14-3 主砲炸裂
一瞬で三隻を吹き飛ばした様子にヴォークランの艦橋は静まり返っていた。
「敵、ヴァシレフス級戦艦2、ミストラル級巡洋艦1を撃沈。次の命令を」
エイクスは、淡々と戦果を報告した。
「おい、エイクス。あの花火は、どこまで飛ばせるんだ?」
コーレッジが聞いた。
「半径370キロが射程です」
「嘘だろ……」
「申し訳ありません。本艦のレーダーではそれが限界です。GPSシステムが健在であればこの三倍は射程距離を伸ばせます」
「十分だよ。その対艦ミサイルとやらで残りの艦もやっちまおうぜ」
「対艦ミサイルは今の三基が最後でした」
「弾切れ? 弾切れってことか? 今更言う?」
「八百年も海を航行しているといろいろとありますので」
「じゃあ、もう戦えないのか? お前、さっき戦闘になれば、能力を最大限を発揮して敵に対抗する、とかデカイこと言ってただろう!」
「まだ攻撃手段はありますので」
ヴァシレフス号は提督の命令で突撃をかけることになった。
ヴォークランに接舷して兵士を乗り込ませればまだ勝機はあるだろう。
艦長は反対したが、提督に押し切られて突撃だった。
「幽霊船などに邪魔されてたまるか……各艦にも突撃命令だ。正体不明艦に切るこむのだ」
信号が残った艦隊に送られたが先程の攻撃を目にしていた巡洋艦の艦長たち命令に躊躇していた。
「目標、ミノルカ号に並行する正体不明艦!」
艦首下に設置された二門の大砲の照準がヴォークランに合わせられた。
「射て!」
大砲が発射され、ヴォークランの近くの海面に水しぶきが上がる。
そのうちの何発かがヴォークランの船体に命中し爆発した。船体に大きな損傷はないものの衝撃で振動を感じる。
「左舷装甲に砲弾命中。損害軽微。ステルス機能に障害発生」
エイクスが報告した。
「撃ち返せ! エイクス」
ラヴェリテがそう言うと目の前の画面に兵器のリストが表示された。
「使用兵器の指示をお願いします」
「え? えーっと……」
ラヴェリテがケイシー・ルー大尉をチラリと見た。
「105㎜電磁砲、対空レーザー、サウンドボム……使えるものはまだまだるけど、動きを止めるなら105㎜電磁砲がお勧めかな」
「わかった。ならそれを選ぶ」
甲板が開き、下から砲塔がせり上がった。
「急速充電完了。目標は砲撃しながら接近中のヴァシレフス級でよろしいですか?」
「そうだ!」
ラヴェリテは、接近してくるヴァシレフスを示すマークに指で触れた。
画面にはオレンジ色で”ロック・オン”の表示が出た。
「目標、正面の敵戦艦! 射て!」
砲塔が一瞬、青白く輝いたかと思うと甲高い音と共に先端が光った。
迫ってくるヴァシレフスの真横に船体の半分を覆うほどの大きな水しぶきが上がった。
ヴァシレフス号の乗組員たちはざわめく。
「提督、無理です! あんな船には突っ込めません。反転しましょう。もしくは降伏を……」
艦長は提督にそう進言したが、提督は怒りで冷静な判断ができずにいた。
「お前は、解任だ」
「は?」
唖然とする艦長の髑髏の仮面を剥ぎ取ると副長に押し付けた。
「副長、今から君が代わりに指揮を穫れ」
「わ、私がでありますか?
髑髏の仮面を押し付けられた副長は提督の命令に戸惑う。
ヴォークランの艦橋では、外れたとはいえ、今まで目にしていたどの大砲よりも強力な破壊力を目の当たりにしたコーレッジたちが呆然と水柱を見つめていた。
「よ、よし、もう一発だ! ラヴェリテ」
我に返ったコーレッジが思い出したように言った。
「うん! エイクス! 撃てる?」
「次弾装填完了。誤差修正完了。再照準開始……」
火器管制をコントロールしているエイクスは淡々と状況を告げる
「攻撃準備完了。いつでもどうぞ」
「よ、よし、射て!」
膨大な電力が砲に送られる。再び砲塔の先端が光り次弾が発射された。
高エネルギーで押し出された砲弾が、ヴァシレフス号の真正面から船体を貫いた!
衝撃と熱エネルギーは、弾薬と燃料の誘爆も引き起こし、ヴァシレフスは大爆発をおこした。百メートルを超す、巨大な水柱がヴォークランの目の前で起きた!
炎を上げて沈んでいくヴァシレフス号
乗組員たちはヴォークランの見せた攻撃力に呆然としていた。
前で放たれた武器は、エディス皇子やコーレッジたちが知っている武器のどれとも違う。どれも一発で敵艦を沈めるほどの威力を示し、彼らの想像を遥かに越えていた。
「敵残存艦、敗走を開始。周辺の海域から離脱中です」
生き残った巡洋艦が逃げ始めていた。
提督の乗ったヴァシレフス号もなく、対して戦艦三隻と巡洋艦一隻を葬り去った敵は、ほぼ無傷である。戦意を失うのも当然であった。
「終わったぁ……」
ラヴェリテがほっと胸をなでおろす。
隣でヴォークランの精霊であるケイシー・ルー大尉が腕を組みながら満足そうな笑みを浮かべていた。
その時だった。
「前方に複数の艦を確認」
エイクスがそう告げると目の前の画面に敗走する巡洋艦群とは反対方向から接近してくる複数の艦船が映し出された。
「まだ、仲間がいたのかな?」
ジョルドゥが心細そうな声で言う。
「いや、もしそうなら残っていた巡洋艦は逃げていかないはずだ」
別の画面が近づいてくる船団を撮影した映像を映し出した。
ズームアップされ船に掲げられた旗を映し出す。
「この旗は……これは北方王国の艦隊です」
掲げられた国旗を見たエディス皇子が言った。
ミノルカ号とヴォークランの進む先に現れたのは北方王国の艦隊だった。
その数は、戦闘をした”殺し屋艦隊”の艦より、ずっと多い。
「エイクス、
コーレッジが聞いた。
「攻撃可能です」
「待て! 待て! だめだ! ラヴェリテ船長、撃たせないでくれ!」
ルッティが慌てて止めた。
「どうしたんだ? お尋ね者」
ラヴェリテが慌てるルッティに小首を傾げて聞いた。
「あれは味方だよ。援軍だ!」
「味方?」
「俺が呼んだんだ。ほら……その、ミラン号とヴォークランの二隻じゃ、ちょっと心配だったから」
「味方……?」
ラヴェリテは、画面に映る北方王国の艦隊を見上げた。
「味方が現れるのはありがたいんだがな、ルッティ。なぜお前が北方王国の艦隊を援軍として呼べるんだ? 事と次第によっては……」
コーレッジは、短剣に手をかけながら言った。
ルッティは、罰が悪そうな顔で笑った。
「へへへ、察しがつくだろ? 航海士」
「そうか、わかったぞ。君は北方王国の密偵だな!」
エディス皇子が言った。
ルッティの雰囲気が急に変わると、エディス皇子の前に片膝をついて腰を下ろして頭を下げた。
「エディス殿下、ご無礼をお許し下さい。私は、北方王国秘密調査局の者なのです」
口調も今までのルッティとはまるで違う。それは盗賊ではなく軍人の風だった。
「帝国に開戦の準備ありという噂を聞きつけ、真偽の確かめに来ました。そんな折、我が北方王国への調停案を携えた使節が行方不明になったという情報を聞きつけ、探っていたのです」
「お前は、お尋ね者で密偵だったのだな、ルッティ」
ラヴェリテは、ルッティの尻を叩いた。
「痛いよ、船長」
叩かれたルッティは、いつもの雰囲気に戻った。
「わたしたちを欺いていたのだ。このくらいなんだ!」
「それは悪いと思っているよ。でも、俺は船や武器の調達やらいろいろと役に立っただろ?」
「そ、それは感謝しているが」
「へへへ、幽霊船は最初から怪しいと思っていたんです。どう調べようか思案していた時にラヴェリテ船長に出会ったんで……幽霊船退治に便乗したというわけです」
いつもの砕けた調子になったルッティはそう事情を説明した。
エディス皇子は、ラヴェリテの肩に手を置いて言った。
「ラヴェリテ・ローヤルティ」
「は、はい、殿下」
「我が国への密偵の行為は感心できるものではありません。ですが、そのお陰で私はラヴェリテたちと出会えて、こうしてここにいる。皇女の命も助かった。ルッティ殿を許してやってくださいせんか?」
「殿下がそうおっしゃるなら……」
「キャプテン・ラヴェリテ」
エイクスがラヴェリテを呼んだ。
「どうした? エイクス」
「前方の船団が発光信号で何かを伝えてきていますが」
アレックスがそう告げると画面は発光信号を送る北方王国の艦船を映し出した。
ラヴェリテは、繰り返し送られてくる信号を読みあげる。
「”帝国艦へ。我々は北方王国バンドネオン海方面艦隊である……貴艦らの救援に参上した”」
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