34 黒の再来
懸念の一つであったヒートヘイズだが、死にこそはしていないものの、ジェレイントとブリアレオスによってボコボコにされて気絶している。
アイツには色々と手を煩わされたから、正直ざまあみろという気分だ。
途中からは殺さない様に手加減していたとはいえ、騎士達にはそれなりに死傷者が出ている。
その為現在、シャッハトルテを中心として治癒魔法が使える者たちが、戦場跡を治療に駆けずり回っている。
俺も手伝いたい所だが、自分にならともかく他者への治癒魔法はどうも苦手らしく、下手をすると逆に邪魔になりそうだったので大人しくしていた。
まあそれに、魔王である俺に治療されてもいい気分じゃないだろうしな。
「ああああっっ!!」
そんな風に気を緩めていた矢先、勇者カノンベルが突然叫び声を上げるのが聞こえてきた。
「どうしたっ!」
何事かと、勇者カノンベルに近寄るがどうも様子がおかしい。
彼女は両手で頭を押さえて、うめき声を上げ続ける。
そうしているうちに他の連中も駆け寄って来る。
「大丈夫か、カノンっ!」
「勇者様、しっかりして下さいませ!」
「ぅあああああっっ!!」
そんな心配の声などまるで届いていない様子で、ひたうら呻き声を上げるカノンベル。
そんな中、突如として彼女の頭上に黒い魔法陣が浮かび上がった。
そこからは、得体の知れない黒い波動が漏れ出している。
「これは……」
アリスティアが言っていた、勇者カノンベルを殺した際に浮かび上がったという魔法陣か。
だが、彼女はまだ死んでいない。
一体どういうことだ?
「くそっ、
魔法陣へと攻撃を試みるが、効果は無さそうだ。
くそっ、どうやったら止められるっ!
尚も魔法陣は黒い波動を放出し続ける。
それに応じて、カノンベルは苦しみの声を上げ続ける。
他の連中も、魔法による攻撃を試みているが、魔法陣は尚も動き続ける。
やがて魔法陣から黒い波動の放出が止まったかと思うと、空中に黒い穴が出現した。
そこから人影が出現する。
「勇者ハヤトっ……」
それは以前のループでも出会った、全身を黒で纏った勇者と名乗る青年の姿だった。
「ああ、魔王だ。また会えたね」
「また、だと?」
「君って、ループしてるんでしょ? ラスボスがセーブロードを駆使するなんて、まったく卑怯もいい所だよね」
「なぜそれを……」
俺がループしている事実は、アリスティアにローズマリア、そしてシャッハトルテの3人しか知らないはず。
「別にそんな事どうだっていいじゃないか。それよりも今度こそ殺してあげる。新しく貰ったこの聖剣でね!」
そう言って吸い込まれそうな漆黒をした剣を掲げる。
以前に見た時より、その剣は明らかに禍々しさを増していた。
あれのどこが聖剣だよっ!
「理屈はよく知らないけど、この剣を使って止めを刺せば、君はループ出来なくなるらしいよ。良かったね、君ループ嫌だったんでしょ?」
確かに何度死んでもループし続けることに対して、嫌気が差していた時期もあった。
「そうだったかもな。……だけどな。別にお前なんかに心配されたくはない!」
「ふーん、あ、そう。まあでも、殺すけどね!」
そう言ってこちらへと悠々とした足取りで向かってくるハヤト。
次の瞬間、俺は突如として奴の姿を見失った。
「なっ!」
そう言えば以前のループもそうだった。
目を一切離していないにも関わらず、突然姿を見失う。
アイツの能力的にも、俺の注意を振り切る程の速度で動くことなどまず無理なはずだ。
一体、何が……。
そう思いつつ奴の魔力を周囲から探ると、俺の背後に反応があった。
「いつの間に!」
振り返ると、そこには既に黒い剣を振り下ろそうとしているハヤトの姿あった。
くっ、間に合わないっ。
既に一手遅く、もはや防御も回避も不可能なタイミングだ。
ダメージを受ける覚悟を決めて、俺は身構える。
ガキィィン!!
だが、ハヤトの剣は俺へと届く一歩手前で停止させられていた。
「アリスティア!」
そう、俺の前には美しい吸血鬼の少女アリスティアが立っていた。
彼女が両手に繰り出した魔力爪とハヤトの剣がぶつかっている。
「くそっ。なんだよお前。邪魔するなよっ!」
力では押し切れないと判断したのか、剣を引き後退するハヤト。
「お怪我はありませんか、ナイトレイン様?」
「……ああ、大丈夫だ。だがどうしてここに?」
「夫のピンチを助けるのも、妻の役目ですから……」
そう言って天使のような微笑みを浮かべるアリスティア。
答えになってない気がするが、まあいい。
ともかく助かった事には変わりない。
「全員で奴を倒すぞ! アリスティアも手を貸してくれ!」
「ええ、勿論です。その為にここに来たのですから」
そうして黒の勇者ハヤトとの戦いの第2幕が始まった。
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