第25話 大計画&大会戦
クイーンとの協議の結果、コウたちは一つの作戦を考えた。
一気に戦争を終わらせたいと考えているキングのことだ。魔族の前線基地であるフランメに兵力を集中させてくるであろう。
機械族もそれに対応するためにボーゲンの兵力を増強する。
戦いは今までにない大会戦となるはずだ。
この大会戦を指揮するには凡庸な指揮官では負けてしまう。キング自身が指揮するか、ナイト、ビショップあたりが出てくる。
さらに、キングは攻める事を好む。フランメに篭城するなど考えもしない。
つまり、決戦は野戦になる可能性が高い。
「そこが、狙い目だな」
コウはテーブルの上に置かれた地図を指差す。指の先にはフランメ、と書かれた村があった。
「キングが野戦に出ている間に、俺たちの手でフランメを落とす」
コウたちがフランメを陥落させた場合、すぐにクイーンの声明を出す。フランメに残っていた魔族や、キングに心から心服していない魔族はクイーンに恭順を示すだろう。これがコウたちの兵力になる。
キングからしたら帰る場所を失ったことになる。前方に機械族、後方にはクイーンを擁立したコウたちがいるのだ。
できれば、その場でキングの軍勢を壊滅させておきたい。それができないとしても、ダメージを与えておかなければすぐにキングは復活してくるだろう。
機械族への配慮も必要だ。フランメを占領したとして、機械族はどういう行動を取るかはわからない。そのため、あらかじめ工作をしておく必要がある。
コウたちがフランメを陥落させると同時に、機械族への停戦を申しいれるのだ。一時的な同盟である。
普通に考えるなら、不可能だろう。しかし、コウがイリスとして機械族の内部に侵入し、意見を同盟する方向に誘導する。それができればチャンスはあった。
「これが、起死回生の一手だ」
「成功しますでしょうか」
「まあ、現時点では成功率十パーセント、ってとこだな」
成功率一割。とても作戦と言えるような代物ではない。少なくとも五分五分のところまで持っていかなければ作戦とは呼べないだろう。
「心配するな。今言ったのは何も用意できずに今すぐ作戦を開始した場合だ。成功率ってのは、俺たちの手で上げるものだ」
シャーロットたちは真剣な表情でコウを見つめる。
ここまで一緒に戦ってきて、シャーロットたちのコウへの信頼感は絶対的なものへとなってきている。コウについていけば成功する。そういう考えがシャーロットたちの頭の中にはあった。
「まずは情報収集だ。機械族、魔族、何でもいい。会戦が始まるまで情報を集めろ」
「師匠はどうするのですか?」
「変装してハロルドに接近する。機械族の長はハロルドだ。きっと今度の会戦にもハロルドが出てくるだろう」
「まさに天下分け目の合戦でござるな」
その後、各自はそれぞれの仕事に取り掛かった。
コウたちに残された時間は少ない。その残された少ない時間でどこまでできるのか、そこが腕の見せ所だった。
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会戦の日は来た。キングは五千の兵を率いてフランメに到着した。対するハロルドは六千の兵を率いてきている。双方ともにほぼ全兵力を投入してきたようだ。
コウの予想通り、キングは野戦をする様子を見せる。フランメとボーゲンの間の平野に陣を張り、兵をまとめていた。
ハロルドも同様だ。
事態は一触即発の様相を呈してきており、いつ会戦が始まってもおかしくない。
そんな中、コウの変装後の存在、イリスはハロルドの隣にいた。ユメにハロルドを紹介してもらい、様々な弁論術で信用を勝ち取ったのだ。
「イリス君。リーン博士が動けない以上、君だけが頼りだ」
「お任せください。必ずや魔族の軍勢を打ち破ってみせます」
イリスの隣にはすでに変身したユメがいる。ユメの表情は優れず、平野に広がる魔族の軍勢を悲しい目で見ていた。
「ユメさん、どうしたのですか?」
「え?」
「なんだか、悲しそうな目をしていましたよ」
「そ、そんなことないです。今から戦闘が始まるんですから、やる気に満ち溢れていますよ」
ユメは笑っていたが、その笑顔の裏には何かが隠れている気がした。
(魔族と、私たちは同じ? なら、なぜ私は戦っているの?)
ユメは迷っていた。イリスに言われたことが頭に浮かんでいるのだろう。しかし、そのイリスはハロルドの参謀としてこの会戦に参加している。コウにもこの戦争を終わらせると宣言してしまった。
もう何がなにやらわからない。ユメの頭の中はそんな言葉でいっぱいだろう。
その時、伝令が一つの書状を持ってきた。ハロルドはその書状を受け取り、中身を確認する。
「……なんだと!?」
「いかがなされました?」
ハロルドは黙って書状をイリスに手渡す。イリスはさっと書状に目を通した。
「これは、コウという人物からの書状ですね。『自分たちが魔族の前線基地、フランメを陥落させ、後方を撹乱する。その間に機械族はキングを討て。我々に機械族と戦う意思はない。会戦が終われば、停戦を申し入れたい』と書いていますね。一時的な同盟を申し込んできているのかと」
「量産型V3システムを破壊しておいて、勝手な言い分だ」
ハロルドは、ペッ、とつばを吐き捨てた。それほどあのときの出来事は忌々しい思い出なのだろう。
「しかし、協力を申し込んできている以上、ここは受けるべきなのではないでしょうか。後方を撹乱してくれるのなら我が軍にも利益になります」
「あの男のことだ。何を考えているかわからんぞ」
「少なくとも、この会戦において裏はないかと。心配でしたら、停戦の会談は私が参ります」
「……イリス君がそこまで言うのなら」
「ありがとうございます」
ハロルドはすぐさまコウへの書状を書いた。一時的に協力する、という内容だ。
イリスは内心ほくそ笑んだ。これで計画の一段階目はクリアしたことになる。
あとはシャーロットたちがうまくフランメを落としてくれれば、作戦は成功したも同然だ。
(シャーロット、メアリー、右近、あとは頼んだぞ)
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一発の轟音が鳴り響いた。機械族が用意した大砲が火を噴いたのだ。砲弾が魔族の群れの中に落ち、破裂する。
これが開戦の合図となり、戦闘が始まった。
まずは遠距離からの撃ち合いだ。機械族は鉄砲、弓矢、大砲などを放っていく。魔族は火や雷の魔法で応戦する。
遠距離からの攻撃が終わると接近戦だ。お互いに肉薄し、剣や接近戦用の魔法でぶつかり合う。
時間が経つにつれ、魔族の陣形が崩れだした。次第に後退し、魔法の勢いもなくなってくる。
「よし、今だ。全軍を前に出せ」
ハロルドは全軍に前進するように命じた。弱っている敵を一気に殲滅しようとしたのだろう。
「ハロルド様、いけません。これは罠です。今すぐ全軍を元の位置にお戻しください」
「何を言っている。敵は退いていくのだぞ。ここで追撃しなくてどうする」
「その撤退こそが罠なのです」
ハロルドは興奮しているのか、イリスの言う事を無視した。ハロルドの目から見て、魔族が罠を仕掛けているようには見えなかった。
(こいつ、戦いを知らないのか? あの冷静な退却の仕方は罠があると言っているようなものだろう。少なくとも、指揮は生きている。今追撃するのは危険だ)
イリスの不安は的中した。前進した機械族の側面から伏兵が現れたのだ。撤退していた魔族もいつの間にか反転して機械族の軍に討ちかかってきている。
機械族の軍は魔族に囲まれてしまった。
「なんだと!」
「ハロルド様、予備部隊を投入してください。今助けませんと先発部隊は全滅してしまいます」
「ぬっ、だが、予備部隊を投入すると私の守りが……」
イリスは信じられないものを見るような目でハロルドを見る。これほど愚劣な指揮官がいただろうか。
(この戦いに負ければ機械族は全滅してもおかしくないのだぞ。それを自分ひとりの命と天秤にかけるのか)
イリスは小さく舌打ちをした。
「ハロルド様の守りはV3システムを持っているユメさん一人で十分でしょう。そのためにユメさんを手元においているのですから」
「た、確かに」
ハロルドはユメを見て頷いた。ユメがいれば魔族が束になってかかってきても安心だ。ハロルドはそう考えている。
「よし、予備部隊を出せ。先発部隊を救出するのだ」
予備部隊は出発した。会戦は魔族、機械族が入り混じった混戦になった。もはや陣形や戦術などはない。力と力のぶつかり合いである。
(下手な戦い方だ。これでは余力を残している魔族が押し勝つ。後方で異常事態が起きない限り、な)
イリスは会戦を見ながら眉をひそめる。この程度でよく今まで力が拮抗していたものだ、と思った。
その時、機械族の兵士の悲鳴が聞こえた。イリスたちの近くである。
「な、何だ!?」
ハロルドが狼狽する。その様子にイリスの表情はさらに曇った。
(この男、威厳というものがなさ過ぎる)
そんな狼狽しているハロルドの目の前に、一人の女性が現れた。黒色の髪に怪しい紋様を刻んだ肌。クイーンの側近であった、ビショップだ。
「ま、魔族!?」
ハロルドは転がりながらユメの後ろに隠れる。なんとも情けない姿だ。
「魔族の重臣、ビショップですね」
「私の名前を知っていますか。あなた、何者ですか?」
「ただの、商売人ですよ」
イリスとビショップは対峙する。
ユメは迷いのある目で二人を見ている。魔族であるビショップと戦うことを躊躇しているのだ。
一陣の風が、戦場に吹いていた。
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イリスがビショップと対峙していた頃、シャーロットたちはフランメに侵入していた。魔族の兵士に変装し、街中を軍部へ向かって走っている。
クイーンはフランメの外で待機していた。安全が確保できるまで危険なまねはさせられない、という判断だ。
「今のところ、順調でござるな」
「油断しないでください。おそらく、キングは幹部をフランメに残しているはずです」
「その通りだよ」
「え?」
シャーロットたちが中央の広場を走っているとき、子供の声が聞こえた。
次の瞬間、どこから現れたのか、魔族の攻撃隊長、ナイトの姿があった。広場の中央で大仰にふんぞり返っている。
「攻撃隊長の僕が後方に残されるってのは不本意だったけど、面白い獲物が引っかかったんだ。キングには感謝しないとね」
「どうやら、目的の人物が現れたようですね」
「僕を探していたのかい? ちょうどいいや。手柄は、僕のものだね」
シャーロットたちは戦闘態勢に入る。ナイトを倒せばフランメは占領したも同然だろう。ここが正念場だ。
広場には、うすい霧が出てきていた。
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