さんざん飲んだ二人は歩行機能が鈍り、このまま歩いて帰らせるのは危ないと思い、自動運行しているタクシーに二人を乗せ彼女たちの住所を告げて、二人を乗せたタクシーは導灯に照らされた夜の街に消えていった。

 わたしが家に帰る頃には午後十時が過ぎていた。

「すみませんノエルさん、遅くなって。もうご飯は食べてしまいましたか?」

 帰宅しリビングに行くとノエルさんはソファーで読書していました。

「うん、もう食べたよ。ルルお腹空いてるんだったらなにか作ってあげようか」

 彼はわたしを気遣って優しく訪ねてくれました。

「いえ、大丈夫です。先ほど少し食べてきたんで」

 すっかり酔ってしまった二人の聞き役に挺していたら、疲れてしまい辿々しい足取りで彼が座っているソファーの隣にずしりと深く座り込み、そのまま自然に身体を倒すように彼の太腿に頭を乗せた。少し細い彼の足は男性特有の筋肉質な程よい柔らかさで、心地よく頭がフィットし、お風呂あがりなのか石鹸の匂いと彼の匂いが混ざり落ち着く香りがした。彼に触れているとふいにメアリーのことが脳裏に思い浮かぶ。それはきっと彼の存在と彼女の存在がわたしの中で概念統一されているのだからなのでしょう。家族や大切な人といったカテゴリーではなく、もっと普遍的で根本的な概念を彼と彼女に抱いているのだとわたしは考えた。

 いつもこうして膝枕をしてもらおうとすると嫌がられるのですが、今日は抵抗されることなくあっさり受け入れてくれました。

「なんか疲れてるみたいだね。嫌なことでもあったの?」

 彼が私の頭を優しく撫でながら心配してくれました。

「いいえ、べつに嫌なことはなにも。……ただ、ここ最近いろいろと考らされることがありまして」

「例えば?」

 なんとなくそう彼が訊いてきたので、先程アンジェに問われたことがふと頭に浮かんだ。

「例えば……ノエルさんにとってわたしってどういう存在なのでしょうか?」

 わたしはが顔を上に向けると、わたしを見下ろす彼と視線があった。質問を質問で返されてか彼は困ったような表情で顔をそっぽ向けた。

「それは……家族だよ。大切な」

「でも家族って言ってもわたしたちには血の繋がりはないですし、どの位置に当てはまるんですかね。一応今はわたしがノエルさんの養親ってことになってますが母親ってのはなんか違いますし、元々ふたりともメアリーの養子でしたから姉弟ってことになるんですかね。わたしが姉でノエルさんが弟……お姉ちゃん……いい響きですね!」

 天啓が降りたわたしは一気に身体を起こすと、彼は少し驚いたような表情をした。

「……またなんか変なこと思いついたの」

「ねぇノエルさん。わたしのことお姉ちゃんって呼んでください!」

 彼は呆れたと言わんばかりに口を半開きさせるが、わたしはそれを気にも掛けず強引に身体を密着させるが、彼はわたしのハグを拒否する。

「やだよ。ってかなんで僕が弟って前提なのさ」

「だってわたしの方が早くこの家の娘になりましたからね。ほーらー言ってくださいよ。ルルお姉ちゃんって!」

 あざとく上目遣いで言ってみるが、軽く額にデコピンされる。

「もう冗談言ってないで、早くお風呂入ってきなよ」

「えぇー言ってくださいよ。そうです、お姉ちゃんと久しぶりに一緒にお風呂入りましょうよ」

「お風呂はもうさっき入ったよ」

「どうして最近一緒に入ってくれないんですか? 十二歳の頃まで一緒に入ってくれましたのに。あっ……そうですよね、ノエルさんももうそういうお年ごろですもんね」

「もういいから、一人で入ってきて!」

 わたしはふざけて自分の胸元を腕で隠す仕草をすると、ノエルさんは恥ずかしがってか怒ってなのか顔を赤らめる。少し怒らせてしまったようです。

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