18 探し人見つからず
俺が
俺はヒートヘイズの顔を一応は知っている。
勇者カノンベルの襲撃の際に何度も見ているから、それについては問題は無いはずだった。
にも関わらず一向に見つかる気配は無い。
アリスティアから得た情報は、あくまで勇者パーティ加入時にヒートヘイズが居た場所の情報だけだ。
それ以前の彼の行動についての情報は一切無い。
半年という短期間でそうそうあちこちに移動しないだろうと当て込んでの捜索だったのだが、どうやらそれは間違いだったようだ。
というのもこの街、人の出入りが余りに多すぎるのだ。
魔王軍との最前線のすぐ傍だという事情も影響しているのだろう。人も物資もその流れが激しく、ハッキリいって俺一人では把握しきれない。
これでは、ヒートヘイズを見つけ出すのは困難である。
「見渡す限り、人、人、人。全くこうも多いとちょっと嫌になってくるな……」
そんな愚痴を独り言として呟いていたのだが、
「あら、そんなことはございませんよ? こうした人の流れの中にこそ、磨けば輝くダイヤの原石が隠されているのです」
そんな俺の後ろから、落ち着いた響きの女性の声で返事が届く。
街中ということで警戒を解いていた俺は思わず、反射的に後ろを振り返る。
そこには、紺の修道服を纏った女性の姿があった。
「なっ! おまえは……」
勿論、いきなり他人の接近を許してしまった事で驚きはした。
戦闘訓練を積んでいない為か、どうしてもその辺が疎かになってしまうのだ。
だがそれよりも一番俺を驚かせたのは、その女性の顔が見知ったモノであったことだ。
「はい? どこかでお会いした事がありましたか?」
そう首を傾げる彼女の名は、シャッハトルテ。
魔王城で勇者を迎撃した際、何度も顔だけは見ているから間違いない。
「ああ、いや、済まない。どうやら人違いだったようだ……」
どうにかそう答えるが、俺の内心には焦燥の嵐が吹き荒れていた。
どうしてお前がこんな所にいるんだよ! 聞いていないぞ!
アリスティアの情報では、シャッハトルテが勇者パーティに加入したのは、確かこの街では無かったはずだ。
ヒートヘイズを探していたはずが、まさかの人物との遭遇に俺の思考が千々に乱れる。
「そうですか。ところで、どうやら誰かをお探しのご様子。宜しければわたくしがお手伝い致しましょうか?」
「あ、ああ、いや、大丈夫だ」
とりあえず適当にそう返答し、冷静さを取り戻す為の時間を稼ぐ。
大丈夫だ……。別に俺が魔王だと気づかれた訳ではない。
「……遠慮はなさらなくてもいいのですよ?」
その証拠にシャッハトルテの表情からは、俺に対する純粋な気遣いしか感じ取れない。
その事実に俺の頭は少し冷静さを取り戻した。
「ありがとう。……だが大丈夫だ。もう大体の見当は付いているんだ」
その言葉そのものは嘘だ。
当然、ヒートヘイズはまだ見つかっていないし、その気配もない。
だがそもそも俺の本来の目的は、ヒートヘイズの捜索ではなく勇者との間に立ってくれる仲介人を見つけることだ。
ならば別にヒートヘイズに拘る必要は無いのではないか。
俺はそう思い至る。
「そうですか。では他に何かわたくしに手伝えることはありませんか?」
「……そうだな。もし良ければ、少しこの街を案内してはくれないか? 何分この街に来たのは初めてで、地理が良く分からないんだ」
これは本当だ。
この街はどうも歪な拡張を繰り返して大きくなったらしく、どうも複雑な構造をしている。
たった一週間では、とても把握しきれない。
「えぇ。勿論、構いませんよ。……迷える子羊のお手伝いをするのが、わたくしたち神の
快く道案内を引き受けてくれるシャッハトルテ。
その表情は、むしろどこか嬉しそうにすら見えた。
「そう言えば、まだ名乗っておりませんでしたね。わたくしの名前は、シャッハトルテ。教会の
ああ、知っている。
彼女は俺を知らないが、俺は知っているのだ。
「俺はレイン。旅人だ」
勇者の仲間であり、見るからに争いを好まなそうな性格のシャッハトルテならば、勇者との仲を取り持つのに打ってつけの人材だと思える。
一緒に街を巡りながら、まずは少しでも彼女と仲良くなる事を目指そう。
俺は当初のプランを投げ捨て、そう行動方針を定め直す。
……アリスティアに釘を刺されていたことも忘れて。
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