15 魔王、チート魔力を活用する
アリスティアから教わった農業用魔法を活用し、俺はこのシュティルハイム村を急速に発展させていた。
魔王である俺の魔力量ならば、農業用魔法程度ならば、ほぼ無尽蔵に扱える。
俺の魔力って、実は地味にチートくさいな……。
などと考えながら、次々と村の所有する畑に手を加える。
「きゃぁ~。レインさん素敵っ!」
魔法で次々と畑を綺麗に整えていく俺に対し、村の若い女性たちから黄色い声援が飛んでくる。
「はっはっは。俺に任せてくれよ」
畑を荒らしていた雑草や岩などが、俺の魔法によって見る見るうちに除去されていく。
更に俺は、土壌改良の魔法によって、畑の土を栄養に富んだモノへと変化させる。
こうして後に残るのは、綺麗に整えられた農作物を育てるのに最適化された畑だ。
「凄いモノじゃのぉ……」
村の知恵袋であるオーガス爺が、土を舐めながらそう感慨深そうに呟く。
俺の魔法によって改良された土は、養分をたっぷりと内包し、かつ適度な保水性を持ち、酸・アルカリ性のバランスの取れた清浄なモノへと変わっている。
ここまで農作物の育成に適した土は、世界中を探してもそうは見当たらない、そんな代物だった。
また俺は、既存の畑を改良するだけでなく、新たな畑の開墾も行った。
「魔法って、ホント凄いんだねっ!」
村の近くの森の木々を魔法によって伐採し、それを風の魔法によって綺麗に木材として加工して並べる。
木々が失った土地は土魔法によって整地し、畑同様、地質改良を施す。
森は徐々に切り開かれ、後には新たな畑が次々と出来て行った。
「新しい畑は、村の皆で分配して使ってくれ」
「ありがとう、レインさんっ。本当に助かるわっ!」
「魔法使いって、本当に何でもできちゃうのねぇ。ねぇ、私の所に婿として来ない?」
村の若い女性たちにそうやってチヤホヤされるのは、悪くない気分ではある。
だが、ループの記憶保持の問題もあり、彼女達に手を出すのは厳禁だ。
目の前に人参をぶら下げられた馬のような気持ちで、彼女たちの誘いを泣く泣くスルーする俺であった。
「もう、デレデレしちゃって……」
そんな俺に対し、不機嫌そうな表情で、ローズマリアがそう言う。
彼女はというと、まだ農作業に活用できる程、魔法を習熟していない為、今も練習を続けている。
「どうしたそんな顔をして。疲れたのか、ローズマリア?」
「そういう事じゃないんだけどなぁ……」
ん? 何かいったか?
俺はチート魔力によって、畑の整理・開墾を次々と進めていく。
その恩恵に預かる村人たちの多くは俺の行動に対し、概ね好意的だったが、そうでは無かった者もいた。
「けっ、おまえら。いくら魔法が使えるからって、余所者相手に馬鹿みたいに騒ぐのはやめろっ!」
俺の仕事ぶりを見守っていた村の女の子達に、そんな罵声を浴びせる。
そいつは、この村唯一の20代男性にして村長の息子、ザシャだ。
……なんか以前も似たような光景を見た気がするな。
彼はでっぷりとしたお腹を揺らしながら、俺へと近づいてくる。
「余所者がいい気になるなよっ!」
「……」
そう粋がるザシャを、無言で俺は睨み付ける。
「うっ、と、兎も角あんまり調子に乗らないことだっ!」
俺の無言の圧力にビビったのか、声を上擦さらせながら、捨て台詞を残して去っていく。
まったく、なんなんだろうな、アイツ。
少しは村の発展の為に、協力する姿勢を見せればいいのに……。
◆
俺がシュティルハイム村にやって来てから、既に4ヶ月の月日が経過していた。
アリスティアとの約束通り、俺はローズマリアに手を出してはいない。
だが、手を出していないだけで、恋人のような、夫婦のような、そんな関係を続けていた。
「ああ、ローズマリア。好きだよ」
「ボクもだよ、レイン」
始めの頃こそ、アリスティアの顔が頭をよぎったものの、近頃はそれも忘れローズマリアと只々甘い日々を過ごす。
一方で、村の立て直しも順調そのものだ。
俺の魔法の力によって、村はかつて以上の活気を取り戻しつつあった。
そんな中、その事件は起きた。
「魔王軍が攻めて来たぞいっ!」
オーガス爺が村中を駆け回りながら、そう叫んでいる。
「なにっ!?」
「……レイン。もしかして……」
余りに俺とローズマリアがイチャついていた為、アリスティアが切れたのか。
一瞬そんな考えが頭を過ぎるが、直ぐに否定する。
「……いや。アリスティアの性格なら、間違いなく本人が直接ここに来る……」
「うん、そうだよね……」
「しかし、だとしたら一体なぜだ? 以前のループではこんなこと起きなかったはず……」
原因はなんだ? だが今回は、色々な面で前回と異なる。
こんなざわついた状況で、原因を特定するのは困難だ。
「兎も角、迎撃に出るぞ! ローズマリアは家に隠れてろ!」
「ううん。ボクも行くよ! 一応ボクだって魔法使いなんだから」
「そうか。だが絶対に無茶はするなよ!」
「うんっ!」
俺たちは、村の入り口へと駆け足で向かった。
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