14 魔王、新たな魔法を習得する
とりあえず修羅場は回避した俺だったが、まだ問題は残っている。
「そこの小娘がどうして記憶を持ったままループしたのか、調査の必要があります」
「その小娘って言うのは止めてよ。ボクにはローズマリアっていう、ちゃんとした名前があるんだよ」
「ではローズマリア。あなたの身に何が起きているのか、調査させて頂きます」
有無を言わせぬ口調でそう言い捨てると、アリスティアは、ローズマリアに対しその手を向ける。
「おい、大丈夫なのか?」
「心配は御無用です。ただの探査魔法の一種ですから」
まあアリスティアの性格ならば、こういう状況で嘘は付かないだろう。
やるときは素直にやるという子だ。
「そうか。済まないがマリア……」
「ボクは大丈夫だよ。ねっ、ティアちゃん?」
「ティアちゃんってなんですかっ、その呼び方は止めて下さいローズマリア」
「いいじゃん、そっちの方がなんか可愛いし。あ、あとボクのことはマリアでいいよ」
「か、可愛い……!?」
何やら良く分からないうちに、2人の距離が縮まっているのは気の所為か?
まあ悪いことじゃないから、いいんだけどさ。
それから暫く間、アリスティアがあれこれと調査を行っているのを、俺はただ黙って眺めていた。
そうしているうちに半刻程、経っただろうか。
「成程……。大体分かりました」
「どうだった?」
「どうやら私が使ったループの魔法と、彼女の魂が完全にリンクしてしまっています。そのせいで、彼女もまた魔王様と同様に、ループ後に記憶を保持するようになってしまったようです」
「なんだと……。解除は出来ないのか?」
「下手にリンクを解除しようとすれば、ループの魔法まで消去しかねません。よって現状では無理だと判断します」
「どうしてそんなことに?」
「……どうやら、ナイトレイン様と彼女のその、ボソボソ、が原因のようですね」
肝心の所が、小声で聞き取れない。
「済まない、良く聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「そ、その……ボソボソ」
「いやだから聞こえないって……」
何を恥ずかしがっているのか、アリスティアが妙にもじもじとしている。
「っつ。うー……。せ、性交渉だと言ったのですっ。ううっ。ナイトレイン様がこんな女に手を出すからぁ」
顔を真っ赤にして涙目になりながらそう叫ぶアリスティア。
気のせいか言葉遣いまで変わっている。
「そ、そうか……」
まさか、彼女とのアレが原因とは……。
「そ、そんなこと有り得るのか?」
「そう、ですね……。ある意味では、魂同士の接触の意味合いも含まれた行為ですから、理論上は十分に有り得ます……」
「そ、そうなのか……」
アレにそんな意味まであるとは初耳だ。
「と、ともかく、原因も分かったことですし、ナイトレイン様はもう2度と! 絶対に! 他の女に手を出さないように! でないとまた事態がややこしくなりますよ」
「た、確かにそれは困るな……」
俺と致した女の子が、ループ時の記憶を保持するようになるというアリスティアの説が正しければ、俺が女の子に手を出したら非常にマズイことになる。
「だけどさ、もう巻き込まれちゃったボクなら、きっと大丈夫だよね?」
そ、そうか。
ローズマリアが相手なら、状況がこれ以上悪化する心配もない。
「ダメに決まっています! 大体、結婚もまだの男女がそんな……するなんて……」
最後の方は、尻すぼみとなって良く聞こえなかったが、まあ大体言いたいことは分かる。
というかアリスティアは、意外と初心なんだよなぁ。
そういうところも彼女の魅力の一つかも知れない。
「うーん、でも確かにティアちゃんの言う通りかも? 女の子に手を出すなら、最後まで責任を取る覚悟をしてからにして欲しいよね」
「じゃ、じゃあ、マリア。今から俺と結婚しよう!」
焦燥感から、思わずそんなことを口走る俺。
相変わらずの屑っぷりである。
「それもダメです! 少なくとも私と結婚するまでは、許可は出来ません!」
「だってさ、ティアちゃんはこう言ってるけど、どうするのレイン?」
2人に見つめられ、結局俺はこう言うしかなかった。
「……はぁ。誰にも手を出さないと誓おう。これでいいか? アリスティア」
「はい! ナイトレイン様」
こういう時のアリスティアは、天使のような微笑みを浮かべて俺を惑わす。
余りの魅力に、俺はコロコロされるのだ。
まあそれもまた悪くは無い気分なのだが……。
「では用事も済みましたし、そろそろ私は帰ります」
「ああ、ちょっと待ってくれ。折角ここまで来たんだから、この村の復興に役立つ魔法かなんかあれば教えてくれないか?」
前回のループでは、ハッキリいってほとんど肉体労働的な側面でしか俺は役立てなかった。
だが、俺には溢れる魔力が存在する。
それらを活かせるなら活かしたいのだ。
「……そうですね」
そう言って地面を蹴り、アリスティアは空高く飛び上がると、村全体を見回す。
「成程、畑の地面はボロボロ、土の質も悪い。農業をやるには向かない土地ですが、かと言って他にこれといった産業が有る訳でもない……」
その通りだ。
やせ細った土地で、どうにか農作物を育て、足りない栄養を森からの収穫で補っている状態だ。
近くに良質な狩場となる森が存在するので、かつては男たちが狩りをすることで生活が成り立っていたようだが、今は男手がいない為それも難しい。
「分かりました。戦闘力の向上には直接繋がりませんし、いくつか農業関連の魔法をお教えしましょう」
おお、マジか! 取り合えずダメ元でも頼んでみるものだな!
「魔法かぁ。凄いなぁ、ボクにも使えたらいいのに……」
ヒューマン種は、そのほとんどが魔力を全く持たず、魔法が一切使えない種族である。
こんな辺鄙な村には、魔法使いなどいなかったのだろう、ローズマリアの目には魔法に対する憧れが宿っている。
「あら、あなたも練習すれば使えますよ、マリア」
「「えっ?」」
俺とローズマリアは同時に驚きの声を上げた。
俺はそれを確かめるべく、ローズマリアの魔力を探る。
……言われてみれば確かにあるな。
俺やアリスティアとは比べるべくもないが、確かに魔力の波動を感じる。
「ねぇ、ボクにも魔法使えるの?」
「まあ、適切な指導を受ければ……、ですがね」
「教えてよ、ティアちゃん!」
そう言ってローズマリアがアリスティアへとしがみつく。
「ちょ、ちょっと。は、離れて下さい。分かった、分かりましたから……」
「やった!」
「私にもやる事がありますし、半日だけですよ」
そうして、アリスティアの魔法の指導が始まった。
ローズマリアは魔法の基礎を、俺は農業関連の魔法を教わる。
半日はあっという間に過ぎ去り、アリスティアは魔王城へと帰って行った。
「わーい、これでボクも魔法使いだよ!」
「良かったな」
俺もまた、農業関連の魔法を無事会得した。
さあて、これらを活かして、俺の農村ライフをバラ色に染め上げてやるぜ!
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