Story.5 イレイズド・ファイル

「兄さん、大丈夫?」

 デスクに太ももをぶつけた俺を見て、レフシィが心配してくれた。

 ……までならいいんだけど、レフシィ。

 お前、口元がにやけているぞ……

「あ、ああ、大丈夫……」

 俺は痛みを我慢しながら、立ち上がった。

 嘘です。

 凄く痛いです、はい。

「で、父親が関わった最後の事件だって!?」

 気を取り直して、話題をビデオテープに戻した。

「そうそう。やっと、見つけられたよ」

 レフシィは、額の汗を拭う仕草をしながら言った。

 何故、俺がデスクに足をぶつけるほど驚いたのか……

 それは、今まで見つけられなかった物が、不意にひょいっと出てきたからだ。

 俺とレフシィは、父親について調べる中で、唯一すぐには見つけられなかったもの、それが父親が関わった最後の事件のデータだった。

「『血塗れ悪鬼事件』……?」

 俺は、ビデオテープの側面に書かれた文字を読んだ。

 また、随分と物騒な名前だな。

「それが、父さんが最後に関わった事件の名前らしいね」

 レフシィは、一回その文字を見たのか、冷静に反応した。

 それにしても、最後の事件だけビデオテープとはいったいどういうことなんだろうか?

 今まで見つけた父親が関わった事件のデータは、ほとんどが文字の記録だった。

 それなのに最後の事件だけ、ビデオテープとはいったい……

「レフシィ、何処でこれを見つけたんだ?」

 俺は気になったので、レフシィに訊いた。

「騎士団の『イレイズド・ファイル』の中から……」

 場の空気が一瞬にして凍りついた。

 『イレイズド・ファイル』だって!?

 騎士団が関わって、解決できなかった事件が収められているファイルじゃないか!!

 そんなもの、どうしてレフシィが……

「どうして、お前が『イレイズド・ファイル』なんか持って来れたんだ?」

「バルドス先輩に協力してもらった」

 俺の質問にレフシィが即答した。

 なるほどねえ……

 そりゃ、あいつに協力してもらえれば、すぐに見つけられるはなあ……

 バルドスは、俺と同い年の友人で、ライティーン王国の王子様だ。

 つまり、騎士団の上司に相当する立場の人間というわけだ。

 そのため、騎士団の資料はあいつにとって、自分の本棚と同義だ。

 多分、レフシィがバルドスに頼んで、この『血塗れ悪鬼事件』のビデオテープを探させたのだろう。

 父親に関することで、他人を巻き込みたくはなかったんだけどな……

 しかし、レフシィは『血塗れ悪鬼事件』が、父親の関わった事件だって、よく分かったな。

 まあ、何故かは訊いてみれば分かるか。

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