第4話 王都&軍部
コウはシャーロットたちに連れられて魔族の王宮がある王都へとたどり着いた。
シャーロットたちは報告がある、と言って軍の施設に入っていった。代わりにコウを王都に案内する役目を担ったのはビショップという女性だった。
「時の旅人、クイーン様の前では失礼のないように」
冷たい印象の女性だった。黒色の髪に怪しげな紋様を肌に刻んでいる。魔術師や占い師、という印象が当てはまるだろうか。
王都について質問しても、
「余計なことは話しませんように」
と言って相手にしてくれなかった。
(これならもっとシャーロットたちに色々と訊いておくべきだったな)
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王座の間に着いた。
コウは王座のはるか前に立ち、ビショップは王座の隣へと向かった。
王座には赤い髪をした女性が座っている。顎を手の甲に乗せ、口元をゆがめながらコウを見ていた。
王座の周りにはビショップのほかに、
大柄な男、
とんがり帽子をかぶった子供、
フードで全身を覆った人物、
がいた。全員怪しさがにじみ出ている。
(これは、来るところを間違えたんじゃないのか?)
コウは不安に思いながら王座に座っている女性の言葉を待つ。とにかく今は相手の出方をみるしかなかった。
「時の旅人。確か、コウ、とかいったかしら?」
「はい」
「私はクイーン。魔族を統べる女王よ」
「お会いできて、光栄です」
コウはひたすら低姿勢で通そうとした。この手の場面に出くわしたことはないが、そのほうが良いだろうと判断したのだ。
「それで、コウは私に何か用なのかしら?」
「はい。私はこことは違う世界から連れてこられました。できることでしたら、すぐにでも元の世界に帰りたいのです」
クイーンがニヤニヤしながら頷く。周りにいる側近たちもなにやら笑っているように思えた。
(何だ、こいつら)
コウは不快だったが、ここで不快感を表したら低姿勢で通してきたことが無駄になる。今はじっと我慢した。
「いいでしょう。我々魔族にはあなたの世界に干渉する術があるわ。いつでもあなたを元の世界に戻せることでしょう」
「でしたら……」
「ただし!」
コウの発言は止められた。どうも嫌な予感がする。
「現在、我が魔族と機械族は戦争をしています。この戦争が落ち着くまであなたを元の世界に帰すわけにはいかないわね」
「それは、なぜですか?」
「理由は二つ。あなたの世界に干渉するには莫大な魔力が必要となる。戦争している状態で貴重な魔力を使うのは得策ではないわ」
確かに、とコウは納得した。戦争に物資やエネルギーは必需品だ。難民保護という慈善活動は戦争中の国にできるものではない。
「もう一つは?」
「あなたが、機械族のスパイであるかもしれない、ということよ」
「……なるほど」
機械族のスパイが魔族に大量の魔力を使わせるためにスパイを送り込む。それには異世界からやってきた、という時の旅人に扮するのが一番だろう。
(戦略としてはありえる話だな)
コウは反論できなかった。大量の魔力を使えないという話も、スパイとして疑われている話も、魔族の側に立ってみれば当然の話だった。
(存外、このクイーンという女は優秀なのかもしれないな。それとも、側近の入れ知恵か?)
だが、このままではコウは元の世界に帰れない。それどころか、スパイとして処刑されてしまうかもしれないのだ。
クイーンたちは笑っている。これはコウを陥れようとしているのではない。利用しようとしている笑みだ。
(つまり、俺に何かをさせようとして元の世界に帰すことを渋っているのか)
そうとわかれば話は早い。
「それでは、私は何をすれば元の世界に戻れるのでしょうか?」
「理解が早くて助かるわ」
クイーンは拍手をする。使えそうな人材を見つけて嬉しい、といったところか。
「簡単に言えば、あなたに機械族との戦争を手伝って欲しいのよ。功績しだいではすぐにでも元の世界に帰してあげるわよ」
「私は魔法など使えませんが?」
「かまわないわ。死んだら、それはそれで利用してあげるから」
クイーンはぞっとするような笑みを見せた。自然とコウの表情が曇る。
(やはり、魔族を名乗るだけのことはある、か)
コウはしばらく黙って考えた。ここでクイーンの提案を受け入れれば戦争に借り出されることになる。しかし、断れば元の世界には帰れないだろう。
(なら、答えは一つか)
コウはまっすぐクイーンの目を見た。
「わかりました。私が、魔族を勝利へと導きましょう」
一瞬、どよめきが起こった。コウの発言が自信に満ちた堂々としたものだったからだ。渋々受け入れるかと思ったら、まさか魔族を勝利に導く、などと言う。
(これは、思ったよりも大物かしら)
クイーンの笑みは大きくなる。
この瞬間、コウは魔族として戦争に参加することになった。
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魔族と機械族の戦争に参加することになったコウは情報を収集した。軍部に行っても新参のコウには重要な情報を教えてくれるはずもない。
ただ、地図を手に入れることができた。この世界、というよりこの国は島国だ。大きな湖を包むように土地が広がっていた。
魔族と機械族は東西に分かれて住んでいる。魔族の住処は西、機械族は東である。
戦争は東西の境目で起きていた。
魔族の拠点はフランメという村にある。村を要塞化して使用しているらしい。
機械族の拠点はボーゲンという村だ。こちらも小さな村を要塞化して魔族に対抗している。
(つまり、今はフランメとボーゲン、どちらを先に落とすか、という勝負になっているわけか)
コウはここまでの情報で動き出した。これ以上、王都で情報を収集しても新鮮な情報は集まらない。情報は前線に出ないとわからないことが多いのだ。
コウは軍部に赴いた。
軍部の一番奥には大きな机が設置されている。その机の奥から少しだけ何かが飛び出していた。近づくとそれがとんがり帽子の一部だとわかる。
「ナイト様、お話があります」
「ん?」
机の奥からとんがり帽子をかぶった子供が顔を出した。
クイーンとの謁見のときに側にいた子供だ。この子供が軍部では攻撃隊長を任せられている重役なのである。
名前を、ナイトという。
「ああ、時の旅人か。ええっと、名前は何だった?」
「コウです」
「ああ、そうそう。コウね。どうしたの?」
相手は子供だが、魔族の重役だ。コウは我慢して敬語を使っている。
「私をフランメに送ってください。ボーゲンを落としてみせましょう」
「……は?」
ナイトは口を大きく開けて固まってしまった。この異世界の住人は頭がおかしいのではないか、とでも思ったのだろう。
「私は本気ですよ。数人、人をいただければ数日中に結果を出せるでしょう」
「ふーん。それで、数人って誰が欲しいの?」
「シャーロットとメアリーをお願いします」
「シャーロットとメアリー? 誰それ」
どうやらシャーロットとメアリーは軍部では有名ではないらしい。使える魔法もたいしたことはない。おそらく雑兵扱いを受けているのだろう。
「まあ、いいや。そんな奴がいるなら勝手に持っていってよ。本当に数日中にボーゲンを落とせるならラッキーだしね。君が死んでも、そのシャーロットとメアリーが死んでも大した痛手じゃない。僕に損はないからね」
「ありがとうございます」
コウは大きく頭を下げた。念のため、今言ったことをナイトに書面に残させた。後でこの話をうやむやにされてはたまらないからだ。
(さて、功を立てたくて無理を言ってみたが、通るものだ。実際に功を立てられるかは俺次第だが、拠点の一つでも落とせば元の世界に帰してもらえるだろう。それ以上関わるのは、ごめんだな)
コウはその日の間にシャーロットとメアリーを連れて王都を発った。シャーロットとメアリーにとっては寝耳に水だっただろう。
コウの戦いは始まったばかりだ。
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