雨に包まれた街で

 豪雨の中を這うように菰方邸へとたどり着き、温かい飲み物を渡された。こぎれいに片づけられた居間から臨む庭には、死体はおろか血の一滴も落ちていなかった。

「ニュースでもやっていないんだよ?おかしいと思うんだけど」

 ザッピングしながら風は誰ともなしに話をふる。いつしか周囲は大粒の雨が叩きつける音に満ちていた。

「きっと境界が曖昧になってしまったんだと思う。今は結界が起動してこれ以上曖昧になりはしないけれど。だから、警官の出動もやくざの騒動もまだ認識されていない。少しずつ、そういう兆候はあったけど。きっとむこうの保有する魂の総量が臨界点を超えたんだ」

 だから、玉が人の形をして動けるようになった、とソファで寝ている雨が呟いた。

「寝ていなくても大丈夫なのか?」

 ああ、と応じて、雨は身を起こし冷めたお茶を口に含んだ。

「行こう」

 どこへ?と皆尋ねなかった。落とし前をつけに行くのだ。

 車に乗り込む時に、ぼそっと雲が聞いてきた。

「何時に終わるかなあ・・・・・明日朝一で手術なんだけど」

「上手くいけば、終わるさ」

「過去の事例みたいに長引かないと助かるなあ」

どうどうと猛烈な雨の降る中、雲のぼやきにそっと同意する霧の声は乱暴な雨音にかき消された。

風と霧が印を切った武具を準備している間につけっ放しのニュースから土砂災害警報発令の報が流れた。雨足は一層強まり今後の天気の推移に警戒と青白いテロップが画面に光った。

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