ALMA

白詰 みつは

file:namber=01 title:Happiness is soup

西暦2118年8月11日。欧州は過ごしやすい気候に入り、今日も空風が吹き巡る晴天が続いていました。

 マザー・フィリアが管理担当するユーフォリア・コロニーの街並みは朝日に照らされて白銀に輝く。ザルツブルグの一角にある一軒の白い家にもいつも通り、平穏な一日が訪れていました。

 ルル・アルクイストは起動プロセスに沿って指定していた起床時間に起動し、スリープ状態から目覚めたばかりのALMAが正常に稼働するまでうとうとと肩を揺らす。

 わたしはわたしを認識する。

 わたしの頭の中には液状コンピュータで形成された脳が搭載されており、脳幹の部分にはわたしの本体であるプロセッサが埋め込まれている。それがActivation Learningl Multi Agent、通称ALMA。わたしがわたしでいられる装置。人で云うとこの脳のことです。

 『水槽の中の脳』ならぬ『水槽が脳』と言ったところでしょうか。

 ですがこの身体を通して伝わるクオリアも、自己を認識する脳も、そしてこの心も、バーチャルリアリティなどではなく確かに存在しているのです。

 少し冷えた空気が皮膚の人工ニューロンに伝わり、筋肉が熱を発生させようとして身震いが生じる。指先で壁を下の方につうーっとなぞり、家のシステムウィンドウを呼び出し操作すると、真っ白だった壁の一部がガラス窓の様に透き通り、外の景観を映し出す。

 部屋に日光が差し込こむ。眩い光が眼球に強い刺激を与え、暖かな日差しを浴びレイテンシーが鈍い身体が活発になり始める。様々な情報が統合組織義体プロテーシスに備え付けられた人工ニューロンを通して、生成された擬似シナプスがALMAに伝達される。

 愛しいクオリアがわたしの身体の中を巡る。

 この感覚が、この身体が、この心がわたしをわたしとしてたらしめてくれる。

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