第34話 軍神&武神
シャーロットは全軍を前進させた。しかし、全軍と言っても数十人の兵だ。七千を超える大軍の前では蟻が巨象に挑むも等しい。
「私たちの目標は敵の指揮官です。クイーンとハロルド、二人の命を奪えば、私たちの勝利です」
シャーロットは雑魚には目もくれず、指揮官の首を狙うことにした。寡兵で大軍に勝つにはそれしか方法はないだろう。
だが、指揮官は大軍の中心にいることが多い。そこまでたどり着く方法が必要だった。
「全軍、突撃―!」
シャーロットたちは同盟軍に突撃していった。まるで作戦というものを感じさせない。無謀な行動に見えた。
シャーロットたちはすぐに押し返された。中央に進むどころか、最初の壁を突破することすらできない。
「退け、退けぇ」
シャーロットはすぐに退却の命令を出した。全軍は規則正しい動きで退却していく。
同盟軍は退却していくシャーロットたちを見て勢いづいた。我先にとシャーロットたちを追っていく。
しばらく退却したあと、シャーロットたちは立ち止まった。
「もういいでしょう。十分ひきつけました」
シャーロットはそばにいたメアリーを見る。メアリーは今からやることを十分理解しているようだ。
「メアリー、お願いします」
「任せなさい。出番ですわ、わたくしの木偶人形」
メアリーが叫ぶと、同盟軍の後ろ、側面、様々なところから槍を持って武装した人形が現れた。
同盟軍は人形に驚き、混乱した。
人形は槍をまっすぐ突いてくるという単純な動きをした。しかし、五十もの人形が同じ動きをするのだ。効果は絶大だった。
ついには同盟軍の前線部隊は壊乱し、後方に向かって逃げ出した。
「今です。逃げる兵は斬らずに、私たちは前に進むのです」
シャーロットたちは再び前進した。今度は数十人の兵ではない。人形が五十。さらには逃げる同盟軍もあわせれば数百人の兵が中央に向かって突き進むことになる。
「何だ、何が起こっている」
ハロルドは前線で起こっている騒ぎを聞いて狼狽した。この状況で負けるはずはないのだ。だが、言い知れない不安がハロルドを包み込む。
「こうなったら、ユメ君、君の出番だ」
「いいのですか?」
「かまわん。ここまできたら最後は力押しだ」
ハロルドはユメから奪っていた白い宝石を返した。ユメはすぐさま変身し、まっすぐコウがいる王宮を見る。
「先生、今行きます」
ユメは跳び上がり、大軍の上を進んでいった。
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「進め、進めぇ!」
シャーロットは叫びながら走る。混乱は次第に波及していき、中央に向かう人数は増えるばかりだった。
その時、シャーロットの目の前にメタリックな服装をした女性が現れた。
「あなたは、ユメさん!?」
「あなたは、先生をたぶらかした魔族ですね」
シャーロットは短剣を取り出して身構える。戦闘は得意ではないが、今はそのようなことを言っている場合ではない。
「あなたの相手はあとです。今は、先生のところへ」
ユメはシャーロットの横を通り過ぎていく。このままではユメがコウのもとへたどり着く。そうなればどのような不測事態が起こるかわからない。
「右近さん!」
「了解でござる」
右近はユメの前に躍り出て、有無を言わさず斬った。だが、ユメも反応したらしく、右近の刀を剣で受け止めていた。
「シャーロット殿、ここは拙者に任せて進むでござる」
シャーロットは黙って頷いた。ここで時間を使っていては作戦が台無しになる。シャーロットたちが前進できるのは同盟軍が混乱しているわずかな時間だけなのだ。
「右近さん、お願いします」
シャーロットは右近を置いて前進した。残ったのは右近とユメである。
「おぬしと戦うのはこれで三回目でござるな。結果は一勝一敗。次で決着といこうではござらぬか」
「そうですね。邪魔する人は、誰であろうと、斬り捨てるのみです」
二人は同時に地面を蹴った。キンッ、と金属の音が響く。まるで前回の戦いの再現のようだった。
違うところがあるとしたら、それは、結果だろう。
「ぐっ、ま、まさか……」
右近は胸を押さえて倒れこむ。生命の源である赤い魔石が傷ついたのか、右近が立ち上がってくることはなかった。
「ヒーローの意地と、男の意地は違うのです」
ユメはその言葉を残すと走り出した。
コウがいる王宮は、目の前だった。
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