降り続く雨がもたらすもの

未明から続いていた豪雨は翌日の午前中までその勢いのまま降りしきり、周囲の街に甚大な被害をもたらした。用水路に流れ込んだ雨水の排水が間に合わなかった平野部、山裾の、山に降った雨が収斂する沢などでは家屋への浸水や道路の陥没などが、また山間部では土砂崩れによる主要道路の崩落が相次いだ。

ただし、不幸中の幸いとして人的損害は報告されなかった。

街の中心部にある大きな総合病院では、浸水が迫っていた病院や介護施設の患者らの受け入れに多忙を極めていた。

「先生?少し休まれたらどうでしょう?」

「いや、まだ大丈夫だよ。あと少しで最後の受け入れ地区の患者さんが到着するからね。その人たちが到着するまで頑張るよ」

無精ひげがぽつぽつと目立つ頬をさすりながら雲は、街を抱くようにして聳える山の頂を見やった。雨と玉はまだ戻っていない。電も難しい顔をして風、虹、霧と何事か相談をしている。

「どうにも今回はむこう側の思うとおりに行きそうだが」

 自販機からコーヒーを取り出しぞんざいに蓋を開け雲に渡した。

「どうしたの?電」

「後もう二時間ほどで山が崩れる。お宮から、その下の駐車場までの地面が丸ごと流れ下る」

「土砂はどの辺まで到達する?」

 白衣のポケットからマーカーでぐちゃぐちゃに書きこまれたハザードマップを取り出し、コーヒーに口をつけ無表情で雲は電を見上げた。

「おそらく川の、中流域に達しそこでせき止められて停止する」

 電が地図に示した範囲は果樹園であったが、民家も見受けられた。

「わかった。こちらでも万が一に備えて十床ほどベッドを確保しておこう」

 電に背を向け、ふらふらと雲はエレベーターへむかう。ヘリのローターが上空で耳障りな音を立てていた。

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