第28話 キング&右近

 シャーロットたちはフランメを占領し、魔族の兵団を手に入れた。兵数としては二百と少なかったが、キングの後方を撹乱するには十分だろう。


 クイーンの護衛に五十の兵を残し、シャーロットたちはフランメを出撃した。兵数は百五十である。


 戦況を有利に進めていたキングの後方にシャーロットたちが現れた。キングの軍勢は機械族の軍勢と挟み撃ちにあい、混乱した。



(シャーロット、やったか)



 イリスは大きく頷き、ハロルドに全軍を突撃させるように献策する。



「そうか、あの男、約束を守ったのだな」



 ハロルドは大きな声で笑い、全軍に突撃命令を出した。


 キングの軍勢は壊乱し、散り散りに逃げていく。前後からの攻撃に戦意を保てなくなったのだ。


 シャーロットたちは逃げ出した魔族の中を突き進んでいく。目指すはキング本人だ。


 ここでキングを逃せば魔族はキングに支配されたままである。クイーンも見つけ出して処刑しようとするだろう。



(それは何としても避けねばならないでござる)



 右近は刀を引き寄せて走った。


 兵の指揮はシャーロットとメアリーに任せてある。右近は先行し、キングを足止め、可能なら殺害するつもりだ。


 こうしている間にもキングの軍勢は崩れ、機械族は迫ってくる。早くキングを見つけなければこの混乱に乗じて逃げられてしまうだろう。



(どこに、どこにいるでござるか)



 右近は左右を見渡しながら走った。クイーンに教えてもらったキングの特徴を頭に浮かべつつ、戦場を駆け回る。


 そして、ついに見つけた。



「いたでござる!」



 大柄な体に大剣、顔には大きな傷があった。クイーンから聞いた特徴のままである。キングだ。


 キングは戦場から逃げようともせず、まっすぐ機械族の本陣を睨んでいた。大剣を地面に突き刺し、わなわなと手が震えているようにも見える。



「魔族の王、キング殿でござるな」



 右近はキングの前に躍り出る。後ろから不意打ちで倒すなどは考えもしなかった。



「そうだ」


「拙者は万永右近。クイーン殿の、親衛隊でござる」


「ふん、無能な姉の腰巾着か。何の用だ」


「無能、でござるか」


「無能だろう。この世で何が悪かと言われれば、それは無能な権力者だ。権力者が無能なおかげで、多くの部下は苦しみ、そして死んでいく。俺の姉は無能な権力者の典型だった」



 キングはドンッ、と大剣で地面を突いた。衝撃が右近にまで伝わってくる。



「その姉のせいで戦争は長引き、多くの魔族の命は散っていった」



 キングは右近のことなど意に介していないようで、まっすぐに機械族の本陣を見ていた。



「もう一度訊こう。その無能の部下が何の用だ」


「キング殿の命を、もらいにきたでござる」


「ふん」



 キングは面倒だ、といわんばかりの動作で大剣を担ぐ。やる気はないが、戦う気はあるらしい。



「いいだろう。すぐに終わらせてやる」


「それは、こっちのセリフでござる!」



 右近は刀を抜き、キングに踊りかかった。キングは動かない。じっと右近の様子を見ているだけであった。




   ###




 ハロルドは全軍が見える丘のうえで笑っていた。すでに勝敗は決したと思っている。



「ははは、勝った。勝ったぞ。これでこの国は機械族のものだ」



 そのハロルドの様子をイリスが冷たい目で見ている。今回の件でこの男にほとほと愛想が尽きたようだ。



(何を自分の力で勝った気になっている。俺やシャーロット、ユメがいなかったら、負けていたのは機械族だぞ)



 イリスはハロルドを無視し、戦場を見る。



(さて、あとはキングをしとめられるか、どうかだが……)



 その時、戦場に暗雲が立ち込め、雷が落ちた。あまりの衝撃にイリスもハロルドも戦慄する。



「な、何!?」



 落雷があったところは戦闘の中心地だ。今の一撃で戦っていた魔族も機械族もほとんどが地面に倒れ伏した。


 その中でただ一人、悠然と戦場に立っている男がいた。



「あれは……」



 イリスが見たのは大柄な体に大剣を担いでいる男、キングだった。キングの足元には黒焦げになった右近の姿もある。



「ふん、初めからこうしていればよかった。多くの部下を死なせず、私一人で機械族と戦えば被害も少なかっただろう。私には、それができる!」



 キングは大剣を振り上げ、イリスたちがいる丘のうえを睨む。明らかに攻撃の意思があった。



(まずい!)



 イリスは走り出した。確信はなかったが、身の危険を感じたのだ。



「ハロルド様、伏せてください」


「何を……」



 キングは大剣を振り下ろし、そして叫んだ。



「フレイム・バースト」



 巨大な火の玉がイリスたちを襲う。


 火の玉は丘の上をかすめ、イリスたちの上空で爆発した。



「何て威力」



 イリスの顔は青ざめる。これほどの力があるならばキングに軍勢など必要なかったのではないか、とすら思える。



「ちっ、外したか」



 キングはもう一度攻撃する態勢に入る。力をため、大剣を振り下ろした。



「フレイム・バースト!」



 今度は先ほどよりもひとまわり大きい。巨大な火の玉が再びイリスたちを襲う。



(今度は、逃げ切れない!?)



 イリスは死を覚悟した。これほどのエネルギー量を持つ魔法を食らってしまえばひとたまりもないだろう。強大な力の前には小細工など無意味だった。



(もう、ダメか!)



 イリスがあきらめかけた、その時、巨大な火の玉の前に飛び出してくる人影があった。



「フリーザープレッシャー!」



 その人影は氷の塊を巨大な火の玉にぶつけ、相殺した。キングの目の前に降り立ったその姿は、まるで天使のような姿をしていた。


 キングはその天使のような人影を睨む。急に現れた強敵に警戒しているようだ。



「……貴様、機械族か」


「違います」


「では、魔族か」


「それも違います」



 天使のような人影は剣を構え、高々と言いはなった。



「私はユメ。正義の執行者、羽白ユメです!」

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