5-3 追跡者たち

帝国海軍デュプレクス号――


強奪されたミラン号を追う為に招集がかかった海軍艦の一隻だ。

即時、出航ができ、なおかつ三隻の駆逐艦が選ばれ、それぞれミラン号の行く可能性のある航路を追う作戦だった。

それぞれの駆逐艦には急遽、食料と水の積み込みが行われていたが、最初に準備の完了したのがスウィヴィ少佐率いる駆逐艦デュプレクス号だった。


「出港準備完了しました、艦長」

 副長や下士官の将校たちと海図で航路を検討していたスウィヴィ少佐たちのに一等航海士が報告に来た。

「ご苦労。本艦は命令あるまで、そのまま待機」

「アイサー!」

一等航海士は敬礼するとその場を離れた。


 スウィヴィ少佐と部下の士官たちは再び海図を眺め作戦を練り始めた。

「さてさて、ミラン号は、一体、どう向かったのか……」

 スウィヴィ少佐は、腕組みをした。

「そもそも何故ミラン号なのでしょうか? よりによって、あんなつきの船なんかを……」

 副長である少尉がそう言った。

「事情を知らぬやからが、単に解体予定を知って盗んだだけかもしれん」

「そうですね。あの噂を知っていれば、きっと手をださなかったでしょう。海の男は迷信深い者が多いですし」

「ミラン号を盗んだ連中は、迷信を信じない現実主義者の集まりか、恐れを知らぬ馬鹿の集まりだろう。では、諸君。そういった連中が向かう先はどこだと思う?」

 スウィヴィ少佐は、部下たちに向かってそう言った。

「少佐の推測が正しければ幽霊船の出没すると言われているスイングワット島の沖に向かうのでは?」

 将校の1人が言った。

「最終目的地はそうだろうが、ミラン号はそのまま向う事はないだろう」

「と、いいますと?」

 同じ将校が聞き返す。

「ミラン号の武装は外されている。セルメント・ローヤルティ中佐の娘が幽霊船への報復を目的として……まあ、私は、一緒にいる連中にそそのかされていると思うが、もし、報復を考えているなら、まずは再武装しなければならない」

「では、どこかで大砲や弾薬の積み込みをするということでしょうか?」

「そのとおり。問題はどこへ立ち寄るかだ」

「それなら気になる情報を得ております」

 別の将校が言った。

「どんな情報だ?」

「ミラン号に乗船していると思われるコーレッジの経歴によると、ランディック島に長く住んでいたとありました。ランディック島の港は非合法な取引の多い港と噂されていますし、良からぬ輩の出入りも多い。さらにはスイングワット島へ向かう途中にあります。追われる身のミラン号には再武装するには最も都合の良い場所ではないかと」

「よい推測だ、少尉」

「有難うございます」

「ですが、少佐」別の将校がさらに口を挟んだ。

「目的の海域に最も近いスイングワット島でも装備を整える可能性もあるのでは?」

「かもしれんが、まずは、ランディック島だ。連中も知った場所の方がいろいろ動きやすいはずだしな。それにスイングワット島の方は、船泥棒が立ち寄るにはすぎる」

 部下の将校たちは全員、納得した。

「よろしい、進路は決まった。我々は、まずランディック島に向かう」

「アイサー!」

 こうして出航の準備は整った。


 それにしても、よりによってあの呪われたミラン号とは……。

 スウィヴィ少佐は思った。

 ミラン号は呪われているという噂の船だ。

 海軍は、老朽化を名目に取り壊す予定だった。

 そんな船が、取り壊し寸前に盗まれるとは……。

 それでは、まるで壊されるのを知ったミラン号が自ら逃げ出したかのようではないか。

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