File.10 殺戮者フィーンド

 建物の陰から1人の男が現れた。

 手には鉈を持ち、乱暴に振り回している。

 容姿はというと、服はだいぶボロボロだった。

 目は正気を失っているのか虚ろで、口からは涎を垂らしている。

 この男こそ、ヴィールが語った彼の父フィーンドに違いなかった。

「うわああああぁぁぁぁあああぁぁああああぁああぁああああ!!!!」

 大声を上げ、鉈を振り回した。

 同時に鉈から錆びた色をした斬撃が画面の方に向かって飛び出してきた。

 『秘力』だ!!

ズガァァァァァァン!!!

 斬撃は、フィーンドがしっかりと狙っていなかったのか、誰にも当たることはなかった。

 何故か『秘力』を制御できていないようだ。

「『秘力』の属性は、何だと思いますか?」

 父親が騎士テイラーに訊いた。

 『秘力』の属性とは、『秘力』の性質を表す大まかな分類のことだ。

 例えば、俺は鋼と雷で、レフシィは水。

 主に色と秘力攻撃の性質から判断されるが、判断不能の物になると幻属性という適当な属性に割り振られる。

 フィーンドの先程の秘力攻撃による色から察するに、フィーンドの『秘力』の属性は、おそらく……

「おそらく、血属性でしょうな……」

 騎士テイラーは俺と全く同じ意見だった。

 これで、『血塗れ悪鬼事件』の血塗れの部分の意味も分かった。

 殺戮者が持つ『秘力』の属性から来たものだったんだ。

「らぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあ!!」

 フィーンドの絶叫と共に、再び鉈から斬撃が放たれた。

ドガァーーーーーーーーン!!

 フィーンドは、辺りを所構わず破壊している。

「ケインさん、フィーンド氏を止めますよ!」

「了解!!」

 2人は、それぞれ身体を構えながら言い合った。

 軍でもないのに、なんで父親は了解なんて言っているんだか……

「があああぁあぁぁぁあああああああ!!」

 フィーンドは暴れ続けていたが、やがて臨戦態勢の人々を見つけると、こちらに向かってきた。

「死ねぇぇぇ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 はじめて、フィーンドが言葉らしい言葉を発した。

 ただただ発狂しているというわけではないようだ。

「騎士テイラー、これより殺戮者を確保する!!」

 騎士テイラーは高らかに宣言し、紺色の剣をフィーンドに向けた。

「お前ら、出しゃばるなよ! 騎士の援護をしろ!」

「分かりました!」

 父親は、自分の部下たちに指示を出し、サブマシンガンの銃口をフィーンドに向けた。

 父親たちとフィーンドの戦いが幕を開けた。

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