33 勇者カノンベル
数の差は圧倒的だったが、その差を覆すだけの個々の実力差が存在したようだ。
アイゼンハルトは勇者カノンベルの守護に入り、積極的に戦おうとはしなかったので代わりに俺が前衛として騎士達に突貫する。
シャッハトルテは勿論の事、残る2人も特に迷った素振りも見せず俺の援護をしてくれた。
「
多少の手傷はシャッハトルテの治癒魔法によってすぐ癒える。
「
フォレフィエリテの放つ魔法の矢によって、騎士達が薙ぎ払われる。
「
ナールヴァイゼの放つ影魔法によって、騎士達の多くは足を絡め取られ動きを止める。
俺達4人は急造チームながらも中々の連携を見せ、100人の騎士達を寄せ付けなかった。
「くそっ、なんなんだこいつらっ」
騎士達のリーダー格と思われる男がそう毒づく。
思えばこいつの顔も、もう見慣れたものだ。
「あまり我らを舐めるな!」
剣でまた一人騎士を弾き飛ばしながら、俺はそう叫ぶ。
「……しゃーないな、アレの準備をしてくるから、アイツの事を抑えといてや」
また勇者ハヤトを召喚するつもりか!
……だが、そう何度も好き勝手にやらせるつもりは無い。
そろそろ時間は十分に稼いだ筈だ。
「遅くなり申し訳ありません、魔王様」
「がはは。待たせたなぁ」
その時だ。ヒートヘイズの行く手を遮るように、魔族の一団が現れる。
先頭には、ジェレイントとブリアレオスの姿があった。
「2人共、良く来てくれた!」
襲撃を受けた時点で、街の近くで待機していた彼らを魔法具によって呼び出していたのだ。
今回のループでは、俺は彼らに対し十分な実力を見せつけ、彼らを臣従させることに成功していた。
「ったく、なんやねんあんさん達……。そこをどきぃや」
「ふんっ、そうはいくか!」
「ここは通さねぇぜぇっ!」
ヒートヘイズについては、彼らに任せれば大丈夫だろう。
残るは……。
「勇者カノンベル! いつまでそうやって俯いている!」
後ろへと振り返った俺はそう叱咤の声を飛ばす。
微かにだが、カノンベルがピクリと反応を見せる。
正直こういった発言は俺のキャラでは無いと思うのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
今ここで彼女に立ち直って貰わないと、和解への道は永遠に閉ざされる。
そんな予感がしてならないのだ。
「仲間が襲われているにも関わらず黙って見過ごすとは、それでも勇者なのか!」
「……っさい」
「声が小さいぞ!」
「うるさいって、言ってるでしょう! あんたなんかに指図されなくても分かってるわよ!」
カノンベルが顔を上げ、そう叫ぶ。
「なら戦え。奴らは人間にとっても魔族にとっても敵だ」
「だから指図をするなって言ってるでしょうっ!」
そう言いながらも、カノンベルは腰に差した聖剣を引き抜き構える。
「カノン、無理はするなよ」
「やれやれ、やっとお目覚めのようね」
「嬢ちゃん、遅いぞい」
「……勇者様、お待ちしておりました」
勇者パーティの面々が、カノンベルの復活を温かく迎える。
「ええ、皆待たせちゃったみたいでごめんなさい。ここからは私が前に出るわ!」
◆
勇者カノンベルを加えて、戦いは新たな局面を迎えることになった。
魔王軍の合流によって、数の面でも然程差が無くなったのに加え、勇者カノンベルの参戦。
元々、僅かではあったがこちらに傾むきつつあった天秤が、この時点で大きくこちらへと傾いた。
「もはや貴様らに勝機はない! 投降すれば悪いようにはしない!」
所詮彼らも
ここで皆殺しにした所で、別の場所から新たに人が派遣されてくるだけだ。
結局の所、大本を絶たなければ大した意味は無いのだ。
それに隣で戦う勇者カノンベルが、彼らを殺さず無力化しようと尽力している以上、その意向に従うべきだろう。
無闇に彼女の心象を害す必要は無いしな。
「……降伏する」
その甲斐もあってか、敵の幾人かは剣を捨てこちらへと下る。
それ以外の騎士達も、俺達によってドンドンと無力化されていき数をすり減らしていく。
そしてついに彼我の数の差が逆転した。
「……我々の負けだっ。降伏するので、部下達の命は助けて欲しい」
騎士達のリーダーが、ついに降伏宣言をする。
他の騎士達もその言葉に習い、次々と武器を捨てていく。
「終わったか……」
「魔王! そ、その……」
「ん? どうした?」
「ぁりがと……」
囁くような声で、カノンベルが何かを呟く。
「すまん? 良く聞こえなかったんだが……」
「……あーーもうっ。知らないわよっ!」
こうして俺達と
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