永訣へと

「ねえ、雨あのね」

「どうした?」

「この身体は、あの子のモノだけど、中には私と僕がいるんだ。だから、時間がない」

「どういうことだ?」

「・・・・・会いたかった、おかあさん。あのとき言えなかった言葉を伝えに来ました」

 握られた手は、生き物のそれではなかった。雨のぬくもりがその手を伝い、海綿状のぶよぶよした手のひらの、向こう側へと零れ落ちていくようだった。

「雨、今までありがとう、辛いかもしれないけれどここからはひとりで戻らなくてはいけない。あちらもこちらも随分と長い時間、待っていたんだ。だから、戻って、すべて終わらせてくるよ。ありがとう。私の、僕の優しいお母さん」

 元から白かった肌はハリを失い不自然にむくみ、雨の手を、今生の別れを惜しむように包んだ両手は、もはや彼女のぬくもりを保つ術もないほど潰れている。

絶句する雨に、さようなら、雨と声をかけて、土塊から生み出された身体は再び土に還った。

雨が再び勢いづき、母の涙を、嗚咽を洗い流した。

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