Story.10 軍が動けない訳

「ところでさ、何で軍じゃなくて、騎士が動いたんだろうね?」

 ビデオテープを入れ替えようとしていたレフシィが、突然俺に訊いてきた。

「騎士じゃなきゃ解決できなかったからだろ?」

「でも、殺戮者絡みの事件で、騎士なんてまず呼ばないでしょ」

「そりゃ、そうだが……」

「それに父さんと騎士テイラーがそれぞれ言っていたでしょ」

 何か言ってたっけ?

「ほら、騎士テイラーが軍の穴埋めをしなくちゃならないって言っていたり、父さんが軍に任せることができなくなったって言っていたり、軍自体が機能不全になっているっぽいじゃん」

 そういえば、さっきそんなことを父親と騎士テイラーが言っていた気がする。

 軍が機能不全か……

 まるで……

「まるで、今の軍みたいじゃない?」

 俺の考えに合わせるように、レフシィが言ってきた。

 実は、今月に入ってから軍が動けなくなっている。

 軍内部にブレイブラッド帝国の工作員が紛れ込んでいたことが発覚したからだ。

 しかも、その工作員は自身を秘力使いだと偽り、他国の住民であることを完全に隠しきっていたらしい。

 そして、これが最大の問題なのだが、その工作員は何と軍の幹部にまで上り詰めていたのだ。

 少しでも発覚が遅れていたら、ライティーン王国はブレイブラッド帝国に敗北をしていたかもしれない状態にまで陥っていたのだ。

 そんなこんなで軍は現在、所属者の一斉検査を実施している。

 そのせいで現在、軍は出動することができない。

 それもあって、今は警察が対処困難な事件に遭遇した場合、だらけ切っている騎士団に動いてもらわなければならない。

 確かに15年前の状況と今の軍の状況は、似ているな……

「だが、15年前にも同じ状況になっていたのかってなると、そういうわけじゃないんじゃないか?」

「いや、あくまでも似ているなあって思っただけだよ」

 俺の反論にレフシィはすぐに反論した。

 まあ、実際のところは分からないが、有り得ることではあるわけだ。

 ブレイブラッド帝国の工作員は、多くの人員がいると聞く。

 実は隣にいる奴が……なんてことも無きにしも非ずなのが現状だ。

「まあ、そんなことより、レフシィ。続きを見ようじゃないか」

 そんなことよりも、今はビデオテープの続きだ。

 推測したって埒が明かない。

 さっさとビデオテープを見よう。

 ビデオテープを見れば、全てが分かるはずなんだ。

「そうだね」

 そう言って、レフシィは2本目のビデオテープを機械の中に入れた。

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