第24話 選択&クイーン

 魔族の反乱の概要は以下の通りである。


 魔族の女王、クイーンは機械族との停戦を画策していた。長年にわたる戦争で領内が疲弊してきたからだ。


 クイーンは機械族も同じ気持ちだろうと思い、機械族の長、ハロルドと話を進めていた。ただ、ハロルドは会談で時間を稼ぎ、量産型V3システムの完成を待っていたようだが。


 クイーンのやり方に憤りを感じた人物がいた。弟のキングである。キングはこの戦争の発端となった人物でもある。血の気の多い男だ。


 ナイトとビショップもクイーンのやり方に不満を感じていた。二人は、魔族の力を使えば戦争など簡単に終わらせることができる、なぜクイーンは全力で機械族の領地に攻めに行かないのか、と考えていた。


 キングはナイト、ビショップと結託し、兵を率いて王宮を取り囲んだ。攻撃用の兵をまとめていたのはナイトだ。兵を用意するには苦労しなかっただろう。


 クイーンの側近にルークという人物がいる。守備隊長を任されている人物だ。


 ルークはわずかな兵を率いて王宮を守った。しかし、多勢に無勢、王宮は一日も持たずに陥落した。


 クイーンは王都の外に逃亡、ルークはとらえられ、牢屋に入れられた。


 政権をとったキングはすぐに全魔族に宣言した。クイーンに代わり、キングが王になったのだ、と。


 魔族は動揺したが、ナイトとビショップがうまく抑えた。すぐにいつもの統制を取り戻し、今まで以上に強硬な政権が出来上がった。


 これが魔族内で起こったクーデターの概要である。




   ###




 コウたちは行き場を失った。コウたちの命令系統はクイーンにあった。キングとは面識がなく、クイーンのために働いていたコウたちが王都に戻ってもどのような扱いを受けるかわからない。



「完全に、孤立したな」



 シャーロットたちが泊まっていた宿屋。そこに変装を解いたコウがいた。時刻は深夜である。


 コウは椅子に座りながらため息をつく。シャーロットたちもテーブルを囲んで浮かない顔をしていた。



「このままでは俺たちは魔族、機械族の双方から狙われる。そこで、取れる道は三つだ」


「三つもあるのですの?」


「ああ、だが、どれも厳しい道なのは変わりない」



 シャーロットたちはコウに視線を集中する。ここが生死の分かれ目なのだ。真剣にならざるを得ない。



「一つ、機械族に降伏する」


「却下ですわ」



 メアリーが即座に拒否する。それほど機械族を嫌っているのだろう。



「まあ、そうだろうな。機械族に降伏し、保護を得られればいいが、得られなかったら死刑だ」


「それに、私たちは先日、機械族の研究室を襲撃しています。今降伏しても印象が悪いのでは?」


「ああ、だからこの案はないだろう」



 メアリーはほっとする。ブロンを殺した機械族に降伏するなど、例え自分が死ぬことになっても嫌だったのだ。



「二つ、キングに投降する」


「嫌でござるな」



 今度は右近が拒否する。



「なぜですか? 私たちは魔族ですよ? 無碍むげには扱わないと思うのですが」


「拙者はクイーン殿の親衛隊でござるよ? クイーン殿を追いやったキング殿につくということは、拙者の誇りが許さないでござる」



 右近は厳しい顔つきでコウを見る。このままキングに投降するといったら斬り殺されそうだ。



「まあ、そうだろうな。右近がいるせいで、キングは俺たちをクイーンの私兵だと思うだろう。戻れば、拷問だな」



 シャーロットはゴクリ、とつばを飲む。厳しい拷問を想像して戦慄したのだろう。



「三つ目はなんですの?」


「三つ目は、まあこれができるなら一番いいのだが、一番可能性が低いことでもあるな」


「前置きは言いでござる。早く話して欲しいでござるよ」



 右近は前のめりになって話を促す。



「三つ、クイーンを見つけ出し、第三勢力を作り上げる」


「そ、そんなことが可能なのですか!?」


「理論上は、可能だ」



 クイーンは魔族の前王である。まだクイーンに心を寄せている魔族も多いだろう。クイーンを擁立し、兵力を集めれば、キングにも機械族にも対抗できる。これがコウの考え出した三つ目の案である。



「それでござる!」


「ええ、それがいいですわ」



 右近とメアリーはすぐに賛同を示す。しかし、シャーロットは唇を指でなぞって考え事をしていた。



「しかし、そのクイーン様はどこにいるのでしょうか」


「そう、そこが問題だ」



 クイーンを擁立し、第三勢力を作るとしても、肝心のクイーンの位置がわからない。これではコウの作戦も絵に描いたもちだ。



「シャーロットの能力で何とかなりませんの?」


「む、無理ですよ。この国がどれだけ広いと思っているんですか。さすがにこの国全土を見ることなんてできません」



 コウたちは一斉にため息をつく。せっかく光が見えてきたと思ったのだが、その光に手が届きそうになかったのである。


 その時、バッ、と窓が開いた。風が吹き込み、書類が宙を舞う。荒れ狂う風はコウたちの視界を奪った。



「な、何だ」



 風が止むと、部屋の中には静かになった。一瞬の静寂が場を支配する。



「お困りのようね」



 部屋の隅から声が聞こえた。皆が一斉に声のしたほうを見る。



「相談なら、このクイーン様が乗ってあげてもいいわよ」


「ク、クイーン様ぁ!?」



 皆が驚嘆の声をあげる。まさかクイーンの方からやってくるとは思わなかった。コウたちは目を丸くしてクイーンを見ている。



「なぜ、クイーン殿がここにいるでござるか」


「なぜかって?」



 クイーンは意味深な笑みを見せる。この状況を楽しんでいるようだ。



「私はね、あなたたちに会いに来たのよ。光栄に思いなさい」


「私たちに? どういうことですか?」



 シャーロットは首を傾げる。自分たちがクイーンに会いたい理由はわかるが、クイーンが自分たちに会いに来る理由はわからない。


 しかし、コウは理解したらしく、軽く頷いている。



「なるほど、考えることは一緒だったか」


「え? どういうことですの?」


「つまり、クイーンも俺たちに力を貸してほしいと思っていた、ということだ」



 クイーンは王都を追われ、身を寄せる場所がなかった。魔族のほとんどはキングに服従してしまったからだ。


 このままでは命が危ない。そこで、まだキングに服従していない人物として、コウたちを頼ってきたのだ。


 兵数としては不安だが、実績を買われたのだろう。



「とにかく、これでキングにも機械族にも服従しなくて済みますのね」


「ああ、危険な状況なのは変わりないが、道は開けた」



 シャーロットたちの顔に笑顔が戻る。一時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだ。



(それだけではないな。うまくいけば戦争を終わらせることができる。戦争が終われば、ユメも元の世界に帰ることができるだろう)



 コウはこんな場合でもユメのことを考えていた。それだけユメには普通の生活を送って欲しいと願っているのかもしれない。



「それでクイーン、今すぐ今後のことについて話したいのだが」


「ええ、当然ね」



 クイーンも神妙な顔つきで席に座る。


 クイーンも加わった話し合いは朝まで続いた。


 魔族、機械族に所属しない、第三勢力が出来上がりつつあった。

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