菰方の血筋

 話が一段落したのを感じてか、皆息をつき納得した表情でこちらを見ている。

「そしてそれからまた五百年ほどたった時、今度は人の手で封印が解かれてしまった。地元の豪族だった菰方氏が古い古い伝承を頼りに山の社に封印されているモノがなんであるかを突き止め雲の一族を皆殺しにして加護を得た」

「え?もしかして私の一族?でも、そんなこと聞いたことないし家にある古文書にもなかったけどなあ」

「そう、現在の菰方家は封印を解いた一族とは違う流れの菰方家だが、先祖は同じで、禍の起こる五十年ほど前に分かれた血筋になる。そして、領主の方の菰方家が解き放ったカミは贄を求め、始めは菰方と対峙し刃向かうものを襲ったが、だんだん抑制が利かなくなってきて終には命あるものなら何でも己の糧にするようになった」

「ん?役の人たちは何をしていたの?」

「雲の役がなかなか決まらなかった。そして甚大な被害が出てしまったため新しく風の役を作った。これには同じ菰方の血筋の者が選ばれたけどその選定にも時間がかかった。だから対応が後手に回ってしまい立て直すのに時間がかかって、その間にもどんどん封じられたモノは力を蓄えていくし・・・・・多分、この時が一番危なかったんじゃないかな?」

 電に水を向けるとゆっくり頷いていた。

「そうだ、懐かしいな。この社の守りを頑丈にしていたおかげで封は解けなかったが大分緩んでしまっていた」

「で、どうやって盛り返したの?逆転満塁ホームランでも打ったのかい?」

 風が気まずさをごまかすように冗談を言った。

「いや、そうやってごたごたしている間に、今話しているこの場所で目が覚めて狂気に満たされた森を抜けて電を探した。千年前に単なる記憶の堆積物から複数の魂をその思いとともに閉じ込められた歪んだ存在になっていたから、何もかもが曖昧でそれが土地の記憶なのか彼らの記憶なのか定かではなかったが、とりあえず電と雨を探して山を降りた」

「そこで役を直接選定し、わなを仕掛けた?」

 霧が眼鏡をずり上げながらこたえた。

「そんなことまで調べたの?」

 思わず漏れてしまったが、本来は秘匿されていてしかるべき出来事なのに、記録が残っていたのだろうか。

「県立図書館に行って菰方家や周辺の領主の文書、江戸時代初期の地元の文人武人の日記などをとりあえず浚ったんだ。そうしたら断片がたくさん出てきた。本当は昨日のうちに話したかったけど」

「霧が調べてくれたとおり、現在菰方邸がある場所に陣を構え、形的には菰方家の傍系が嫡流を裏切る形で戦を仕掛けた。むこうの役はすべて菰方の麾下だったから一気に方をつけることができた。前回みたいに後味の悪い思いを引きずることなくね。ただ、後始末が大変で、後世のためにも役の者で相談して掟を作った」

「それって、なるべく直接の言い回しを避けるとか?関係ない人が役の人といるとこの件に関わる記憶が勝手に薄れていくとか?」

 店内での出来事を踏まえてだろうか、虹が問う。

「そう、他にも委細ぬかりなく。それから菰方家に残っている記録にもあるように今度は江戸の終わり。前回、前々回の反省点を踏まえ洞窟の方は桶の箍みたいにぎちぎちに漏れないように締めていたけれど、今度は土地の記憶にこじ開けられた。社会不安だね。鎖国を止め、所謂近代化、西洋化していく社会の中でここの土地もその空気感を厭が応にも受け入れなければならなかった。その過程で小さな軋轢が積もり重なり箍のどこかが緩んでしまった。それを反映してか前回は二つに分かれていたけども、役の者を探してこうやってここに呼び、積もり重なった記憶の中から解決の術を見つけた」

「その時は半数が話し合いで決着がついたんだよね。それが良かったのか悪かったのか知らないけれど。残りは物理的にこの土地から追い出すことができた」

 風は当時の話を何度も聞かされたのだろう。要点だけ分かりやすく説明してくれた。

「そう、だからイコール元凶の力が弱っていると思っていた。そして今回は割とひどい方法でまた現れた」

「堕胎処理された赤ん坊を使ったんだよね」

「そう。ハイリスクハイリターンだけれど、飛天の毒を一発で呼び出した。まるでこの時を待っていたように現れた。そして毎回の事だけど、記憶がない状態から徐々に記憶を取り戻してきた過程に今回は大分時間をとってしまった。初期の四百年分の死人の魂と、一人の強烈な思いを炉心にして今まで動いてきたけれど、千年の時間の重みは蓄えたモノを減衰させるには充分な時間だったのかも」

 重苦しい空気が皆の口を押し黙らせている。電も腕を組んで息をついた。当時の些細な変化の積み重ねのうちに隠れたひずみを見抜けなかったことを思い出してるのだろう。

「・・・・・それで話は変わるけど、脳死状態のうちの看護婦の事だけど、彼女達はどうしてさらわれてしまったのか、詳しく教えてくれる?」

 すこし眉根を押せて雲がこちらを向く。元雇主として気になるのだろう。

「身体と、魂の居る場所は言ったよね。攫われてしまったのは雲の所為じゃない。その、さっきも言ったけどこの身体は今回が最後かもしれない。だから、むこうもこの炉心の新しい入れ物を探しているんだと思う。彼女達はその材料に使われる可能性がある。この身体も元々は山の洞穴にいるものが作りだした人形だから以前は少しはむこうの出方も分かったんだ。でも、この身体が壊れてしまえばまた新たな白い子が生み出されるだろう。それが何百年、何千年先の事になるか分からないけれど」

「・・・・・そう、だから電が私たちに早くあなたと会わせて保護するように言ったのね」

「前回の件は、私もおぼろげながら知ってはいるよ。だから今回は山の空気が少し変わった時くらいから注意して歩いていた。貴方をすぐに見つけ出せるように」

 雨がこちらを向いて微笑んだ。

「そして、雨が見つけてくれた。だから今、こうしてここにいることができる」

柔らかな雨音のカーテンがお堂を包み、立ちのぼる乳白色の靄に視界が包まれる。ここで話すべきことは全て話した。今回の収束に至る道筋は割と早く見つけられるかもしれない。

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