ジグムント・ボックス

　拡張現実によるネットワーク整備と、コンタクトレンズタイプの網膜走査型ディスプレイ、通称(レンズ)が普及した近未来の東京。
　仮想ショッピングモールのセール管理を生業とする加賀洋輔は、妻に愛想をつかされ、別居生活を余儀なくされていた。中年の危機真っ只中の加賀は、ある日、ひょんなことから自律型臨床心理カウンセリング機材(ジグムント・ボックス)を手に入れる。
　ジグムント・ボックスは加賀家の問題に行動療法、アサーション訓練を勧める。これは一種のゲームで、指定された日時、時間、場所に赴き、三つのキーワードを使って、指定の人物から荷物を受け取るというものだった。入手する荷物は常に、６４ＧＢのＳＤ‐ＲＡＭである。多少、不審に思いながらも、治療を続けた加賀は、最終日となる受け渡しに東京駅へ赴いた。受け渡…続きを読む