第2話 黒スーツ&白兜
竜造寺コウは異世界へと飛ばされた。しかし、コウの精神は異世界でも冷静を保ったままだった。
山を見る、風を感じる、土を触る。五感を使って情報を集めたのだ。
(ここは、俺の知らない世界だ。異世界、というやつか?)
コウは半信半疑ながらこの場所が異世界であると判断した。理由はいくつかあったが、大きかったのは空に浮かぶ二つの太陽だろう。
異世界に来たと言うことは、この世界がコウのいる世界とどう違うのか、それを確かめる必要があった。
(さて、どうするか)
コウはあたりを見渡しながら考えた。
その時、風に乗って人の話し声が聞こえてきた。
「ん!?」
その話し声は普通ではなかった。なにやら争いごとのときのように、危機感と焦燥感が感じられる声だ。
(行ってみるか)
このままじっとしていても仕方がない。危険かもしれないが、今は行動すべきだ、と思ったようだ。
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異様な姿をした三人の男女がいる。中世ヨーロッパに出てきそうな服装をしていた。身長の高い順から、シャーロット、メアリー、ブロンと呼ばれている。
シャーロットはサラサラとした髪の毛が簡単にまとめられている。右目には眼帯をしており、聡明そうな顔つきだ。
メアリーの身長は低い。小学校高学年から中学生ぐらいの大きさだろう。髪は金色に輝いており、どこか気品を感じられる。
ブロンはメアリーとどことなく似ている。おそらく姉弟なのだろう。同じ金色の髪に気弱そうな顔つき。ブロンが弟と見て間違いない。
そんな三人だが、現在危機に陥っている。大勢の人間に取り囲まれているのだ。
「メアリー、ブロン、私の後ろに隠れて」
シャーロットがメアリーとブロンを庇うように前に出た。手には短剣が握られている。
シャーロットは自分たちを囲んでいる人々を見た。白い兜をかぶり、手には弓や剣を持っているのが見えた。
取り囲んでいる人数はざっと十人。シャーロットたちは三人である。
「これは、さすがにピンチですね」
シャーロットに冷や汗が流れた。もはやこの状況を打開できる術はないように思える。
白兜の兵士が囲みをじりじりと縮める。それと同時にシャーロットたちの緊張感が高まった。
その時、
「ちょっと待て」
白兜の兵士の後ろから声がした。シャーロットたちを含め、皆が一斉に声のしたほうを向いた。
そこには堂々としたコウの姿があった。この状況を理解しているのか、発言に迷いがない。
「お前たち、何をしている」
白兜たちは小声で話し合う。シャーロットたちの仲間かもしれない、とでも話し合っているのだろうか。
(そうです!)
シャーロットは一つの策を思いついた。うまくいけばここを抜け出せるかもしれない。
「ダニエル、助けに来てくれたのですね。お願いです。こいつらをやっつけてください」
シャーロットの視線はコウに向いている。コウは不思議そうにその目を見ていた。
(ダニエル?)
白兜たちはシャーロットの視線を感じ取る。一気にコウに向かって敵意を表した。
「……なるほど、そういうことか。いい作戦だ」
コウはシャーロットが思いついた作戦を理解したのか、少し笑ったようにも見えた。
「その作戦、乗ってやるよ」
白兜たちは完全にコウを敵だと判断した。シャーロットの発言が引き金だ。これではコウは白兜たちと戦わなくてはならない。その隙にシャーロットたちが逃げる、という作戦だろう。
その中でコウはただ白兜とシャーロットたちを見ていたのではない。ある人物を探していたのだ。
(ああ、あいつだな)
白兜の中でも持っている剣が違う。胸にも赤い印があった。白兜たちの話し声もその赤い印を持った兵士に集まっている。
(十中八九、あいつがこいつらのリーダーだ)
「おい、お前」
コウは白兜のリーダーを指差した。リーダーはまさか自分が指されるとは思っていなかったようで狼狽している。
「あれをなんだと思う?」
コウは不思議なものを見るように天を指差す。それにつられて白兜たちは上を見る。シャーロットたちも天を見た。
(今だ!)
コウは走り出した。目指すは白兜のリーダー。意識が上にいっていった白兜たちはコウの行動に反応できない。
ドカッ、とコウの拳が白兜のリーダーの顎を砕いた。リーダーは意識を失い、後ろ向きに倒れる。
白兜たちは動揺する。コウはその隙を見逃さなかった。
コウはリーダーの手から剣を奪うと、近くにいた白兜を斬った。斬れ味が悪いのか、斬った、というよりも叩いた、と表現した方が良いようだ。
しかし、効果はあった。
斬られた白兜は慌てふためき、後姿を見せて逃げ出した。それを見て周りの白兜たちも逃げ出す。
止める者はいない。止めるはずのリーダーが気絶しているからだ。
「ま、所詮は烏合の衆だな」
コウは剣を担ぎ、逃げていく白兜たちを見ていた。シャーロットたちはその姿を呆然と見ている。
コウが囮になっている間に逃げ出そうと思っていたのだが、まさかそのコウが白兜たちを倒してしまうとは思ってもみなかったようだ。
「なんなの、この人……」
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