Story.8 騎士からの忠告

 閲覧室はさながら小さな映画館のようで、でかいスクリーン、完全防音の壁、それなりのスピーカーとなかなか豪華だ。

 もちろん、ここで映画を見ようものなら、上司から謹慎処分を喰らう羽目になる。

 定期的にお偉方が閲覧履歴をチェックしているからだ。

 だが、警察になりたての者は、よくここで映画を見て、謹慎を喰らっている。

 全く、警察を何だと思っているんだか……

 閲覧室に着くと、すぐにレフシィが部屋の中にある機材を操作して、ビデオテープを機械の中に入れた。

 ちなみに、本来は捜査記録を見るための部屋なので、椅子の前には、映像を操作するための機器が置いてある。

「ところで、レフシィ。ここで、『イレイズド・ファイル』を見ても、処分が下るなんてことはないよな?」

「事件の捜査ですって言えば、何とかなるんじゃない?」

 ……不安だ。

 一応、その言い訳を考えなかったわけでもないが、仮にもこれから見るのは、15年前の捜査記録だ。

 後で「何でそんなものを見たのか」と、ツッコまれかねない。

「まあ、そういうことは後で考えればいいと思うよ」

 レフシィが椅子に座りながら言った。

 だから、不安すぎるって……

「いやいや……」

「ん!?」

 レフシィが突然顔を歪めた。

 困惑しているみたいだが……?

 俺はレフシィの視線の先、つまりスクリーンを見た。

 そこには、1人の男が映っていた。

「はじめまして……と言っておこうか?」

 スクリーンの中の男性が、まるで俺たちに話しかけるように言った。

 『イレイズド・ファイル』は、あくまでも映像記録であるはずだ……

 ということは、このビデオテープは編集されているってことか?

「おそらく、この『イレイズド・ファイル』を見る者は、ケインの息子たちだろうと思う。団長に頼んで、これを王族に託したからな」

 スクリーンの中の存在に、観ている人間のことを当てられるのは気味が悪い。

 発言からすると、この男は父親のことも俺たちのことも知っているようだ。

 ということは、この男が『血塗れ悪鬼事件』を捜査した騎士だろうか?

「俺の名前はテイラー。この『血塗れ悪鬼事件』の捜査協力をした騎士だ。俺から、ケインの息子たちに忠告したいことがある」

 忠告?

 『イレイズド・ファイル』を編集してまで、忠告することって何だ?

「ケインが殺されて、この事件を起こした殺戮者を恨んでいるかもしれない。だが、この記録を見るのなら、その先入観は捨て去ってほしい」

 ん?

 いったい、どういう意味だ?

「それから、この事件は『イレイズド・ファイル』、即ち未解決事件だが、誰が真犯人かと推理する必要はない。そもそもこの事件は『イレイズド・ファイル』になるはずがなかった事件だ。たった1つ、ある問題が発生したために解決不能になったから『イレイズド・ファイル』になってしまった」

 騎士テイラーは、一呼吸置いてもう1つ俺たちに忠告してきた。

 意味の分からない忠告ばかりだが、それは中身を見れば分かるだろう。

 そう思って、俺はスクリーンに意識を集中した。

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