30 真実

 勇者と名乗る青年、ハヤトとの戦いの中で死んだ俺は、玉座の間にてアリスティアに迎えられていた。

 いつもならば前回のループでのやらかしについて、俺がアリスティアに叱られる場面なのだが今回は違った。


「アリスティア、お前に話したい事がある。すまないが暫く付き合ってくれ」


 俺は真剣な表情のまま、そうアリスティアに懇願する。


「はい、私もナイトレイン様にお聞きしたい事が……」


 俺達は詳しい話をする為、アリスティアの私室へと場所を移す。


 向かい合わせのソファーに座るが、2人共黙ったままだ。


 俺はというと、まだ前回のループでの出来事が上手く整理出来ておらず、どこから話したらいいのか判断が付かずにいた。


 そんな俺の様子を察してくれたのか、アリスティアが先に話を切り出す。


「実は私、前回のループでのナイトレイン様の死因を把握していないのです。魔法による監視が途切れてしまい……」


「そうだったのか……」


「ジェニーノアと別れ夜天十字騎士団リバースクルセイダーズを追跡した所までは、把握しているのですが……」


 アリスティアならばハヤトについて何か知っているのではと期待していたのだが……。


「ええ、ですから何があったのか教えて頂けませんか?」


「ああ、実はな――」


 そうして俺はアリスティアに語った。前回のループでの出来事を。


「そうですか。そんなことが……」


「なぁ? そのハヤトって奴に何か心当たりはないか?」


 ダメ元で俺はそう尋ねてみる。


「……あります」


「なっ、ホントか?」


 まさかの返答に、少々驚きが隠せない。


「はい。……ですがそれについて説明するには、私がこれまで敢えてナイトレイン様に教えていなかったことを語る必要があります」


 何となくだが、アリスティアが俺に隠し事をしていることには感づいていた。

 もっともそれが果たして何なのかまでは、皆目見当がつかないが……。


「今更何を隠していようと、責めはしない。だから教えて欲しい」


「……分かりました。ナイトレイン様が死んだ後に起こるループですが、実は私はナイトレイン様が死んでからもしばらくは、そのループ内に留まって行動が出来るのです」


「ローズマリアやシャッハトルテの話を聞いた感じだと、俺の死と同時にループしているようだったが、お前は違う、そういうことか?」


 俺の死後もしばらく行動できるのなら、得ることが出来る情報量は必然、俺よりも多くなる。


「そうなりますね。と言っても制限はあり、精々数日程度が限界なのですが……」


「ふむ。しかしそれがハヤトの存在とどう繋がる?」


「……最初のループの時、ナイトレイン様が勇者カノンベルに殺された後、私は彼女を殺しました」


 その言葉に、俺はあまり驚きを感じなかった。

 というのも多分そうなのだろうと、俺は考えていたからだ。

 アリスティアは何故か、頑なに自身で勇者カノンベルを倒そうとはしなかった。

 その理由と繋がる訳だ。


「勇者としての年季が違いますし、私には始祖吸血鬼オリジンヴァンパイアとしての力も上乗せされています。然程苦も無く、勇者もその仲間も纏めて葬り去りました」


 簡単にそう言うが、それを実行するのにどれ程の実力が必要なのだろうか。

 相変わらずアリスティアの実力は底が知れない。


「異変が起こったのはその直後でした。突然カノンベルの死体の傍に黒い魔法陣が出現したかと思うと、そこから何者かが現れました」


「それが勇者ハヤト、だと?」


「その通りです。直接会話をした訳ではないので、その時は名前までは分かりませんでしたが、ナイトレイン様が語る特徴から察するにまず間違いないでしょう」


「それで、勇者ハヤトと出会った後、どうしたんだ? まさか負けたのか?」


「いいえ、私は戦っておりません。その姿を見た直後、私は直ぐに次のループへと飛びましたから」


「何故、戦わなかった? お前の実力なら勝てただろうに」


 魔力的にも身体能力的にも勇者を名乗るだけの強さはあったが、言ってしまえばそれだけだった。

 いや、それだと俺を殺した時の意味不明な挙動の説明がつかないか……。


「その青年からは確かに勇者としての力を感じました。ですがそれだけではありません。彼には他にもいくつもの異質な力が秘められていました」


「ふむ言われて見れば、確かに妙な力を感じたな」


「それを察した私は、自身の安全を第一として逃げ出したのです。私が死ねばナイトレイン様もまた死ぬのですから……」


 泣き出しそうな表情でそう言うアリスティア。

 それでようやく俺も事情を察した。


「やはりそうなのか。……アリスティアが死ねば、ループは止まるんだな?」


「はい……」


 それで自分を殺せる可能性を持つ、俺の成長を禁じたんだな。 

 それもまた俺の為だというのが伝わって来て、怒っていいのか、感謝するべきなのか、正直反応に困ってしまう。


 それからしばらくの間、沈黙が続く。

 この重い雰囲気をどうにか払拭すべく、俺は口を開く。


「あー、その、なんだ? アリスティアが俺の事を考えてくれていた事だけは、ちゃんと理解してるつもりだ。だからあまり気に病むな」


「……ありがとうございます」


「今は、勇者ハヤトについての対応を考えよう。そもそもあれは何者だ?」


 勇者としての能力を持った異世界人の青年。

 ハッキリいってそれくらいしか、手元にある情報では分からない。


「……それは私にも分かりません。ただ、魔法陣の形状からの推測に過ぎませんが、恐らくナイトレイン様と同郷の者ではないかと……」


「俺と同郷、ねぇ……」


 そう言えば、魔王となる以前の俺はどんな奴だったのだろうか。

 思えば、それについて気にした事は一度も無かった。

 ……いや、それは変じゃないか? 普通気にするだろう?

 何か、何かがオカシイ……!?


「くぅっ」


 そう思考した途端、強烈な頭痛が走る。


「どうされましたっ!」


「ア、アリスティア。ここに召喚される以前の俺について、何か知っているか?」


 痛みに顔を顰めながら、俺はアリスティアに対しそう問い掛ける。


「……いいえ。ナイトレイン様が話題に全く出さないので、何か辛い過去でもあるのかと問うのは控えておりました」


「そうか。……どうも、それについて考えようとすると、頭痛がして思考が乱れされるんだ……」


「それは……」


 どうも何者かの意志を感じる。

 だが、それは一体誰なのか見当もつかない。


 更に謎が深まることとなった。

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