会食、または茶会・後編

「そう・・・・・それで、じゃあ具体的に何をしていくかって話になるけど?」

 雨が空になったカップをいじりながら質問した。

「喫緊の事案だと、土がやっている事が非常にマズい」

 ぼそりと電が話をきりだした。

「水子の事かい?まあ、そういうオカルト関係だとうちでもいろいろ聞くし。やっぱり相当まずいのかい?」

「赤子は生と死の狭間にあるものだからな。存在があやふやだ。故に強大な力をもたらす。その力を使った何かの異変もあるかもしれん。件のことや黄泉の草の事」

「なにか、そういう呪法ってあったりするの?」

「あぁ。人理を過ぎた力は上手く誘導すれば土地の気脈に影響を与える。だが、その兆候が今のところ見えない」

「少し調べておいた方がいいかもね。それをなんとなく探るのは私に任せても良いかい?」

「ああ、構わない。どうやって探るんだ?」

「杠に辞めてもらう時に、看護師さんを何人か抜いていったんだ。だから看護師さんを居酒屋にでも誘って探ってこようかなって」

「そうなんだ、楽しそうだね。いいなぁ、私は森林組合にいろいろ聞いてみるよ」

「だが、そうなると厄介なのはやくざと警察だな」

「何か手はあるのか?」

 霧がタブレットを操作しながら電に応えた。

「草の生えている場所に心当たりがあるんだが」

「そうか、それなら私も手伝おう。山の事ならよく知っている」

「ありがとう。雨がいるとこちらも助かる」

 しかし、手伝う、と言った雨の表情に陰りが見え少し心配になった。

「あの、一緒に行っても、いいかな?」

「そうだな、もしかしたら絶やせるかもしれない」

 その言葉に少しだけ体が強張ったが、雨がありがとうと言ってくれたのですこし安心した。

「ゆかりさんは今日はお店どうするんだい?」

 雲がしれっと関係のない話題で虹に声をかけた。

「え、あぁ、臨時休業にしてきたわ」

「それじゃあ、私の家で晩御飯を食べていかないかい?」

 その言葉にぴくっと雨が肩を震わせる。

「そうねぇ、じゃあ私たちはもお呼ばれしようかしら。社長と先生は?」

「雲の家の料理は美味しいからねぇ。お邪魔しても良いかい?」

「私も担当していた案件がひと段落したところだし行こうかな」

「良かった。じゃあ、みんなは何が食べたいとかある?」

 雲のその言葉は多分、失言だったんだろうと思った。

「中華が良いね。エビチリとかかに玉とか」

「唐揚げ」

「和食がいいわぁ」

「焼き肉が食べたいな」

「ザッハトルテとベイクドチーズケーキ」

「・・・・・ご馳走になるのだから、なんでもいいよ」

 雲は皆のてんでバラバラの答えに苦笑いしながら

「分かった、分かった。みんな用意しよう。中華とケーキ、和食は、なじみの店に頼んで、焼肉と唐揚げは食材を買ってくればいいかな?」

 それから少しして雲の家に向かった。よく手入れされた庭のある平屋の大きな家だった。リビングに通されて、じゃあ、執行先生と雨子さんにはお肉を頼んでいいかな?ゆかりさんはこの時間にここのお店に料理を頼んでいるから取りに行ってもらっていい?菰方社長は、えっと、ここのお店に頼んでいるから電のケーキも一緒にお願いしますねと矢継ぎ早に指示を出す。

「それで私は今からお米を炊いたり食器を出したりします。では各自適当に過ごされてください」

「じゃあ、私は少し時間があるから命婦先生をお手伝いするわ。貴方はどうするの?」

「あ、雨についていっても良いかな?」

「一緒に選んでくれるの?嬉しいな」

「じゃあ、三人でお肉を買いに行こうか」

 霧に促され、雲の家を後にする。車に少し乗って、町中心部のスーパーに入った。この大通りを山の方に少し歩けば、以前に鉈を買ったホームセンターと雨に頼まれた唐揚げを買った肉屋がある。当時も今も、何も分かっていないけど、孤独ではなかったし不安もない。前を歩く二人が肉はどのくらい買えばいいかとか、どの部位を買おうかと楽しそうに喋っている。その会話を聞いているだけで満足だった。何故満足していたのかも分からないが、ついてきてよかったと思った。

地下駐車場から食品売り場に入り、肉を物色して回った。美味しそうなサーロインやヒレをカゴに入れ、真空パックされたウインナーやベーコンもいくつか選んでいた。雨はもも身を一キロほど買い込み、野菜売り場で生姜やにんにくを手に取った。香辛料も少し買い足し最後に片栗粉をカゴに入れた。

地下駐車場で荷物の積み込みを終えると、雨が少し空気が変だと告げた。

「少し様子を見てこよう。雨と一緒にいて」

「分かった」

 霧はそう言って辺りを見回しながら入口の方へ向かった。車の中でしばらく待っていると息の上がった霧が戻ってきた。

「待ち伏せをされていた。不審者を取り押さえたと言って警備員に引き渡してきた。相手はナイフを持っていたから銃刀法違反で連れて行ってもらった。後日関係者として警察へ行くことになったからまた何か分かるかもしれない」

「・・・・・怪我は、大丈夫?」

「あぁ。無傷だ。こう見えて喧嘩は雨より強い」

 ショッピングセンターでバイクを倒した雨の姿を思い出す。そんな彼女より強いなんて、細身の霧からは想像できなかった。

 雲の家に戻ると、出迎えた風が荷物を持ってくれた。甘ったるいおかずのかおりとご飯の炊ける匂い、だしの香ばしいにおいがリビングに満ちていた。雨が駐車場で起こったことを皆に話し、唐揚げを作りだした。霧がホットプレートを準備し始める。

「どうして執行先生は喧嘩が雨子さんより強いの?」

 唐揚げができるまでの間に気になっていたことを風に聞いてみる。

「あぁ、執行先生は何か武道をしていたんじゃなかったかな?だからだよ。多分」

 そうなんだと頷いていると、雲に声をかけられた。

「こんなに大勢でご飯を食べるのは初めてだろう?遠慮せずにうんと好きなものを食べていってね」

「ありがとう。本当に雲の家のご飯は美味しそうだね」

 奥の台所からじゅわっと音がして雨が油に唐揚げを入れ始めた。ぶぅーんと換気扇が回る音もする。香辛料の香りが染み付いた脂っこい空気を嗅ぎながら、新聞を読んだりテレビを見ていた。

「執行先生が捕まえた不審者、ニュースに流れるかと思ったけど、そうでもないね」

「捕まえた時間が時間だし原稿が間に合わなかったんじゃないかな?」

「家で雨の唐揚げが食べられるなんて幸せだなぁ」

「雨の唐揚げ、私も作り方教えてもらったことがあるけど、上手にできないのよね。母は上手にできるのに。何がいけないのかしら?」

 他愛のない話に相槌をうちながら、唐揚げが出来上がるのを待っていた。結局駐車場の事件は報道されなかった。

「お待たせ、さぁ、ご飯を食べよう」

 大皿一杯にきつね色の香ばしい唐揚げが湯気を立てて盛られていた。乾杯のあと、早速霧が肉を焼きはじめ風と虹が料理を取り分ける。電は唐揚げを頬張り、雲は喉を鳴らしてビールを飲む。

 雲の家で出された料理は全て美味しかった。そして雲と電が大食いだったことに驚いた。食事会は夜更けまで続き、風と霧は明日も仕事が早いからと代行で帰って行った。虹と雨は雲の家に泊まるらしい。片づけを終えてお湯を借り、温かい布団に入るとすぐに寝ついてしまった。

 命婦邸から帰宅してしばらくたったころに霧から連絡があった。虹にも事情を話しその日、雨はお店を休みにしてもらった。

  

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