第23話 破壊&反乱
ユメは剣を構え、コウと対峙する。コウは腰に差していた木刀を構えた。
ユメは変身している。おそらく、リーン博士を拘束した際に落とした白い宝石を拾ったのだろう。
「なぜユメがここにいる」
「私は修理してもらっていた宝石を受け取りに来たのです」
「こんな夜中にか?」
「リーン博士はいつでも遊びに来ていいと言っていました」
そう言っていたとしても、本当に夜中に遊びに来る奴はユメくらいなものだろう。非常識にもほどがある。
(だが、その非常識な行動のせいでピンチになったか)
ユメのV3システムの修理は終わっていた。ユメの変身システムが問題なく起動しているのがその証拠だ。
「ユ、ユメ君、助けてくれ」
ハロルドは情けない格好でユメの後ろに隠れる。機械族の長としての威厳もあったものではない。
「リーン博士を傷つけたのは、先生ですね」
「……ああ、そうだ」
ユメの目は大きく見開く。わかっていたが、実際に本人の口から聞くと驚きも大きい。
「なぜです。なぜ先生がこんな事をするんですか!」
「お前に話しても、理解できないだろう」
「それは、私が子供だから、ですか?」
「そうだ」
ユメの表情が悔しさに歪む。またしても子ども扱いを受ける。コウと同じ土俵に立ちたいユメにとっては耐え難い屈辱だ。
「ユメ、こいつらは元の世界に帰れる方法を持っている。お前はそれを使って今すぐ帰れ」
「嫌です!」
コウの目が鋭くなる。ユメのわがままに苛立っているのだろう。
「例え本当に帰ることが出来るのだとしても、魔族と機械族の戦争を終わらせるまでは、私は帰りません」
「戦争のことは俺に任せろ。子供のお前が心配することではない」
「また子ども扱いですか……」
ユメは歯噛みする。ここまで子ども扱いされれば意地でもコウの言うことは聞きたくない。
「ユメ君。こいつは侵入者だ。リーン博士もやられた。何とかしてくれ」
ハロルドがユメの背中に隠れながら懇願する。ユメは怒りの表情で頷いた。
「先生、話は、後でゆっくりとしましょう」
「いや、今日はあと一つ、仕事をしたら帰らせてもらう」
「私が、帰らせません!」
ユメが地面を蹴った。一瞬でコウの目の前に進む。
「ちっ」
コウは木刀でユメの剣戟を切り払いながら後退する。身体能力では劣っていても、技術面で何とか防いでいるようだ。
だが、それがいつまでも続くはずはない。コウはすぐに壁際まで追い詰められてしまった。
ユメの剣がコウに突きつけられる。
「先生、降参してください。先生を斬りたくはありません」
「残念だが、それは無理だ。それよりも精神を乱すな。お前は動揺すると剣筋がぶれる癖があるからな」
「こんなときでも、剣道の指導ですか!」
ユメはコウに向かって剣を突き出す。木刀を狙ったつもりだった。武器をなくせば、コウも観念すると思ったのだろう。
ユメの突きはぶれた。コウの言ったとおり、精神が乱れていたようだ。剣筋がよく見え、易々と避けることが出来た。
コウがユメの突きを避ける際、ニヤリと笑った気がした。
「俺の、勝ちだ」
「え?」
ユメの剣は壁に突き刺さった。
次の瞬間、バチッ、と壁から火花が出た。それと同時に研究室内の照明が消えた。
(この建物の配線図も頭に入っている。どこにケーブルが通っているかがわかれば、切断することも簡単だ)
暗闇でコウが逃げる足音が聞こえる。何かを破壊する音も聞こえてきた。
「な、何が起こっているんですか」
「は、早く明かりをつけろ」
ハロルドが狼狽して何かにつまずいているとき、研究室内に明かりが戻った。予備電源に切り替わったのだろう。
「先生は!?」
コウの姿はすでにそこになかった。ユメは感情のままに剣を地面に突き刺す。
「あ、ああ……」
ハロルドが見ているのはユメではない。倒れているリーン博士でもなかった。無残にも壊れていた機械群である。量産型V3システムのコンピュータが破壊されていたのだ。
コウが逃げる際に破壊していったのだろう。ハロルドの様子で目標に当たりをつけていたようだ。
「先生、あなたは一体……」
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コウが量産型V3システムのコンピュータを破壊したことにより、建物の外で戦っていた戦士たちの動きが止まった。
シャーロットたちはコウの作戦が成功した事を確信し、撤退の準備に入った。
退路を確保し、コウとともにシュベールトの街中に紛れ込んだのである。
量産型V3システムの破壊には成功した。これで当分、量産型V3システムを作ることはできないだろう。
コウたちはシャーロットたちが泊まっている宿屋に入り、成功を祝った。
「やりましたね、師匠」
「……ああ」
コウの表情は優れない。確かに作戦は成功したが、ユメとの関係は悪化してしまった。これではユメを元の世界に戻すことが遠のいたことになるだろう。
その後、コウはイリスに戻ってユメと同じ宿屋で過ごした。
ユメは元気がなく。イリスとも話す機会が減った。エドはそんなユメが心配なようで、元気付けようと苦心していた。
このような調子で数日経った。
イリスは街中で商売をしながら情報を集めている。シャーロットとメアリーもいつも通りの方法で情報収集だ。右近は宿屋で休んでいた。
そんな中、魔族も機械族も震撼させるような大事件が起こった。
イリスはすぐにシャーロットのいる宿屋へと向かい。真偽を問い質した。
「シャーロット、これは本当か!?」
イリスの手には先ほど客に扮したメアリーから渡されたメモが握られている。
「本当です。今、王都は混乱しています」
イリスの顔は青ざめる。
機械族にもこの事件は伝わっているらしく、街中は大きくざわついていた。
クイーンの弟、キングが反乱を起こしたのだ。クイーンは王座を奪われ、行方不明。側近であるナイトとビショップはキング側についた。
「これから魔族は、どうなるのでしょうか」
シャーロットの疑問にイリスは答えない。呆然として窓の外を見ているだけであった。街の喧騒がとても遠くに聞こえた。
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