ループ魔王の異世界奮闘記
王水
第1章 勇者編
1 目覚めたら魔王になっていた
薄暗い闇の中に、俺の意識は沈んでいた。
自分が何者なのか、これまでどうしていたのか、何一つ分からない。
そんな中、誰かの声が意識の外から響いてくる。
「――魔王様っ! 魔王様っ!」
何もかもが曖昧なまま、ただ呼ぶ声の導くまま、意識が覚醒していく……。
「――お目覚め下さい! 魔王様!」
目を見開くと、そこには一人の美しい少女が立っていた。
小柄な体格に似合わず、その大きなバストが俺の視線を引き付ける。
いわゆるトランジスタグラマーという奴だ。分かりやすくロリ巨乳と言い換えてもいい。
そんな魅力的な少女が、肩に掛かるくらいの長さの、透き通るような銀髪を揺らしながら、蒼い瞳でこちらを覗き込んでいる。
「ああ、良かった。ようやくお目覚めになられましたか、魔王様……」
少女は、瞳から涙が零れ落ちるのを拭いながらも、花が咲いたような笑みを見せてくれた。
口の端から覗く八重歯が、少女の可愛らしさを2割増しにしている。
やはり美少女の笑顔は、目の保養になる。などと、ぼやけた頭でそんな感想を抱く。
「……ここは、どこだ?俺は一体……」
視界には、赤絨毯(じゅうたん)の敷かれた広い部屋があった。
「まあ、なんてこと! ご自分の記憶がないのですか?」
気遣わし気な表情で、俺の顔を覗きこむ美少女。
「ああ、済まないが教えてくれ。俺は一体誰なんだ?」
「ああっ、おいたわしや魔王様。あなた様こそ、偉大にして至高の王、魔王ナイトレイン様ではありませんか!」
おいおい、あんまり興奮するな。折角の美少女っぷりが台無しだぞ。
それから目の前の美少女は、俺がこんな所にいる理由について語ってくれた。
どうやら俺は、"魔王"として、この世界へと召喚されたらしい。
何でも彼女たち魔族は、現在世界侵略の真っ最中らしく、その旗頭とする為に魔王召喚の儀式を行ったらしい。
今回行われた儀式は、どこか別の世界から魔王という地位に適格な存在を呼び込むものらしく、それにこうして引っ掛かったのがどうやら俺だったようだ。
「自己紹介をまだしておりませんでしたね。私はアリスティアと申します。種族は、始祖吸血鬼(オリジンヴァンパイア)。魔王ナイトレイン様、あなたに永久の忠誠を誓うモノです」
例えその正体が人間ではなく吸血鬼であったとしても、彼女のような美少女に傅(かしず)かれるのは、悪くない気分ではある。
だが、俺が魔王、だというのはちょっと頂けない。
俺の頭の片隅に微かに残っている記憶が正しければ、魔王なんて奴はロクでもない存在のはずだ。
なんだか嫌な予感がビンビンするな……。
「……それで、俺は一体何をすればいいんだ?」
「それを説明する前に、魔王軍が誇る四天王をご紹介させて下さい。……まずはジェレイントからですね」
その言葉に呼応し、黄金に輝く剣を携えた騎士然とした男が目の前に現れる。
うーん。一目見ただけで、滅茶苦茶強そうだと分かる姿だ。
「ご拝謁に賜り、恐悦至極の至りにございます、魔王様。我が名は、ジェレイント。魔王軍四天王が一人でございます」
挨拶は至って丁重なモノだが、目が笑っていない。
無表情のまま送ってくる、まるでこちらを試すような視線に、思わず顔が引きつる。
「あ、ああ」
辛うじて、そう一言返事をするのが精一杯だった。
何この人? 怖いんですけど……。
「次、来なさい」
今度は、古びた杖を手にした爺さんが出て来た。
おい、今どこから現れた? 気配を感じなかったぞ。
「ひょっ、ひょっ、ひょっ、お初にお目に掛かりまする、魔王様。儂の名は、ラエボザ。魔王軍四天王が一人にして、参謀役を務めさせてもらっとりますわい」
好々爺とした笑みを浮かべているが、コイツも目が笑っていない。
ちょっと隙を見せれば、直ぐに利用してやるぞ! そんな意志を感じる瞳だ。
コイツはパッと見、あまり強そうには感じないが、参謀役と言っていたし多分知略で勝負するタイプなのだろう。
こういうタイプはきっと侮れない。
「これで最後です魔王様。ブリアレオス、こっちへ来なさい」
ズドーン、ズドーンと、大きな足音を響かせながら、4本腕の巨人がこちらへと歩いてくる。
パッと見、3mは軽く超えているその巨体だけでも、強さは十分に伝わってくる。
手にしたこん棒を振り下ろされるだけで、普通の人間なら一発でミンチだ。
……俺は大丈夫だよね? だって一応魔王だし?
「がっはっは、初めましてだぜぇ。魔王様よぉ」
コイツだけは他の二人とは違い、表情から敵意がまるで隠せていない。
ある意味分かりやすい、がどうして、俺はこんなにも警戒されてるんだ?
一応、こいつらのリーダーである魔王のはずだろう?
「そして、不肖この私アリスティアを含め、以上、魔王軍四天王、全メンバー、御身の前へ参上致しました」
改めて並んだ4人を見比べてみるが、流石、四天王と名乗るだけあって、いずれも一癖も二癖もありそうな感じだ。
救いは、アリスティアからは敵意が一切感じられないことか。
むしろ勘違いでなければ、ビックリするほどの尊敬の念らしきものがヒシヒシと感じられる。
「それで、これからについてなのですが――」
アリスティアの言葉を、爺さん――ラエボザが遮る。
「ひょっ、ひょっ、ひょっ。別に今まで通りで良いのではないかのう、アリスティアよ。魔王様には、象徴としてこの玉座の間に座っておってもらえば、それだけで魔王軍の士気も上がろうものよ」
「なっ、それは魔王様に失礼――」
「僕もその意見に賛成させてもらうよ」
今度は、ジェレイントが遮って、そう発言する。
さっきから遮られてばっかだな。ドンマイ、アリスティア。
「ジェレイント! あなたまでっ!」
「なぁに、良く分からねぇが、いいんじゃねぇか? 別に今まで通りでよぉ」
残ったブリアレオスも同調し、アリスティアは孤立無援となる。
「っっ!」
「3対1で決まりじゃな。……という訳で魔王様は、この玉座の間でごゆるりと過ごされて下され」
顔を真っ赤にして、何かを言おうとしているアリスティアを尻目に、他の3人はさっさと玉座の間を後にしていく。
後に残されたのは、やり場のない怒りに支配されかけたアリスティアと、状況がまるで掴めていない魔王たる俺の2人だけだった。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「うーっ!……はぁ。そうですね。お世話の者を付けますので、この部屋でゆっくりと過ごして頂ければ……」
そう言いながらも内心は不満そうな表情だが、多数決で決まったことは覆らないのだろう。
そういう意味では、案外魔王軍も民主的と言えるのかな?
◆
それから、半年程だろうか。
魔王城の玉座の間に引き篭もった俺は、御付きのメイドたちに至れり尽くせりの歓待を受けながら、自堕落な日々を過ごしていた。
「あー、魔王って最高だな!毎日食っちゃ寝するだけでいい生活なんて、ホント最高だぜ!」
魔王になる以前の自分自身については、相変わらず何も思い出せてはいないが、この分だとロクでもない人間だっただろうことは、想像に難くない。
だが今の俺にとっては、そんな些細な事もう別にどうでも良かった。
付けられたメイドたちは、吸血鬼だったりサキュバスだったりで純粋な人間こそいないものの、皆が皆、魔王のお付きに選ばれるだけあって美少女であった。
そんな彼女たちと、イチャイチャライフを送れる。ただそれだけで、俺はもう満足だった。
「あーもう、俺、一生魔王やっちゃうよ!」
そんな浮かれ気分の俺をどん底へと叩き落す出来事が、すぐそこまで迫っていた。
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