File.5 謎の襲撃

「君がヴィール君だね?」

 騎士テイラーがしゃがんで、小さなヴィールに訊いた。

「は……はい……」

 ヴィールは、騎士テイラーの顔を見るなり、怯えるように後ずさった。

 年上に話しかけられることにあまり慣れていないのかもしれない。

「怖がらなくても大丈夫だ。君の憧れている騎士だよ」

 父親はヴィールに優しく話しかけた。

 すると、突然ヴィールの顔が明るくなる。

「え!? 本当ですか!!」

 どうやら、このヴィールという少年は、騎士に憧れているようだ。

 騎士テイラーは鎧を付けているのに、何故騎士だと気付かれなかったのかは謎だが……

「あ、ああ……。そうだよ……」

 オドオドしながら、騎士テイラーが言った。

 戸惑っているのかと思えば、顔が微妙に赤い。

 照れているな……

「ヴィール君。この人に君の父さんに何があったのかを教えてあげてくれないか」

「は、はい!!」

 しばらく騎士テイラーとヴィールの様子を見ていた父親は、咳払いしつつ言った。

 多分、会話が進まないことを見かねての行動だろう。

 しかし、何があったのかだって?

「何があったのか?」

 騎士テイラーも不審がっている。

 どうも、この『血塗れ悪鬼事件』はただの殺戮者絡みの事件というわけではなさそうだ。

「き、昨日の夜の……ことでした……」

 ヴィールは途中途中でつまずきながらも話し始めた。

「僕は、いつも通り父さんや母さんと一緒にご飯を食べてました……」

 何気ない普通の家庭で育ったようだ。

 それが、どうして壊されてしまったのか……

「しばらくして、ごちそうさまをしようとしたら、突然物凄い数の飛行機の音がしました」

 物凄い数の飛行機だって?

「何なんだろうって母さんと話していると、突然家に大人の人がゾロゾロ入ってきました」

 ということは、ヴィールの家族は武装集団の襲撃を受けたってことか!?

 もはや、殺戮者の事件という範疇じゃないぞ!

 ……あれ?

 でも、ちょっと待てよ……

 襲撃を受けたのなら、何でヴィールの父親が殺戮者になっているんだ?

「その大人の人たちって、手に何か持ってなかったかな?」

 騎士テイラーが質問した。

 多分、答えは分かっているんだろうが、確認のためだろう。

「鉄砲を持ってました……」

 やっぱり……。

「父さんは鉈を持って、僕たちを守ってくれました……」

 聞くところ、ヴィールの父親は家族思いの良い父親だったみたいだ。

 だとしたら余計に、何で殺戮者なんかに……

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