File.29 スタンガンの警棒

 一瞬、辺りが静寂に包まれた。

 少しの間だけ、サブマシンガンを構える父親と、鉈を持つフィーンドが対峙したままになった。

「うわあああああああああ!! 殺される!! 殺されるううううう!!」

 だが、その静寂はフィーンドの発狂によって破られた。

 鉈を振り回し、錆びた斬撃を辺りに撒き散らした。

ズドォォォォォォン!!!

ドガァァァァァァン!!!

 辺り一帯に爆発が起きる。

キィィィィィィィィィ!!!

 何も知らずに近くを通っただけであろう車が、急ブレーキをかける音が聞こえた。

「動くなと言ったのが聞こえないのか!!」

 父親はサブマシンガンの引き金に手をかけながら叫んだ。

 フィーンドは暴れるのをやめようとしない。

「うるせええええええええ!!!! 殺さないと殺されるんだああああああ!!!!」

 そして、更に絶叫して鉈を振り回した。

ズダダダダダダダダダダダダ!!!!

 父親がサブマシンガンの引き金を引き、銃弾が一斉に飛び出した。

「うわあああああああああああああああ!!!!」

 フィーンドは錆びた色のオーラを鉈に纏わせて振り回した。

 鉈に纏わりついた『秘力』で、銃弾を全て防いだようだ。

「敵わないか……」

 そう言いながら、父親はサブマシンガンを腰に戻し、警棒を両手で持った。

 まさか、秘力使い相手に近接戦をしようって言うのか!?

 と思ったのもつかの間、父親は凄まじいスピードでフィーンドに近付き、警棒を当てた。

 軍も真っ青の動きだったぞ……

バチッ!!

「おぇえええええええ!!!」

 発光と共に、フィーンドが苦しみだした。

 あの警棒の先端には、スタンガンがついていたのか?

 普通の警棒じゃないということは、あれも父親が自腹で手に入れた武器ということになる。

 いったい、どれだけ武器を持っているんだよ……

「観念しろ!!」

 父親は一旦警棒をフィーンドから離し、もう1度突きつけた。

バチバチッ!!

「あああああああああああああああ!!!」

 さっきよりも強力な電流が流れたのか、フィーンドが更に苦しみだす。

 だが、それでも致命傷には至っていない。

 『秘力』で身体が強化されているからだろう。

「やめろおおおおお!!! やめろおおおおおおお!!!」

 それでも、スタンガンに恐れをなしたのかフィーンドは再び逃げ出した。

「待て!!」

 父親は再びサブマシンガンを引き抜き、フィーンドを狙った。

ズダダダダダダダダダダダダ!!!

 だが、フィーンドの走るスピードは衰えない。

 フィーンドの行く手には、黄色い小型のバスがあった。

 画面がズームされ、バスに書いてある文字が見えてくる。

 よくは見えないが、「幼稚園」という文字がかすかに見えた。

 まさか、幼稚園バス!?

 止まっているバスにフィーンドが乗り込み叫んだ。

「お前らああああああああ、俺が生きるために死ねええええええええええ!!!」

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