File.7 殺戮者の名前

「あの……役に立てたでしょうか?」

 騎士テイラーが考え込んでから数分後、ヴィールが騎士テイラーに訊いた。

「え? ああ、役に立つんじゃないかな」

 一瞬、素の喋り方に戻りかけていたが、騎士テイラーは笑顔で答えた。

 その答えを聞いたヴィールは、嬉しそうにしている。

 憧れの騎士から褒められたんだ。

 これほど、嬉しいことはないんだろうな……

「ヴィール君、ありがとう。君のおかげで、捜査が進みそうだ」

 父親はヴィールの頭を撫でた。

 う、羨ましい……

 その後、父親の部下の警察がヴィールを迎えに来て、ヴィールを画面の奥の方に連れていった。

「しかし、殺さなきゃ殺されるっていったいどういう意味なんでしょうね……」

 ヴィールを見送った父親が、騎士テイラーに質問した。

 というより、呟いたの方が正しいか?

「さあ……。それよりも私は、謎の集団とそれを率いているであろう長髪の双剣士のことが気になります」

 騎士テイラーは、神妙な面持ちで父親の質問とは関係ないことを言った。

 どちらも気になることだ。

 この事件は謎なことが多すぎる。

 『イレイズド・ファイル』になってしまうのにも頷ける。

「ところで……ヴィール君の父さんの名前って、何なんですか?」

 騎士テイラーが、ふと気づいたかのように父親に質問した。

 って、訊き忘れているだけじゃないか!!

 仮にも騎士だろ……

「ああ、フィーンドって名前ですよ。近くの鉱山で働いていたらしいです」

 父親は、騎士テイラーのうっかりに気付いていないようで、普通にサラサラと答えた。

 フィーンドか……

 『血塗れ悪鬼事件』の悪鬼は、その殺戮者の名前から来ているんだな……

 じゃあ何で、血塗れなんだ?

 ますます謎が深まるばかりだぞ……

「鉱山? この近くのですか?」

 となると、ヴィールやフィーンドが住んでいるこの辺り一帯は、その鉱山で栄えた街ということか……

 この住宅街に住んでいる人たちも、鉱山働きが多いんだろう。

「後で、鉱山の方にも行ってみるか……」

「どうしてですか?」

 騎士テイラーの呟きに父親が反応した。

 何故って、そりゃあ……

「事情聴取ですよ。殺戮者になった理由が、職場にあるかもしれませんから……」

 騎士テイラーが当然そうに答えた。

「なるほど。では、後でお供しますよ」

 父親はすぐに納得した。

「それはありがたい。では、すぐに……」

「あ、ちょっと失礼」

 騎士テイラーが鉱山に向かおうとすると、突然父親が待ったをかけた。

 何事だ?

「しばらく休憩だ!!」

 父親が画面の奥の方に向かって大声で言った。

 どうやら、休憩時間になっただけらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る