「あー疲れた。明日は休みなんだし誰か飲みに行きましょ」

 時刻が19時を過ぎ今日の業務の終了とともに、アンジェが背筋を伸ばしながら誘ってきた。

「わたしは帰って夕食を作らないといけませんので」

 わたしはいつもと同じ理由を付け丁重に断ると、続けてシャルも断りを告げる。

「わたしも遠慮しとくわ。最近少し忙しいから、では」

 そう言ってシャルはそそくさと帰宅していきました。今日も特に普段と変わりなくテキパキと働いていたのですが、気のせいかどことなく元気がなさそうに見えました。彼女はあまりプライベートな話をしませんし、もし何か在ったとしてもそれを表情に出すような性格ではないので少し心配に思えました。

「なによ、たまには誰か付き合ってくれたっていいじゃない。前は付き合ってくれたのにシャルも愛想がなくなったわね。そうよ、所長この後暇でしょ、たまには部下に付き合いなさいよ」

 アンジェは不貞腐れてかアラン所長に失礼な態度で誘う。

「かまわないよ。こんな老いぼれでよければ」

 そう言ってアンジェの失礼な態度に気にも掛けず、彼はあっさりと了承した。アンジェは喜び所長の腕を取り強引に腕を組む。

「もーふたりとも飲み過ぎないでくださいね。特に所長は身体に気をつけてください」

 わたしの言葉をなあなあに受けとり、意外な組み合わせの二人は部屋を出て行きました。

 一人部屋に残ったわたしは溜め息を付き、帰る身支度をすまして駅構内にでました。すると支柱にもたれ掛かりながら視線をあちこちに配り誰かを探す素振りをしている、如何にも場違いで見覚えのある姿が見えた。

「メリッサ……? なにしてるんですかこんな所で?」

 彼女に近づき声をかけると赤髪の少女はこちらに気づき振り向いた。

「あっ……ルル、偶然ね。お仕事はもう終わったの?」

「えぇそうですけど、なにかカテドラルに用事ですか?」

「べつに、今から帰るとこでしょ、じゃ一緒に帰りましょ」

「えっ? でもいいんですか、誰かを待っていたみたいですけど」

「もうここには用はないから」

 そういってメリッサはわたしの袖を掴み、タイミングよくきた電車の中へわたしを引き込んだ。

 今まで彼女がカテドラルに一人で来たことも、一緒に帰ることも一度足りともなかったので只々わたしは電車の中で座りながら状況を飲み込めず困惑していました。

 そんなわたしの心情をつゆ知らず、メリッサはわたしの隣で腕輪型の携帯PCを起動させ、青白いレーザー光で型取られた空中投影ディスプレイが浮かび上がる。彼女はテキストデータが載った3Dホログラムをノートをめくるように読んでいる。横からそのテキストをのぞき込むとそれは見覚えのあるテキストでした。インデックスにアクセスして検索せずともその文節はわたしの記憶にありました。

 そう、確かアイザック・アシモフ原案『二百周年を迎えたバイセンテニアル・マン』、人間になろうとしたロボットの生涯を描いた小説だったはずです。

 何故知ってるかと言いますと、以前メアリーの遺物を整理している時、偶々見つけて興味本位で読んだことがあるからです。とは言えわたしが読んだのは紙媒体のものでしたが。

 小説とはとても素晴らしい代物で心を知るにはマストなアイテムでした。言葉の羅列が織りなす登場人物たちの心、物語に秘められた作者の心、そしてそれらの心が読者の心を感化する。心の循環。わたしは小説を通して様々な心があるのだと学びました。

 このシーンにも様々な心のやりとりが見受けられます。自分の意志で選択し、自由に生きていきたいと言う家政ロボットのアンドリュー・マーティン、それに対し癇癪を起こすアンドリューの所有者であるサー。けれどもサーが憤怒する理由は従僕が自由を欲しがったからではなく、家族の一員が自分を置いて何処かに行ってしまうかもしれないという不安からだったのです。

「この後サーの容態が悪くなってしまうんですが、最後にはアンドリューに自身の心情を吐露するシーンがとても感動するんですよね」

 物語を思い出し感極まってそう言うと、彼女はわたしを薄目で睨みつていた。

「もーまだ読み終わってないのに続きを言わないでよ!」

「すみません……」

 メリッサに怒られてしまいそれからわたし達は一言も会話せずに電車を降りました。

 気不味い沈黙に苛まれながら二人は家路を辿る。もちろん家が隣同士なのだから帰る道も同じです。

 大道りを抜け住宅街に入ると道端にアイスクリームの露店屋が出ていた。ここ最近少し暑くなってきたのでついつい冷たく甘いモノが食べたくなってしまいます。

「あっメリッサ。アイス食べません? もちろんわたしがおごりますから」

「べつに……いい」

 歯切れ悪く返すメリッサ。けれどもわたしは露店へと向かいアイスを適当に選び二つ注文した。会計は液晶パネルに人差し指を当てるだけですむ。

 指紋は人が生まれ持って有する個人識別が行えるシリアルコードのようなもので、無論ヒュネクスの統合組織義体プロテーシスにも指紋の彫刻は施されています。たださすがに今の技術力があれば指紋を偽装することは造作も無いことなので、IOCとリンクさせて指紋認証と行動記録が一致しなければ使用できないようにセキュリティ配慮をしている。IOCは体内に転移し寄生するタイプのナノマシンなので、抽出して他の個体への移し替えは事実上不可能で、且つ所有者の活動が停止すればIOCも機能しなくなるので、故人のIOCが悪用される事もありません。徹底したセキュリティ社会により流通売買の利便性は向上しました。

 支払いを終えたわたしは店員さんからコーン状のウエハースに乗っかったアイスを二つ受け取り、一つをメリッサに手渡す。

「ストロベリーでよかってですか?」

「べつにいいって言ったのに……」

 彼女は唇を尖らせ不満を漏らしながらもわたしからアイスを受け取った。

「……あったかい」

「えっ、アイスがですか?」

突然、彼女おかしなことを言い出したのかと思いわたしが驚くと、彼女は大袈裟に怒った。

「そんなわけないでしょ! ルルの手が温かかったから……」

「あぁ、そういうことでしたか。そりゃそうですよ。わたしにだって人工血液ですけど血が流れてますからね。昔のSF小説に出てくるヒューマノイドみたいに、身体の全身が金属で出来てるわけないじゃないですか。ひょっとして歯車が入ってったり、なんて思ってましたか」

 わたしがそう誂うと、また彼女の機嫌を損ねてしまいました。

「もー人を馬鹿にして! そんなこと考えてるわけないじゃない。まぁ昔は本当にそう思ってたけど……とりあえず、アイスありがと」

 照れを隠しながら彼女はお礼を言った。なんだかんだ言いながらも、律儀なのが彼女のいいところです。

「どういたしまして。とりあえずあちらの方の公園で食べましょうか」

 そう言って近くの公園に行き、大きく枝を広げた広葉樹の下のベンチにわたし達は座った。午後六時を過ぎていたがまだ空は明るく、人も賑わっておりジョギングをする人や、犬の散歩をする人、遊んでいる子供を見守る母親の姿が見受けられる。

 わたしはバニラアイスを食べながらそんな人々の営みを見ていた。

「意外でした、メリッサがSF作品に興味があるとは」

「さっき読んでた小説のこと? あれはノエルに勧められたから読んでみただけ」

 ノエルさんはメアリーが残した本に影響されよくSF小説を読んでいたので、それを彼女に勧めたのでしょう。

「でしたらノエルさんに原本をお借りすればよかったのに。あの本なら家にありましたよ?」

「紙の本なんか読んでたら皆にバカにされるじゃない。通ぶってるだの老人みたいだって。なのにノエルったらそれでも頑なに紙の本を読んでるの。だから変なフリークって言われるのよ」

 メリッサは口を突っぱねて言いました。確かに彼女の言う通り電子書籍が一般化となった今のご時世、紙媒体の書籍を読むのは老人かこだわりを持っている人くらいです。

 メアリー曰く本は身体を使って読むのだと言っていました。紙の本には表紙や匂い、紙のページをめくる指の感覚が文章と強く結び付けられ深く脳に染み込みやすいのだとか。ノエルさんもまた同じように電子書籍は味気ないと言って好んで紙の書籍を読んでいました。

 わたしは恐る恐るメリッサに訊ねてみる。

「その――ノエルさんは学校ではどうお過ごしで?」

「相変わらずよ。いつも一人ぼっちだし、かと言って寂しがってるような素振りもないし何考えてるかわかんない」

「そうですか……」

瞼を落としバニラアイスを口に運ぶ。ですが思考はノエルさんの事にバイアスが働き、アイスの甘さを感じられませんでした。

 彼が同年代の人とお喋りする相手はメリッサくらいで他に友達がいないのですが、かと言って寂しさを見せる素振りもありません。本来、人は集団で生活する生き物で防衛本能によってコミュニティを形成しその中に入ろうとするのですが、彼は何故か集団的淘汰にあったわけでもなく、自ら進んで一人であろうとするらしいのです。

 ノエルさんは同年齢の子供達と比べ浮世離れしているように思えます。

 特異な生い立ちのせいなのか、それともわたしの育て方が悪かったのかのでしょうか。

 わたしの頭の中に雲が沸き立ち、それを吐き出すようにため息をつく。そんなわたしを見てメリッサがわたしに訊いてきた。

「ルルってノエルのこと好きなの?」

「それは勿論、愛していますよ」

 なにをいまさらといった感じでわたしは躊躇わずにそう言いました。ところがメリッサは頬を染め恥じらうように続けて訊いてきた。

「そうじゃなくて……いやそうなのかもしれないけど、その……つまり恋してるのか、って訊いてるの」

 ほほーなるほど、この手のお年頃の少女は色のある話が好きだと聞きます。

 頬に人差し指を付け首を傾げて考える素振りをする。

「んー考えたことがないわけではないですがいまいちピンとこないんですよね」

 恋愛――人が他者を慕う心情の事を指す。一般的には異性に対する心情とされているが、同性間でもしばしそういった心情が見受けられる。要はパートナー選びだと思ってよいでしょうか。

「そもそもヒュネクストって恋するの?」

「もちろんそういう者もいますよ。わたしの同僚のヒュネクストにも人とお付き合いしていた人がいましたよ」

 その同僚というのはアンジェのことですが、彼女がどういったお付き合いをしているかを説明するのは、未成年には刺激が強すぎるのでやめました。

 ヒュネクストの雌雄の違いはほんの僅かなプログラミングによって変わったり、中には中性の個体も存在しています。

「なんかヒュネクストって言っても皆違うんだね」

「それはそうですよ。人が人それぞれなように、ヒュネクストもそれぞれです」

「じゃあ、人とヒュネクストってどう違うの?」

 彼女の素朴な疑問は、私達にとってはとても難しく大事な問題でした。

 わたしは頬杖をつき難儀しながら言葉を絞り出す。

「メリッサもご存知でしょうが、わたし達の身体は全て人工のモノで出来ております。なので生物ではないことは確かです。ですが生統ユニメントではヒュネクストは人間に分類されており、人権も与えられています。それでもわたし達を人間だと認めたくないと思う人もいるわけで、結局はヒュネクストが人間かどうかの定義は、各々の心によって変わってくると思います」

 メリッサが先ほど読んでいた『二百周年を迎えたバイセンテニアル・マン』にもその手の議題について問われており、人になりたくて自分の身体を改造し、人の身に近づけた主人公のアンドリューが、最終的には法律上において人間だと認められ、人間として生涯を終えるというお話でした。けれども最後まで彼が人間だと認めない人々もおり、結局はマシンが人の肉体を得ても、それが人かどうか判断するのは心の問題なのだとわたしはそう考えておりました。

「周りでもヒュネクストは人間じゃないって言う人はいるけど、わたしはべつに身体が何で出来てるかなんて気にしない。けど一つ疑問に思うことがあって、それはヒュネクストにも心はあるのかなってこと。……ルルには心があるの?」

 彼女は深妙な声音でわたしにそう尋ねました。これまた難しい質問をされてしまい、わたしはうーんと考え込みます。

「では、まずメリッサは心をどういうものだと定義していますか?」

「えっ……なんというか喜怒哀楽を感じたり、映画を見て感動したり、あと誰かを好きなったりする部分……かな」

 彼女は拙く曖昧な物言いをするので、追い打ちをかけるようにさらに質問をしました。

「ではそれはどこにあるのでしょうか?」

「うーんなんだろう、頭の中……でも胸の中とか言うし、内蔵? でもそれを言ったら脳も内蔵だし、そもそも目に見えるものなの……あれ、もうわかんなくなってきちゃった」

 必死に考えるメリッサが少し可愛げに思えて、思わず笑みが零れる。

「何笑ってんのよ。ってか、さっきから訊いてばっかじゃん。答えがわかってるなら答えてよ」

「答えはあるけど、ないです」

 彼女はむっとしたような表情でわたしを睨みつける。

「なんなのよ、散々人に質問してきたくせにそのはっきりしない答えは」

「まぁそんなに怒らないでください。つまりは心は概念でしかないってことですよ。わたし達の脳たるALMAの開発に連れ、人の脳の仕組みが解明され、心だと思われていた仕掛けは暴かれ、今や心はないものだと唱える学者も少なくはありません。例えばメリッサは先程、心は感情を司る器官と定義しましたが、情動は扁桃体と呼ばれる落花生のような器官が、快か不快かのレベルで評価し、それを前頭前野が喜怒哀楽と言ったレッテルに分けているにしか過ぎません。心の仕業だと考えられていた意志や行動なんかも、実は脳に幾つもあるエージェントと呼ばれる小人ホムンクルスが刺激に応じてプログラミング通りの動作をしているだけなのです」

 人は心で行動していると思われがちですが、人の行動の役八割は無意識で、残り二割の顕在意識は経験のフィードバックによる自発的なものだと言われています。意識は心と混同されがちですが、わたしの考え方は公と異なりました。

 メリッサはわたしの説明をあやふやながら理解してくれたようでした。

「んー……なんとなくわかったような。でもそれじゃ心って一体何なの?」

「それはですね、今こうしてアイスを食べている肉体や、アイスを美味しいと感じるクオリア、そしてあなたと一緒にいるわたし。それらわたしを司る全てが収束する点こそが、心だとわたしは定義しています」

 けれども彼女は頭の上にクエッションマークを浮かべるように首を傾げ、あまり理解してもらえなかったようなので補足して説明しました。

「例えば好きな人と一緒にいる時、こう、胸のあたりがぽかぽかした感じになりませんか?」

 メリッサは心あたりがあるかのように、胸の辺りに手を当てうなずきました。

「それは収束点で“幾つもの自分”が衝突して生じた摩擦です。わたしはその穏やかな摩擦を“愛”と形容しています。つまり心とは愛を感知する器官なのです」

 わたしは胸を張ってそう答えました。人間からすればマシンのわたしが心や愛の存在を唱えるなどおかしなことに聞こえるのかもしれません。けれどもわたしには日々の中でそれらの存在を確かに感じています。今こうして彼女と会話している時にもわたしは心の存在を感じています。

「そっか、なんかわかった気がする。じゃあヒュネクストにも心はあるんだね。でもそれじゃますます人間とヒュネクストの違いがわからなくなってきちゃったな……」

「メリッサはどうしてそんなにヒュネクストのことが気になるのですか? わたしはてっきりマシン嫌いなのかと思っていました」

 彼女にそう尋ねると、身体をビクッとさせ俯きながら目線を下に向けました。

「わたしだってそこまで鈍感じゃありませんし、そのくらい察していますよ」

 わたしが心音を包み隠さず告げると、彼女も自分の気持ちを告げてくれました。

「べつに怖いとか気味が悪いとかそういう感情はないんだけど……なんというか見た目も、こうして話していても普通の人間と遜色が無いのに、けど同じ人間じゃない。そこに違和感みたいなのが生じるの……」

 束の間の沈黙が空いて、わたしは口を開きました。

「それは不気味の谷ですよ。人間がヒュネクストに対し抱く嫌悪感。人の心に生じた歪みです心が拒絶するのならそれは仕方のない事です」

 不気味の谷の問題はヒュネクストの社会進出よりかねて前から問題視されており、未だ人とヒュネクストの間には谷が立ちはばかっておりました。見た目だけではヒュネクストか人間かの判断は出来ないので、直接的な差別を受けることなく日常生活を送れていますが、見えないところでは疎まれていると思うと少しぼかり息苦しく感じたりもします。

 こうした社会の影で蠢いている心的な抗争を、ちまたでは不気味の谷の戦争だなんて言われていたりもします。

 けれどもメリッサはヒュネクストに対し、そこまで嫌悪感を抱いているわけではなさそうでした。

「べつに私はルルのことが嫌いってわけじゃないよ。それにほら、私が小さい時にはよく接してくれていたし、あの時はなんとも思っていなかった。けど最近は周りがヒュネクスト嫌いっていう友達もいたりして、ヒュネクストが好きなのはおかしい事なのかななんて思うようになってしまって。それで……」

 人間は社会生活を経て常識や道徳心を学ぶのですが、どうしても環境によって偏りが生じてしまうこともあります。彼女は自分の価値観と世間の価値観の違いに戸惑っているのでしょう。

「でも今日久しぶりにルルと話してみたら、ヒュネクストだの人間だのそんなことで悩んでたなんて馬鹿みたいに思えてきた。――ねぇルルは私の事どう思ってる?」

「言わずもがなあなたもわたしにとって愛しい人です。クリスタの娘ですしノエルさんのご友人でもありますが、それ以前に十年来の知り合いですし情が湧くのは当然のことです。メリッサはわたしのことをどう思っているのですか?」

 メリッサに詰め寄って問い尋ねると、彼女はそっぽを向いてわたしから離れるようベンチのすみに移動した。

「……ただの隣に住んでる変なヒュネクストよ」

 顔を背けられていたので彼女の表情はわからなかったです、声音にはいつもの冷たさは感じず仄かに暖かさを感じました。

 この時わたしはたしかに彼女の心を認識しました。胸を中心にして温かさが身体に広がっていくような、そんな愛しい感覚。それがわたしにも心があるという確かな証拠になってくれるのでした。

 

 気が付くと陽は沈みかけており辺りの外灯が点いていた。わたし達は溶けかけのアイスを食べきってしまい公園を出て、エーデル家の前に付く頃にはもう空はめっきり真っ暗になっていました。

「今日は久しぶりにメリッサとお話ができて良かったです」

「うん……なんかゴメンね。最近感じ悪くて」

 改まった態度で彼女が謝ってきたのでわたしは頭を振る。

「いえ、気にしないでください。メリッサにはノエルさんがいつもお世話になっていますし謝られることなんか何も。そんなことより、今後ともわたしとノエルさんのことよろしくお願いします」

 わたしはわざとらしく会釈しそういうと、彼女も笑って「うん。わかった」と言って自宅の門を開き、わたしに向かって手を振りながら玄関へと入って行きました。

 そんな彼女の姿を見ているをふと昔のことを思い出しました。

 彼女がまだ幼かった頃、クリスタの腕に抱かれてあんな風に恥ずかしがりながら手を降ってくれた事がありました。その時わたしはまだヒュネクストと化して間もなかったので、物心はなく、ただメリッサの素振りを見よう見まねで手を降って返しました。今とは立場が逆で昔は彼女から学ぶことが多かったです。

 いつぞやの記憶に耽けメリッサも随分成長したなと実感しましたが、なんだかこれじゃわたし、おばさんみたいですね。

 ともあれある時を境に彼女と離れてしまった距離が今日、少し縮まってわたしは凄く嬉しいかったです。もしかしたらですけど彼女もまたわたしと同じ心意を持って歩み寄ろうとしてくれていたのではないか感じました。

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