26 夜天十字騎士団
近づいて来る何者かに悟られないよう、気配を消しながら森を駆けて行く俺とジェニーノアの2人。
「見えたぞ!」
そこには昏い森の中を、邪魔な木々を倒しながらゆっくりと進軍する一団があった。
「
ジェニーノアのが舌を噛むような勢いでそう小声で叫ぶ。
どうやら奴らが吸血鬼狩りを行っている連中のようだ。
これで敵と確定したな。
「しかし数が多いな……。いつもこんな感じなのか?」
視界が開けておらず、また隊列が縦に長い為ハッキリしたことは言えないが、それでも少なくとも50人は下らないように見える。
「違うよ。いつもはこんなに多くない……」
武装の豪華さや統制のとれ具合から考えるに、どうもかなりの精鋭部隊のようだ。
いくらジェニーノアが強くとも、あの数を相手に一人で撃退するのは難しいはずだ。
もしかすると、以前のループで感じたジェニーノアの人間に対する強い憎悪は、この襲撃が原因なのか?
「いつも10人くらいだったんだ。それくらいなら俺一人でも撃退できたんだけど……」
不安そうな表情でジェニーノアがそう呟く。
「なーに、安心しろ。これでも俺は魔王だ。お前と2人でなら、やってやれないことはないさ」
ジェニーノアを元気づける為に言った言葉ではあったが、同時に本心でもある。
ループを繰り返す度に、俺は着実に強くなっている。
やはり実戦経験を重ねているのが大きいのだろう。
肉体と記憶のズレの修正すらも慣れて来た感がある。
「ジェニーノア、魔法は得意か?」
「ううん、どっちかて言うと、接近戦の方が得意だよ」
「……そうか。なら俺が後衛に回ろう。お前は後ろの心配はせず、前だけ見て戦え」
「……分かった」
自信に溢れた俺の態度を見て少し安心したのか、ジェニーノアの表情が微かに和らぐ。
演技でも何でも強気な態度を見せて正解だったようだ。
状況はハッキリいってかなり厳しい。
こんな些細な努力でも、少しでもプラス要因となるならやって置くべきだ。
「最初に俺が魔法で奇襲を掛ける。そこに突っ込んでくれ」
「りょーかい」
◆
俺は奴らに気付かれないギリギリの距離で魔法発動の準備をする。
発動直前で魔法を留めたまま、敵の進路上へと俺は躍り出る。
この一撃で総崩れでもしてくれれば楽なのだが……。
そんな淡い期待を思いつつ、俺は魔法を放つ。
「
攻撃範囲を考えれば炎魔法が一番だったのだが、流石に森の中では危険過ぎて使えない。
次点で、攻撃範囲が縦に長いこの魔法を選んだ。
丁度敵の陣形が長く伸びているのとも合致する。
巨大な氷の剣が先頭の騎士を貫き、なおも勢いを保ったままその剣身は伸び続ける。
そのまま20人程の騎士を巻き添えにして、ようやく俺の魔法は動きを止めた。
「てっ、敵襲!」
俺の魔法の一撃によって仲間を一度に何人も失ったせいか、敵はかなり動揺している。
その為か、横合から迫るジェニーノアの姿にまだ気づいていないようだ。
昏い森の中を風のように駆け抜けるジェニーノア。
俺も彼の援護に回るべく、新たな魔法の発動準備に入る。
「やぁぁ!」
ジェニーノアの魔力爪を纏った腕の一振りで、騎士の首が飛ぶ。
「ぐあっ!」
続けざまにジェニーノアが魔力爪を振るうことで、次々と敵の騎士が倒れていく。
「全員、迎撃態勢を取れ!」
流石は精鋭というべきか、一度に三分の一近い人数を戦闘不能にしたにも関わらず、もう態勢を立て直してくる。
くっ、まだ50は残っているか。
不意打ちから立ち直った敵は、暴れるジェニーノアを複数人で囲もうとしている。
そうはさせまいと俺は牽制の魔法を放ち阻止する。
「奴から仕留めろ!」
当然そんなことをしていれば、敵の注目は俺へと向く。
目の前のジェニーノアを迂回して俺を仕留めようと幾人かの騎士がこちらへと向かってくる。
「貴様! その魔力量、まさか魔王なのか!」
騎士の一人が俺に向かってそう叫ぶ。
その騎士の纏う鎧は他の騎士たちと比べ若干派手だ。恐らく隊長格なのだろう。
「……」
だが、そんな問い掛けにわざわざ答える義務もない。
俺は黙ったまま、代わりに剣で応じることにする。
「ちっ、く、くそっ!」
隊長格らしく剣の腕は中々のモノだ。
だが所詮、今の俺からすれば格下に過ぎない。
騎士達を剣であしらいつつも、ジェニーノアへの援護魔法を途切れさせないよう気を付ける。
戦況は僅かずつだが、こちらへと傾いて来ている。
「くそっ。撤退だっ!」
それを敵も悟ったらしく、ようやく撤退命令を出した。
「逃がすかっ!」
「待てっ!」
退いていく敵に対し、尚も追撃を掛けようとするジェニーノア。
俺はそんな彼を引き留める。
「数ではこちらが負けているんだ。退くと言うなら大人しく退かせよう」
今は押していても、数の差はまだまだ大きい。
何かがあれば、直ぐにその天秤はひっくり返るのだ。
ならばここで無理をする必要は無い。
「でもっ!」
「ジェニーノアは村に戻ってくれ。妹が心配しているだろう?」
「分かった。……それであんたはどうするの?」
「俺は奴らを追跡する」
こんな辺鄙な場所に、あれほどの精鋭を派遣してきた理由が分からない。
……それに、どうも嫌な予感がするのだ。
「お、おいっ。大丈夫なのかよっ」
「なーに、心配するな。俺には魔力を封じる魔法具もある。そうそうバレることはないさ」
努めて自信タップリにそう宣言した御蔭で、ジェニーノアも納得してくれたようだ。
「……あ、あのさ。その、あんたが居てくれて助かった。多分俺一人じゃ無理だった……」
「気にするな。魔王たる俺が魔族のお前たちを守るのは当たり前の事だ」
そう当たり前の事なのだ。
今まで俺にその自覚が無かっただけで。
「でも気を付けろよ。……アイツらなんか雰囲気がおかしかった」
ジェニーノアも似たような事を感じとったらしい。
やはり追撃は必須だな。
「分かってる。それじゃあ俺は行く。妹に宜しくな」
「ああ。またな
あんたでは無く、魔王と呼んでくれたその心意気に答えないとな。
そう心の内で思いつつ、俺は
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