ⅵ
瞼を開けると緑翠色の光が飛び込んできた。全身にジェル状の培養液がまとわりついており人肌の温度で暖かい。この中にいるとあまりの居心地の良さに堕落してしまいそうになる。けれどもいつまでもこの中にいるわけにいかないので、内側からハッチの開閉スイッチを押した。
緑翠色の培養液が排出され、透明のアクリル板のハッチが開く。すると白衣に手を突っ込み電子タバコを咥えたエミール先生が出迎えてくれました。
「どうだ久しぶりのクレイドルの中は」
「懐かしいですね。まさか再びこの中から出てくるとは思ってもいませんでしたが」
衣類も何も纏っていない状態なので少し肌寒くくしゃみをしていると、エミール先生はバスローブを手渡してくれました。その時、失った腕が新しくなっていたことに気付いた。
「あっ、腕治してくださったのですね」
「あぁ寝ている間に治しておいた。どうだ、違和感はないか」
「はい、レイテンシーもフィードバックも良好です。さすが先生です」
「随分と無茶をしたようだな。戦闘用のボディでもないその身体でよく
「何があったんですか……?」
わたしは食い気味で尋ねた。大凡は自分で予測はできましたが聴かずにいられませんでした。エミール先生はこめかみを抑えながら躊躇しながら話し始めました。
「どこから話せばいいやら……。まず、カテドラル襲撃事件の一件は、外部の者と内側の人間が組んで起こしたテロだ。噂だがもうすでに主謀者は捕まったと聴いていいる。なんでも人権団体の人間だったとか。そしてだ、あの
「そんな事出来るんですか?」
「みたいだな。どうやら
どおりでARを導入していないノエルさんには影響がなかったのでしょう。
「どうしてこんなことが起こってしまったのでしょうか……」
「それはテロを起こした連中にしか与りしらぬことだろう。国を奪われた者、生統をよく思わない物、復讐しようとする者、己の正義に準じて行動したのだろう。まぁテロリストの心情なんぞ知りたくないがね。とりあえず幸い死人は一人も出ず、けが人は数人くらいで収まった。だがだ、問題はここから。テロが起こった翌日、すぐにカテドラル前でデモが起こった。マザー・フィリアがテンペストを使ったことにより市民の不安が爆発したんだろう。デモ隊はすぐに鎮圧されたが、市民のストレス係数はかなり上昇している。これは良くない予兆だ、面倒なことになるぞ」
しかめた顔で彼女は右手で額を覆う。これから起こるであろう問題を予期しているのでしょう。
「目覚めたばかりなのに物騒な話をしてすまない。とりあえず今日はもう帰って彼に顔を見せてやりなさい。心配していたぞ」
彼女に帰宅の許可をもらったので、わたしはすぐにでも家へ帰ろうと家路を急ぎました。
エミール先生に別れを告げエンブリオ・ガーデンから乗り継ぎの全自動車に乗り込み、平穏な平原の景色を見ながら、わたしは彼のことを思った。
もう心には迷いなく、散々悩まされた杞憂なんてもはや頭のそこから抜け落ちており、ただ彼に会いたい気持ちで胸が一杯になっていました。
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