11-3 ヴォークランの精霊
「長く海ををさまよっているけど、あなたみたいな人に初めて会ったわ」
ケルシー・ルー大尉と名乗った
「実は、君のような者が私の船にもいるのだ。あっちは髪が白いが……彼女がこの海域にいけば幽霊船退治に協力してくれる船に出会えると教えてくれたんだ。それが君なのだろうか?」
ケルシーは、わからないとでも言いたげに小首を傾げた。
「その子が誰のことを言っているのか私にはわからない。あなたの船……ミラン号だっけ? そんな船は知らないし私に同類の知り合いなんていないし」
「もし、君がミラン号の言う船の事であるなら、幽霊船退治に力を貸して欲しい」
「幽霊船? ずいぶん突飛もない話ね。私が言うのも何だけど」
「ダメなのか?」
「この艦は戦闘用の艦。でも幽霊船なんてものと戦えるかどうかはわからない。けれど問題は艦をコントロールしているのは私ではないということなのよ」
ケイシーは、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「そうか、エイクスだな」
「そのとおり。艦を動かしているのは人工知能である彼なの」
「その人工知能ってなんなのだ?」
「人工知能っていうのは、人間の脳を真似た機械みたいなものよ。人間の代わりに考えて船を操作してるのよ」
「う……ん? 機械? なら機械ってなんなのだ?」
「え? そっから……? 機械は機械よ。コンピューターとか、電子回路とか、とにかく人間ではない道具たちがこの船を動かしているの」
「この船は人じゃないものが動かしているのか? ま、魔法か……」
「いや、魔法ってわけじゃ……」
しかし魔法で納得するなら、それでもいいかと思ったケイシーは、それ以上説明するのはやめておいた。
「そ、そんな感じなのよ。魔法だわ。だから船の精霊の私の言葉も届きにくくって……ごめんね。ラヴェリテ船長」
「……よくわからないが、エイクスは、ケイシーさんの言うことを聞かないのだな」
「まあ、ざっくり、そういうことかな。かなりざっくりだけど……」
「融通のきかない者はどこにでもいるものだな」
ラヴェリテは、小窓の方を見る。
その時、エイクスがスピーカーから声をかけてきた。
「キャプテン・ラヴェリテ。先程から誰とお話しでしょうか?」
「誰って、この船の……あれ?」
「ケイシー? どこ?」
「ケイシーとはケルシー・ルー大尉のことですか?」
「うん」
「ケルシー・ルー大尉は、本艦の戦術行動士官だった方です」
「さっきまでここにいたのに」
「それはありえません。大尉は、既に亡くなっています」
「死んでる……? すると彼女は精霊ではなく、ゆう……」
「それより、キャプテン・ラヴェリテ。あなたにお伝えしたい事があります」
その時、部屋の扉が開いた。
「あなた以外にも、この海域で救助した方がいるのです。先程、この部屋においでくださるようお願いしたしました」
その時、扉が開き、誰かが入ってくる。
それは若い男だった。笑顔でラヴェリテに近づいてくる。高貴な人物らしく立ち振舞に品の良さを感じる。そしてラヴェリテにはその人物に見覚えがあった。
そうだ! ラングドッグ号で見送りをした時だ。
「私は、帝国皇子エディス・グリフィンと申します」
若者は、そう言ってラヴェリテに向かってお辞儀をした。
「エディス・グリ……えーっ! エディス殿下!」
ラヴェリテは目玉が飛び出るほど驚いた。
その人物こそは、自分の国も皇子だったのだ。
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