35 ハヤトの秘密
「俺とアリスティア、それからカノンベルの3人で前衛を務める! 他の奴らは援護に回ってくれ!」
勇者と名乗るだけあってハヤトは高い能力を持つ。
俺達3人以外では、直接対するのは危険が大きいとの判断だ。
「ちょっと! 勝手に仕切らないでよっ」
カノンベルが顔を膨らませながらそう文句を言う。
「なんだ? 何か不味かったか?」
「別にそう言う訳じゃないけど……」
「だったら、今は俺の言う事に従ってくれ」
「……分かったわよ」
まだ不満顔ではあるが、一応は納得してくれたようだ。
「弱い奴らが群れちゃって、本当面倒だなぁ。どうせ僕のチート能力には誰も勝てない癖に」
不愉快そうに顔を歪めながらそう言うハヤト。
剣を無駄に持ち替えている辺り、相当イライラしているようだ。
「なあ、アイツの言うチート能力って、一体なんだと思う?」
小声で俺は横の2人に問い掛ける。
「急に視界から消えて移動してたから、短距離転移辺りかしら?」
同じく小声でカノンベルが、推測を述べる。
「いや、それなら直前になんらかの予兆が見えるはずだ」
「……少し考えがあります。私が仕掛けますので、2人にはフォローをお願い出来ますか?」
アリスティアにはどうやら何か心当たりがあるようだ。
任せてみるとするか。
「了解だ」「……分かったわ」
「何ごちゃごちゃ、喋ってるのさ。仕掛けて来ないならこっちから行くよ?」
「いいえ、私が仕掛けさせて貰います!
アリスティアが何かの魔法を発動する。
が、直接相手に効果を及ぼすモノでは無いらしく、何も起こらない。
「ふん、なんだか分からないけど死になよ!」
ハヤトがこっちへ掛けてくる。
「ぐあっ」
認識した次の瞬間には、何故かアリスティアの正面で何かに引っ掛かったように呻いているハヤトの姿があった。
「死になさい!」
それを狙っていたかのようなタイミングで、アリスティアが魔力爪による攻撃を仕掛ける。
「くそっ」
その一撃をどうにか、後ろに転がりながら回避するハヤト。
「仕留め損ないましたか……」
「何がどうなったんだ一体?」
「私が魔法で生み出した不可視の網に引っ掛かったのです」
先程のハヤトの妙な挙動は、それが原因か。
「転移魔法ならば、そのような障害など無視出来たでしょう。恐らくあの男が使っていたのは、"時間停止"能力です」
アリスティアの口から、驚愕の事実が語られる。
「ナイトレイン様の視界から逃れ、簡単に後ろに回り込めたのもその能力のおかげです」
「そういう事か……」
消えたように見えたのは、停止した時間中に俺の背後に移動したからなんだな。
「見た所、恐らく止めれる時間はこく短時間で、しかも連続での使用は無理のようですね」
つらつらとアリスティアがハヤトの能力に対する推測を述べる。
良くこんな短時間でそこまで見切れたな。
「それにこの様子ですと、停止した時間中にこちらへ直接害を及ぼすこともまた出来ないと見えます」
まあそうなんだろうな。
でなければ時間停止中に俺を殺せばいいだけの話だ。
「く、くそぉっ!」
どうやら図星なのか、ハヤトが物凄い形相でアリスティアを睨み付ける。
「時間停止とは厄介な能力だが、タネさえ分かればいくらでも対処のしようはある。そろそろ年貢の納め時だなハヤト」
俺はハヤトに剣を向けながらそう言う。
「くそぉぉぉ! ■■よ。もっと僕に力をよこせぇぇ!!」
ハヤトがそう大声で叫び声を上げる。
それに応じたのか、ハヤトの魔力が急激に膨れ上がる。
「これは……。ナイトレイン様、失礼します。
アリスティアが何らかの魔法を発動する。
「な、なんだっ」
彼女の腕から放たれた光が、俺とハヤトの2人に絡みつく。
そうしている間にも、ハヤトの魔力の膨張は止まらない。
くそっ。物凄い圧力で近づけないっ。
やがて、ハヤトからの魔力の放出が収まる。
「あはははっ、これは凄いや。流石■■様」
まずいな……。今のハヤトの魔力量は、俺やアリスティアすら上回っている。
その上、例の時間停止能力まで駆使されると、この場の全員で戦っても勝利が危うい。
「さっきは良くもこの僕をコケにしてくれたね。まずはそっちの女から殺してあげるよ!」
そう言って、ハヤトがアリスティアへと剣を向ける。
俺達とハヤトとの戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
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