独白、あるいは反撃
きっと、この瞬間がおとずれれば自分も含め何かがよくなるような気がした。だから役を引き受けた。自分の生業に常に疑問と罪悪感を抱いていた。それに対する贖罪の様なものが欲しかったのかもしれない。
山の中腹で遠雷の様な、生木を裂くような音が聞こえる。
一度、捉え損ねたあの子は元ある場所へ連れ戻した。少し手筈が整わなかったが、いちど揺り動かしてしまえば人知の及ばぬ結末に行き着いてしまうだろう。
「境界があいまいになってきている」
「臨界が近いのか?」
金と木が囁く声がする。
「いまさら、むこうの役の者が何をしても手遅れだ。坂を転がる石のように、もう誰にも止めることはできない」
以前、うろの中の主について金に聞いたことがある。拝火教の悪と起源は異なるが発生場所が似ているとか。ただ、この風土に長く閉じ込められていたため大分変質しているとも言っていた。なんだか宗教的で曖昧で胡散臭かったが、自分のやっている事に理由と赦しを与えてくれる存在なのだからそこまで深くは考えなかった。ただ、人知の及ばぬ現象、というだけで納得できたのだからそれでよかった。
「誰か来たな」
火がやおら気配のする方を向く。鯰型の化物が刺身になって霧の中から出てきた。
「弁護士業を畳まれて、板前にでも転職なさるのですか?」
「うるさい、弁護士への傷害は罪が重いんだぞ畜生が」
抜き身の刀を手に、後ろには血まみれの女とがらくたの人型を携えて、異様ななりだと思った。ガーパイクとタ―ポンの形をした化物に闖入者を襲わせる。
「そうそう、法律の専門家ならご存知でしょうが、医者への傷害も重罪ですよね?」
タ―ポンを斬り伏せ、腰を落とした構えで弁護士は不敵に笑う。
「うるさいな、ヤブ医者先生。釈迦に念仏ってことわざご存知?」
んな言葉あるかと気を取られているうちに女が玉と共にうろに飛び込んでいった。しまったと思ったが、何をしでかすつもりだと思いなおすと側頭部に鈍い衝撃が走った。そこで視界が暗転して意識が途切れた。
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