37 エピローグ

 黒の勇者ハヤトとの戦いを終えた俺は、改めて勇者カノンベルと話し合いの場をもった。


「……まあ、あなたが嘘を言っていないのは信じてあげる。でも魔族全体を信じた訳じゃないから!」


 勇者カノンベルとの和解には取り敢えずだが成功し、協力して人間と魔族との争いを止めるよう動くことになった。


 カノンベルごと俺達を抹殺しようと企てたり、勇者ハヤトを呼び出したりと何かと黒い行動が多かった星光教会エトワールエグリーズだが、俺とアリスティアの暗躍によってその権力はほとんど失われた。


 アリスティアの調査によって、それらの黒幕だと判明した教皇をまず抹殺。

 その後シャッハトルテから紹介を受けた穏健派の枢機卿を新たな教皇に据えることで、教会はほとんど無害な団体へと化した。


 どうやら、対魔族の強行路線はそのほとんどが元教皇の主導によるものだったらしく、頭を潰すことであっという間に瓦解したのであった。

 直属の実行部隊であった夜天十字騎士団リバースクルセイダーズも解体となり、その戦力は散り散りとなった。


 一方の魔族側だが、人間に対する蛮行を行い続けていたラエボザを処刑し、その際に俺が魔王としての力を十全に見せつけたことで、全体としての空気は人間への協調路線へと纏まりつつある。

 魔族はどうも強さを重んじる傾向が強いからな。

 俺がしっかりさえしていれば、そうそうバラバラになることも無いだろう。


 まだまだ問題は数多く残ってはいるが、大陸全体の雰囲気としては、魔族と人間の融和へと向かっているはずだ。

 このまま、良い方向へと進み続けるよう俺も頑張らないとな。


 ◆


 俺個人の話をすれば、アリスティアの主導の元、俺は無事始祖吸血鬼オリジンヴァンパイアへと成った。

 と言っても、元々俺は非常に高い身体能力を持っていたので、体感上は特に変化は無かったように思える。


 まあ、これ以上俺一人が強くなっても、人間達との間の不和の種にもたらすだけだから、別にそれは構わないのだが。


 で、それよりちょっと前の話になるのだが、俺は結婚した。

 それもアリスティアにローズマリア、そしてシャッハトルテの3人と同時にだ。


「ナイトレイン様! 他の2人を娶ることは許しますけど、正妻は私ですからね!」


「べっつにボクは、正妻とか側室とかどうでもいいかな~。レインの傍に居られれば何でもいいよ」


「わたくしは、いっそ妾でも構いません。人間と魔族が仲良くやれるという事を、きちんとした形で示せればそれでいいのです」


 意外なことに3人の主張は特にぶつかることは無く、あっさりと彼女達3人の俺への嫁入りは確定事項として進んでいった。

 正妻の地位にはアリスティアが就き、ローズマリアとシャッハトルテの2人は側室として扱われる事になった。


 これらは全て俺の意思を置いてけぼりにして決まったので、ちょっと俺は釈然としない気分だった。


 別に3人と結婚することに何か不満がある訳じゃない。

 皆、俺なんかには勿体ないくらい出来た女性達だ。

 ……ただ、それでも一言くらいは俺にも相談して欲しかった思っただけだ。


 その後の彼女達の動向だが、ローズマリアはどうやらアリスティアに頼んで始祖吸血鬼オリジンヴァンパイア化を目指すらしい。

 進化の秘法を使うのにかなりの魔力が必要となるので、現在猛特訓中だ。


「ボクはずっとレインと一緒に暮らすんだからね!」


 シャッハトルテは、結婚後程なくして人間領へと戻り、人間と魔族の融和に力を注いでいる。

 ローズマリアとは違い、彼女はヒューマンのまま一生を終えるそうだ。


「レイン様との間に子供を作れないのは少々残念ですが、私は一人の人間としてレイン様に寄り添いたいと思います。それがきっと魔族と人間の融和の証になると信じて……」


 そんな事を言っていたシャッハトルテだったが、直後妊娠が発覚する。

 どうやら俺が吸血鬼となる前に致した際に出来た子のようだ。


「そんな……。レイン様の長男は私が産むって決めてましたのに……」


 アリスティアが愕然とした表情を浮かべて天を仰いでいる。


「トルテちゃんいいなぁ。ボクも早くレインとの子供が欲しいよ」


 ローズマリアは羨ましそうな表情で、シャッハトルテのお腹を撫でている。


「……嬉しいです。レイン様との子供は諦めていたので……」


 当のシャッハトルテ本人は、抑えられない喜びに身を震わしていた。


 俺もどうやら父親になる時が来たらしい。

 まだ全くと言っていい程実感は湧かないが、子供が生まれたら変わるのだろうか。


 そんな感じで、俺達は和やかな日々を送っていた。


 ◆


 結局、黒の勇者ハヤトに力を与えた存在については、何も分からなかった。

 彼の召喚に関わった元教皇やヒートヘイズらを尋問しても、ロクな手掛かりは出てこなかったのだ。

 どうやら彼らも知らないらしい。


 流石のアリスティアでもどうやら心当たりも無いらしく、現在も謎のままだ。


 まあその後それらしき人物からの干渉は特に見られないから、きっと大丈夫だと思うことにしよう。

 それにまた何かあったとしても、全員で力を合わせればきっと退けることだって出来るはずだ。


 俺にはループの力は失われたけれど、その中で得た沢山の絆がある。

 その力は、きっと時代を経ても形を変えながら存続していくことを俺は信じている。


「さあて、今日も魔王として頑張りますかっ!」


 そんな事を叫びながら、俺は玉座の椅子から立ち上がる。

 その隣では、アリスティアが太陽のような微笑みを浮かべていた。

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ループ魔王の異世界奮闘記 王水 @ousui213

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