第6話 ボーゲン&夜襲
作戦は決まった。コウとシャーロット、二人で協力して作った作戦だ。しかし、その作戦書を見たメアリーは驚いた。
「何ですの……、これは」
特に驚いたのはその人数。コウ、シャーロット、メアリーの三人だけで要塞化されたボーゲンを落とすというのだ。
「コウ、あなた、頭がおかしいのではありませんこと?」
「ここにいる魔族はあてにならない。どうせ俺のことなど信用していないだろう。ならば、少しは俺の言うことを聞いてくれるお前たちで十分だ」
「十分ではありませんわよ! 拠点をたった三人で落とすって、考えることが狂っていますわ」
メアリーは視線をシャーロットに移す。シャーロットも同意してくれるだろうという期待の目だ。
「シャーロット、あなたも何か言ったらどうですの?」
シャーロットはメアリーから視線を外す。この作戦にはシャーロットも一枚噛んでいる。どちらかといえば、シャーロットもコウの作戦に賛成なのだ。
「もう! 何ですの? この空気は!」
メアリーは地団駄を踏んで抗議する。その様子は子供そのものだった。
「メアリー、そんなに嫌ならお前はこの作戦から外れてもいい。作戦ならもう一度立て直せば済むことだ」
コウ、はじっとメアリーを見る。その視線にメアリーは少々たじろいだ。
「べ、別に嫌とは言っていませんわ」
「なら、作戦に参加するんだな?」
「……わかりましたわよ! 参加しますわよ!」
メアリーもコウの作戦に参加することが決まった。とても成功するとは思えない。メアリーにはそう思える作戦が始まった。
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その日の深夜、コウたちはボーゲンを見下ろせる山間部にいた。
ボーゲンは三方を山に囲まれた村である。そこに壁を作り、兵を駐屯させて要塞化したのが、今の姿だ。
夜になると闇夜を照らす輝かしい光が村を覆う。機械族が発明した照明らしい。
「まずは、あの照明を消そう」
機械族が発明した照明は電気のようなもので、発電所のような施設が村の中にある。そこからケーブルを使って村中にエネルギーを送っているのだ。
その発電所に、水滴が溜まる場所があった。普段は人の目に付かない、奥まった場所だ。その近くに、エネルギーを送るケーブルがある。
「シャーロット、やってくれ」
「わかりました」
シャーロットは短剣を握り締め、もう片方の手で手鏡を取り出す。
「ミラー・ハンド」
シャーロットの手は短剣ごと手鏡の中に吸い込まれ、ケーブル近くの水溜りから飛び出した。
シャーロットは器用に短剣を使い、ケーブルを切った。
ふっ、とボーゲンの光が消える。村全体からはどよめきが聞こえたような気がした。
「よし、次!」
「はい。もう一つ、ミラー・ハンド」
シャーロットは手鏡から短剣を抜き取ると、もう一度手鏡の中に短剣を突き入れた。今度は別の場所に短剣を移したのだ。
その場所はコウたちがいる山とは別の山。その山中に一本のロープが張り巡らされている。
ロープの近くには手鏡が設置されていた。そのロープをシャーロットの短剣が切った。
それと同時に爆発音が鳴り響く。ボーゲンの倉庫から盗み出した火薬が山中で爆発したのだ。
当然ながら、盗み出すことができたのはシャーロットの能力による。先ほどのロープはその爆発を引き起こすスイッチであった。
「シャーロット、次!」
「はい!」
シャーロットは同じように残りの二つの山でも爆発を起こした。三つの山ではたちまち火災が発生する。
「最後、とどめだ」
「はい! ミラー・ヴォイス」
シャーロットは手鏡に向かって叫びだした。その叫び声はボーゲンのいたるところで響き渡る。
「火事だ~」
「魔族が攻めてきたぞ!」
「大軍に囲まれている。早く逃げろ!」
シャーロットは声色を変えてボーゲンの村に声を送った。その声にボーゲンの人々は驚いた。
光が消えて不安になっていたときだ。さらには山では爆発が起こり、敵が攻めてきたとの叫び声が聞こえる。混乱するな、というほうが無理であろう。
ボーゲンの村は恐慌状態に陥った。人々が逃げ惑い、駐屯していた機械族の兵士が走り回る。
「よし。シャーロット、良くやった」
シャーロットははにかむように笑顔を見せた。誉められたことが素直に嬉しかったのだろう。
「メアリー、出番だ」
「やっとわたくしの番ですの? やるからには、全力でやりますわよ!」
メアリーはポケットからありったけの人形を取り出した。数にして能力の限界である五十体はいるだろう。
「全員で行きなさい。いでよ、木偶人形!」
五十体の人形はみるみる人間大の大きさになり、メアリーの前に並んだ。
「メアリー、人形たちを突っ込ませろ。俺たちも人形の後に続くぞ」
「言われるまでもありませんわ」
メアリーが出した人形たちは一斉に走り出す。複雑な動作ではないので、メアリーにも人形たちを制御できた。
目指すは恐慌状態にあるボーゲンである。後ろからはコウたちがついていく。
ボーゲンにいる兵士はまとまって突撃してくる人形たちを見た。炎を背にして突撃してくるその影は、実際の十倍にも二十倍にも感じられただろう。
「突撃ー!」
コウは木刀を片手に大声を出して指揮をする。声で機械族の士気を下げるためだ。木刀はここに来る前にフランメで準備した。
ボーゲンの兵士は戦わずして逃げ出した。山火事が起こっていない残りの方角から次々とボーゲンの人々が逃げて行く。
少数だが、コウたちに立ち向かってくる機械族の兵士もいた。しかし、指揮が取れていない上に、浮き足立っている。兵士たちはバラバラに討ちかかってきたのだ。
コウたちは一人を三人で囲むように各個撃破していく。これならばいくら戦闘用の能力がない三人でも負けることはなかった。
「逃げる奴は追うな。討ちかかってくる奴だけ相手をしろ」
「わかっていますわ」
コウたちはそのままボーゲンの中に入り、村人を追い回した。
このときには機械族の兵士はほとんどが逃げ出していた。村人を守ることよりも、自身を守ることを優先したのだろう。
(機械族と言っても、こんなものか)
「怪我人は保護しろ。兵士がいたら武装は解除させる。夜が明けるまでが勝負だぞ」
コウたちは動き回った。
この日、機械族の前線基地であるボーゲンは陥落した。そのボーゲンを落としたのは、たった二人の魔族と一人の異世界人だった。
コウの数日中にボーゲンを落とす、という発言は、このようにして実現したのである。
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