27 追跡

 現在俺は、森の中を撤退していく夜天十字騎士団リバースクルセイダーズの後をつけていた。


 彼らは森を抜けても止まらず、そのまま人間領へと向かう。

 人間領へ入ってからも、街道も無く整地されていない荒地を、黙々と彼らは行軍していく。


 どこに向かっているのか読めないな……。


 アリスティアに貰った地図には、彼らの向かう先に街や村などは存在しない。

 果たして何処へ向かおうとしているのか……。


 更に付いていく事およそ1時間程。

 ようやく彼らは足を止める。


 そこには周囲の風景には見合わない立派な建物が、いくつも立ち並んでいた。


 こんな辺境に街が?

 いや街にしては少々、規模が小さい気もする。

 かといって村と呼ぶには、少々建物が立派過ぎるのだ。

 それにそもそも誰も外を出歩いていないというのは、妙な話だ。

 ナハトハイマートのように魔族か何かが隠れてここに住んでいるのか?


「……妙だな」


 というか、どうもこの場所からは生活臭がまるで感じられない。


 ここは何かがオカシイ。

 遠目で観察しているだけでもハッキリとそう感じる。


 とそこで、建物の中から一人の男が現れた。

 見た感じの特徴の無さから、恐らくヒューマンだと思われる。

 白衣を纏いぼそぼさの髪を揺らしながら、夜天十字騎士団リバースクルセイダーズの一団へと向かっていく。


「おーい、素材は入手出来たのかい?」


 先頭に立つリーダーと思しき騎士に、そう話しかけるのが聞こえた。

 会話の仔細を逃さない様、俺は全神経を傾ける。


「すまない。邪魔が入った為、まだだ」


 白衣の男の問い掛けに対し、憮然とした表情で謝るリーダー格の騎士。

 言葉こそ丁寧だが、その態度には明らかに相手を下に見る感情が含まれている。


「おーい。それじゃあ、召喚実験が出来ないぞ?」


 召喚実験? 何の話だ?


「……分かっている」


「やれやれ。……後で教皇様にせっつかれるのは、僕らなんだがねぇ」


 ポリポリと頭を掻きながら、白衣の男がそうボヤく。


「……」


 リーダー格の騎士は黙って軽く一礼すると、踵を返し去っていく。

 他の騎士たちもその後に続く。


 一人残された白衣の男も、建物へと戻っていく。


 ……あの男、怪しいな。


 俺が後を付けようと一歩踏み出した瞬間、横合いから何かが飛来する。


「くっ!」


 辛うじてそれを回避した俺だったが、完璧とはいかず腕に切り傷を負う。

 出血は大したことは無いが、傷口が妙に痺れる。


「……あの毒食ろうて普通に動けるやなんて、あんさん何者や?」


 いつの間にか背後に男が立っていた。

 そして、俺はその男の顔を知っている……。


「ヒートヘイズっ。どうしてここに!」


 そこに立っていたのは、勇者カノンベルのパーティメンバーの一人、大盗賊マスターシーフヒートヘイズだった。


「ああん? わいの事を知っとるんか? どっかでおた事あったかいなぁ」


 思わず名前を叫んでしまったが、こちらが一方的に知っているだけであった、アイツが俺のことを知る筈がない。


「……ま、どうでもええわ。ここの事を知った以上、誰だろうと殺すだけや」


 そう言って両手にナイフを構えて突進してくる。


 ちっ、早いなっ! だが……っ!


「舐めるなよっ!」


 俺は魔力封印の魔導具を外す。

 途端に、抑えていた魔力が全身から吹き出る。


 魔力封印による弱体化の危険は、もう何度も思い知っている。

 敵陣に単騎で出向く以上、いつでも解除出来るように備えていたのだ。


「……なんやその魔力。あんさんホンマ何者なんや……」


 俺から放たれる魔力の圧に、若干怖気づいたかのように後退するヒートヘイズ。


「ワイ一人じゃぁ無理やな」


 そう呟くと同時に、懐から何かを取り出す。


 ピィィーーーッ!!


 直後、甲高い笛の音が辺りに響き渡った。


「くそっ」


 こいつ不利と見るや、即座に仲間を呼びやがった。


「何事だ!」「敵襲か!?」


 そんな声が辺りから聞こえ、甲冑を鳴らす足音がいくつもこちらへと近づいてくる。


「お前だけでも!」


 敵に集まられては不利だ。

 せめてヒートヘイズだけでも先に仕留めるべく、俺は駆け出す。


「一人であんさんの相手なんかできる訳ないやろ。ほなな」


 それより僅か一歩早く、ヒートヘイズは逃げの一手に出ていた。


 余りの鮮やかな逃げっぷりに、俺は一瞬出遅れる。

 そうしている間に、敵が続々とここへと集まって来た。


「貴様はっ! まさか我らの後を付けて来ていたのかっ!」


 その中には、先程見たばかりのリーダー格の騎士の姿もあった。


「まあ、そんなところだな」


「ふんっ、だが飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな!」


 集まった騎士、総勢100人近い人数が俺を取り囲んでいる。

 見れば、いつの間にか戻ってきていたヒートヘイズの姿もある。


 アイツ、ホントいい性格してやがるっ。


「ふん、雑兵ごときがいくら集まろうとも、我が前には塵芥ちりあくたも同然よ……!」


 退路はもはや無い。

 俺は覚悟を決める。


「我が名は、魔王ナイトレイン! その名を恐れるなら掛かって来い!」


 覚悟を言葉で示すよう、俺は魔王らしくそう宣言した。

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