備している武器の種類を示す新たな画面が空中に映された。どうやら、その中から使う武器を選べということらしい。

「おお、この船は戦えるのだな」

 ラヴェリテが言った。

「私は、戦闘艦です」

「おお! そうだったな。頼もしい!」

「ただ、随分長い間、メンテナンスをしていません。稼働する兵器が限られてまして」

「ん?」

「武器の7割が稼働しません」

 表示された武器のリストの多くが赤い表示に変化した。残りのリストは多くない。

「むむ……それって……」 

「しかし、私はMC-97R。高性能の巡洋艦です。もし戦闘になれば、最大限の能力を発揮して敵に対抗します。さあ、ご命令を。ラヴェリテ艦長」

 ラヴェリテの目の前の床から椅子が上昇してきた。

「これは艦長用の席です。どうぞ、お座りください」

 ラヴェリテは、皇子とコーレッジの方をチラリと見た。立場的には皇子の方が上でしかも年上だ。コーレッジもラングドッグ号で戦闘を経験した水兵である。

「かまわないよ。船と海についてはラヴェリテの方が詳しいのだから」

 皇子は言った。

「この船は、お前の方がよく言うことを聞くみたいだしな。それにエイクスの言う事は俺にはチンプンカンプンだ」

 コーレッジはそう言って片目を瞑ってみせた。

「えへへ、ありがとう」

 改めて艦橋内を見渡した。

 ミラン号やラングドッグ号とはまるで違う。

 戸惑っていると誰かの手がラヴェリテの肩に置かれた。見上げるとヴォークランの精霊であるケイシー・ルーだ。

「私が操作方法を教えてあげるわ」

「ありがとう、ケイシー」

「いいわ、久しぶりの作戦行動に私も血が騒ぐし」

 ケイシー・ルー大尉はニヤリとする。

 ラヴェリテは、艦長席に座ると一呼吸して一声を放った

「皇女の船を守る! ヴォークラン戦闘準備!」

 それを合図に、エイクスが刻々と状態を報告し始める。

「戦闘シークエンス開始。特別処置の為、戦闘指揮を戦闘指揮所CICから艦橋に集約する」

 ラヴェリテの目の前にいくつもの小型の画面が現れた。既に表示されている画面の小型版らしい。レーダーでの表示画面とカメラでの映像画面が次々を現れた。

「敵艦補足。ヴァシレフス級3、ミストラル級6。本艦を中心に半径20マイルに展開中。ターゲット・ロック・オン」

 赤く表示されたマークが点滅を始めた。

「今の状態は、敵をいつでも攻撃できる準備が出来たってことよ。大砲ではなくミサイルという兵器を使うの」

 ケイシー・ルーがラヴェリテの耳元で説明した。

「そうか。随分と早いものだな」

「まあね」

 ケイシーが肩をすくめる。

「ご命令を」

 エイクスが聞いてきた。

「え?」

「攻撃命令をお願いします」

「え、えっと……」

「対艦ミサイルが最も適した選択と思われます。現在3基の対艦ミサイルが使用可能です」

 ラヴェリテが戸惑っているとケイシー・ルーが囁いた。

「狙いはつけたからいつでも攻撃できるけど、武器を選べと聞いてるの。いくつか使える武器はあるけれど、エイクスは、今なら対艦ミサイルが効果的だとアドバイスしてる。後はラヴェリテが決めて命令するだけ」

「そ、そうか」

「射程内であればレーダーに映る全ての敵に対艦ミサイルによる攻撃が可能です」

 正面の空間に海にいる船の位置を示した図が表示された。

「この青いマークのが私達の乗るヴォークラン。真横にいるのが守ろうとしているミノルカ号。赤いのは悪党どもの艦よ」

「う、うん」

 コーレッジが画面を見て察した。

「この絵……青が俺たちとミノルカ号。赤は敵艦だな」

「そうだよ。ケイシー・ルー大尉もそう言ってる」

「誰だ? それ」

「ヴォークランの精霊。八百年もこの船にいるって」

「ああ……また、おかしな事を言い出す! まあ、そいつは後で話そう。えーと、という事は、最も近づいているのは前から来る装甲戦艦二隻と、ミノルカ号の横につこうとしている巡洋艦一隻だ。まずは、三隻の殺し屋どもから始末しておこう」

 その様子を横で見ていたケイシー・ルーが感心する。

 この乗組員、先頭指揮の才能あるかも……


「うん、わかった……エイクス! 攻撃して」

「目標を指し示し下さい」

「どうすればいい?」

「目標となる画面上のマークを指で触れて下さい」

 空中に表示さる画面の中でレーダーの表示をするものが、ラヴェリテの目の前に移動してきた。

 コーレッジが、三隻のマークを指で触れた。

「これだ」

 ところが……

「あなたに指揮権はありません」

 エイクスは、素っ気なくそう言った。

「な、なに……」

「コーレッジは、私の副長だ。副長の言うとおりにしてくれ、エイクス」

「新規に登録しました。コーレッジ副長に戦闘指揮権を追加。ご命令をどうぞ」

「う、うぐ……」

 コーレッジは何か言いたげだったが、堪えてにターゲットのマークを指し示した。

「この三隻だ」

「武器選択完了。ターゲット・ロック・オン。攻撃命令を待ちます」

 ラヴェリテは、コーレッジをチラリと見るとコーレッジは頷いた。

「攻撃開始」

「攻撃開始します」

 エイクスがラヴェリテの攻撃命令を復唱した。


 ヴォークランの甲板のミサイル発射口が開き、白い煙と炎が甲板から吹き出た!

 煙と固形ロケットの炎を吐き出しながら上空に上がっていく。対艦ミサイルが上空めがけて発射された。推進口からの炎が海面を明るく照らす。

 艦橋から、その様子を見ていたラヴェリテたちは、そのシステムマチックな機械の動きと煙と炎に唖然し、空へ高く飛んでいく対艦ミサイルに見とれた。

「でかい花火だな……」

 思わずそう呟いたラヴェリテを皆が見る。

 確かのそのとおりだった。


 対艦ミサイルは、上空で直角に近い角度で方向転換すると、ロック・オンした殺し屋艦隊の三隻に向かって飛んでいった。


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