世界の果てのその先で

甚大な被害を出した土砂災害から一ヶ月後、寸断していた道は均されとりあえず物流が滞ることなくいきわたるようになったが、完全に復旧するのにはまだ時間も物も足りない状態だった。

この間に降った雨は平均雨量の三カ月分にもおよんだが、幸いにも死者は出ず、家屋の浸水、倒壊も自治体の予測よりも低減されたものであった。

「兼子署長は心筋梗塞で、歴木の組長は抗争で、亡くなったことになるらしい。菰方家であの時ドンパチかました奴らは失踪、若しくは事故死扱いされている」

「相当な人数がいたのだがそれでもいいのか?」

「やくざがおよそ二十名、警官が五,六名ほどだったな。」

 揚げたての香ばしい唐揚げを旨そうに堪能しながら、命婦がそれで、ときり出した。

「杠医師は自宅で腐乱死体となって発見されたそうだよ。まあ、食事中にする話でもないけど、顛末は伝えないと」

「人理を逸脱した罰だな。我等のようなものに裁かれたのだろう」

 ばくばくと唐揚げを頬張り電は素っ気なく答え、雨と、傍らにいる子供を見た。

「また、眠っているのか」

「ああ、今は十時間ほど、眠っているよ。まるで赤子のようだ」

「病室にいた時は中学生くらいに見えたけど」

「元に戻っているんだろうな。あるべき姿へ。あとどれくらいこの子と一緒にいられるか分からないけど」

 その時、Over the rainbowに唯一ある個室のドアが開かれ執行が書類を携え入ってきた。

「城原は過去の不正会計諸々がばれて今さっき訴追が決まった。知り合いが担当する事になったからここで飯食べて応援に行かなきゃ」

 慌ただしく唐揚げを頬張り持ってきた書類を整理し始める。菰方がお絞りとお茶を差し出し、これまでの経緯を簡潔に説明した。

「じゃあ、その子はこれまでの衰弱?退化?具合から見てこの世にいられるのは半年程度か?」

「・・・・・恐らく」

「そうか。一回目の口頭弁論が済んだら私も少し時間ができる。それまでにこの子が託された最後の願いを叶えてあげないと」

 ぬるいお茶を流し込んで、ごちそうさまと会釈すると執行は出ていった。

「私も、この後会議があるからこの辺でお暇するね。唐揚げごちそうさま。また時間があったら食べにくるから」

 菰方と命婦も退室し、電と雨、そして安らかに眠る子供だけが残された。

「ずいぶんと、この子の核になった王子様とやらは遠くから来たようだな。一睡のうちに世界の裏側までいけるこの御時世に、たどり着くまでに三日もかかる所とは」

「それでも、行くと決めたから」

「段取りは彼らに任せておけ。お前はこれからどうする?私と同様、地に解け天に還るのか?」

「しばらく、虹のところに留まってから、そうなるのも悪くない」

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