36 絆の力

「ハハハッ。僕の進化したチート能力の凄さを見せてあげるよ!」


 胡乱な表情で、そう言うハヤト。

 その瞳にはもはや狂気すら感じられた。


「行くよ! 時間停止タイムリストリクション


 ハヤトがそう叫ぶが、周りになんら変化は起きない。


「なんでだよっ!? どうして止まらないっ!」


時間停止タイムリストリクション! 時間停止タイムリストリクション!」


 そう何度も繰り返し叫ぶが、一向に効果は現れない。


「くそっ、何がどうなって……」


「先程、あなたとナイトレイン様の魂を魔法によって接続させて頂きました」


 おいっ。いつの間に俺とハヤトの魂を接続なんてしやがった!


「今のあなたはナイトレイン様の魂という重しによって、時間停止能力を行使出来ない状態にあります」


 どうやらハヤトが時間を止めようとしても、リンクしている俺は動いたままなので、上手く停止することが出来ないらしい。


「くそっ。だったらお前もろとも時間を止めてやればいいんだろっ! はぁぁぁ!!」


 ハヤトの魔力が再び高まりを見せる。

 これは不味いのかっ!?


「無駄です。ナイトレイン様には私を含め、幾人もの魂が結びついています。それら全てを止めることなど、どれ程の魔力があっても不可能です」


 アリスティアが余裕の笑みを浮かべ、そう指摘する。


 そうだった。

 これまでのループの中で、俺の魂にはアリスティアとローズマリア、そしてシャッハトルテ、彼女達の魂が結びついているのだ。

 その重みを、ハヤトなんかに背負える訳がない。


「これで最後だ! アリスティア、カノンベル! 止めを刺すぞ!」


「はい!」「……分かったわよ!」


 俺が正面に、その左右にアリスティアとカノンベルが並び、一斉にハヤトへと斬りかかる。


「ぐはぁぁぁっ!!」


 碌な抵抗も見せないまま、ハヤトはあっさりと俺達の攻撃を受けて倒れる。


「なんで。こんなはずじゃぁ……」


 驚愕の表情を浮かべながら、そう呟くハヤト。

 その言葉を最後に、彼の瞳からゆっくりと光が失われていった。



「終わったな……」


 ようやくハヤトを倒せた事に俺は安堵の息を吐く。


「終わりましたね」「そうね……」


 アリスティアとカノンベルも俺と同じで、リラックスした表情を見せる。


「お疲れさまです、皆様」


「カノン、怪我はないか?」


 後ろに控えていた連中も、俺達へと駆けよって来る。


 皆が笑顔を浮かべているのを見て、俺はやっとで戦いの終わりを実感する。


「疲れたな……」


 思えば、カノンベルを説得するだけのはずが随分と大事に発展してしまっていた。

 今日一日が恐ろしく長く感じられる。


 ただ得た成果は大きい。

 勇者ハヤトという不確定要素の排除に成功した。

 そして彼との戦いの中で、勇者カノンベルとの間のわだかまりが大分消えたように感じる。


「……ナイトレイン様、少し宜しいですか?」


「どうしたアリスティア?」


 俺はアリスティアに連れられ、誰もいない外れまで移動する。


「ナイトレイン様。これからループの魔法を解除します。そうしないとまたあの者が復活しますから……」


 アリスティアの言う通り俺が死んでまたループすれば、折角倒した勇者ハヤトが復活する危険がある。

 あんな奴の相手は一度で十分だ。


「そうか……」


 あれだけループから逃げたがっていたのに、いざその時になると、それはそれで不安になるものらしい。

 だが、解除を拒否するという選択肢は俺の中には無かった。


解除リリース


 俺に絡みついていた光の糸が浮かび上がるのが見えた。

 その糸は、アリスティアやシャッハトルテにも伸びている。

 恐らくは遠くにいるだろうローズマリアにも届いているのだろう。

 それらがゆっくりと空気に溶けるようにしてほどけていく。


 しばらく見守っているうちに、やがてそれらは全て消えてしまった。


「これで魔法は完全に解除されました。もうナイトレイン様が死んだとしてもループは起きません。ですから……」


「分かっている。決して死なないように、だな?」


「ええ、その通りです」


「そう言えば、俺を不老不死にすると言っていたのは解決したのか?」


「はい。ナイトレイン様には私が改良した進化の秘法で始祖吸血鬼オリジンヴァンパイアに成って頂きます」


「そうか……」


 まあ魔王から吸血鬼になったとしても、きっと大した違いはない。

 それに永遠の時を生きるアリスティアには、寄り添ってやる存在が必要だろう。

 それを俺が果たすのも、まあ悪くはない話だ。

 

 そんな事を考えながら、俺は顔を上へと向けた。

 そこには透き通るような、雲一つない蒼い空が広がっていた。

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