それから、揺籃の中で起こったこと
なぁに?それ?あたかかいね、やわらかいね。いいなあ
地面に溶けた記憶の塊は、地の底の暗闇をまとわりついてくる暗黒のより濃く声の大きい方へ這っていった。この暗闇で姿なき声が欲するものを一つだけ抱えて、一番深く、一番古い暗がりを目指していた。
誰かを支えるための腕も、共に歩む足も持たぬ姿であろうとも、一つだけあれば充分だった。
おかあさん、かえりたいよう、あいたいよう、おかあさん、おかあさん
そこには、一番最初にここへやってきて、幾多の同じ思いをかき集め、何千何万回と求め続けたものがうずくまっていた。それは周りの闇よりも少しだけ明るい色をした三つの瘤をもつ元は多分人間だったモノ。
「約束通り、持ってきました。見守っていてくれてありがとうございます」
ここに来てからずっと抱えていたものをそっと置くと、瘤は僅かに震えはらはらと闇に溶け消えた。それに揺り動かされるように周りの闇たちも一様に震えはじめる。
あったかい、やさしいね、きもちいいね、こわくないね、さむくないね。
ああ、やっと会えるね。また戻れるね。うれしい、うれしい
ぶよぶよとしてつめたく悲しい寂しい気持ちで満たされていた闇がほろほろ、はらはらと溶けていく。いつの間にかあんなにも深く広大で恐ろしかった闇の中身はすっかりがらんどうになっていた。
「役割はもう終わってしまった。ここにはもう何も残っていない。ご覧の通り綺麗さっぱりと。さあ、お前も一切が無くなって仕舞うのだろう?」
ここまで抱えてきたものを全てそれをほしがるものたちに与えてしまい、自分の中身がすっかり抜け落ちてしまったかつての白い子供は、是と応えてそれっきりでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます