8 魔王、死の原因を探る
勝利を確信してからの余りに酷いちゃぶ台返しを食らった俺は、都合2度のループを犠牲にして、ようやく精神の安定を取り戻した。
どうにか前向きな思考を出来るようになった俺は、次の行動指針を定めるべく頭を働かせる。
「絶望に暮れている場合ではないな。あの謎の死の原因を探らなくてはな。一体誰だ? 俺を殺したのは……」
まずは、あの時の状況整理し、襲撃者の候補を絞ることにしよう。
確か、あの時、俺の左手側にブリアレオスが、右手側にジェレイントが、それぞれ正面の勇者カノンベルを取り囲むようにして立っていたはず。
勇者の後方では、アリスティアが勇者の仲間共を抑えるべく奮戦していた。
俺の目の前で倒れていた勇者はまず候補者から外れる。
流石に、彼女からは一度も目を離していないし、死の瞬間も俺の目の前にいたのは覚えている。
何よりその時の浮かべていた驚愕の表情を考えるに、彼女が襲撃者ではない事は明白だ。
では勇者の仲間共の内の誰かが、襲撃者なのか。
……これも違う気がする。
彼らに四天王3人の目を掻い潜って、俺の背後に回り込むことは不可能だろう。
そもそもにして、例え背後からの不意打ちだろうと、勇者カノンベル以外の人間に、たったの一撃で殺される。そんなやわな鍛え方を俺はしてはいない。
「ならば、まさか……」
それは余り考えたくない事態だった。
……まさか味方が裏切られたのか。俺は……。
思い返せば、視界の奥で勇者の仲間共を抑えるべく奮戦していたアリスティアは除くとして、他の2人は、俺の視界の外にいることが多かった。
陣形の関係上、それは仕方ないことではあったのだが、少々彼らを信頼し過ぎてしまったのかもしれない……。
そうして冷静になれば、一番怪しいのはジェレイントだ。
死の際に俺が受けた傷口から考えれば、それは明らかに鋭利な刃物か何かで切り裂かれて出来た傷だ。
どう考えてもブリアレオスが持つこん棒ではそんな事は不可能だ。
一方でジェレイントは剣の達人。
彼ならば、背後からの不意打ちで俺を殺すことも可能だろう。
状況から考えれば、謎の襲撃者の正体はジェレイント以外に考えられない。
……ただ、俺の頭のどこかが、それは違うと叫んでいるように感じられた。
その根拠は拙いものだが、少なくともあのループにおけるジェレイントの俺に対する態度は、極、丁重なもので、忠誠心さえ感じられた。
そんな彼が、俺を裏切った。その事実をどうしても俺は受け入れられないのだ。
それでも、状況証拠から判断すれば、襲撃者の正体は彼しか有り得ない。
俺は、ジェレイントに対し、注意を配りつつも、あの時のループを再現することにした。
◆
以前と同じように、アリスティアにお願いし、徹底的に自身を鍛える。
過去の記憶が残っているのが幸いしたのか、俺自身は、以前よりも大きな力を身に付けることが出来た。
ループの完全な再現からは少々遠のいたが、別に要点を抑えていれば問題ないはずだ。
四天王達との関係も、ラエボザ以外とは良好。
いやむしろ、ジェレイントからは、以前よりも高い忠誠心すら感じられる。
至って波乱もなく順調に進んでいたが、それでも俺はジェレイントへの警戒を怠らないように気を配る。
勿論、その事を彼に悟られないように、気を付けながらだ。
そうして迎えた勇者の襲来。
以前同様、ラエボザを除く四天王に俺を加えた、4人で迎撃する。
以前は、この時点で大分、高揚感を覚えていたものだが、今回は油断できない何かの存在を知っている為、俺の心はむしろ冷めていた。
「伝令! ラエボザ様が敗北しました!」
もはやいつもの恒例行事だ。
もうアイツの事は放って置こう。
しばし待つ内に、勇者がやって来た。
扉を蹴破り、玉座の間へと降り立つ。
ここまでは以前のループと何ら変わりのない展開だ。
「我が名は、勇者カノンベル! 人間種族の未来の為、あなたを倒しに来たわ!」
「待っていたぞ、勇者よ。だが、貴様の進撃もここで終わりだ」
そうして、俺たちと勇者パーティとの戦いが始まる。
その展開も、かつてのほぼ再現であった。
勇者と仲間共を分断し、アリスティアが勇者以外を抑える。
その隙に3人がかりで、勇者を倒す。
果たして、今回も無事、勇者を追い詰める所までは辿り着いた。
「終わりだな」
剣を失い倒れた勇者へと向かい、剣を突き付ける。
ここまでは順調だった。
だがここからが問題だ。
「ジェレイントにブリアレオスよ! ここは我に任せ、アリスティアに加勢せよ!」
「はっ!」「応よっ!」
2人は、俺の指示に対し、何ら動揺した様子も見せず、前へと駆けだす。
これで、ジェレイントによって背後から不意打ちを受ける心配は無くなったはずだ。
だが、それでも俺は警戒を緩めることはしない。
周囲に気を配りつつも、勇者に止めを刺すべく、剣を振り上げる。
「止めだ……っ!」
そう呟いて、剣を振り下ろそうとした瞬間。
俺は背後に気配が現れたのを感じ取り、即座に攻撃を中断し、前へと飛び退く。
勇者に無防備な姿を晒すことになるが、彼女は今は武器も持っていない。危険はないはずだ。
「何者だ!」
背後を振り向き、謎の襲撃者に対し、誰何の声を上げる。
目の前の襲撃者の姿を視界に入れた瞬間、驚きに目を見開く。
「まさか、何故お前が……っ!」
そこにいたのは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます