賞金総額600万円、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューを確約する第4回カクヨムWeb小説コンテストを、今年も12月1日より開催します。
そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ歴代のカクヨムコン受賞者にインタビューを行いました。創作のルーツや作品を作る上での創意工夫、そして受賞後の変化などを語っていただいた受賞者の言葉をヒントに、小説執筆や作品発表についての理解を深めていただけますと幸いです。
第3回カクヨムWeb小説コンテストラブコメ部門大賞
紙城境介
▼受賞作:継母の連れ子が元カノだった
kakuyomu.jp
──小説を書き始めたきっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。
書き始めたきっかけは、ウェブ小説を書いていた方たちが楽しそうにしていたのでそこに混ざりたかっただけなんですが、上達するうちに小説を書くことそのもののほうが面白くなって、以降はほぼ完全にソロプレイです。
最も影響を受けた作品は『うみねこのなく頃に』と『とある魔術の禁書目録』です。バトヱリと上琴で頭がおかしくなりました。
『ダンガンロンパ』と『STEINS;GATE』の影響も強いです。ナエギリとオカクリで頭がおかしくなりました。
『逆転裁判3』がなければ『継母の連れ子が元カノだった』は存在しなかったと思います。ネタバレになるので明記は避けますが頭がおかしくなりました。
ラブコメ作品では『WORKING!!』の高津カリノ先生の作品をウェブ漫画からずっと読んでいて、その影響が強いと思います。あださゆで頭がおかしくなりました。
元を辿ると、行きつくのはたぶん『シャーマンキング』です。葉アンが諸悪の根源。
──受賞作についてお聞きします。本作の最大の特徴・オリジナリティはどこにありますか? また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどういった点だと考えてらっしゃいますか?
義理のきょうだいになった元カップルが、物理的な距離の近さゆえに、焼けぼっくいに火がついたりつかなかったりする話なんですけど、最大の特徴は、今書いたこと以外の要素がまったくゼロであることだと思います。
とにかく純度が高い。おいしいところしかない。書いた自分でも引くくらい、主人公とヒロインがイチャついたり痴話喧嘩したりする以外のことは何もしない小説です。
▲ヒロイン・結女のキャラクターデザイン。主人公の元・彼女であり現・義理の妹(姉?)の推理小説マニア。(※イラスト/たかやKi)
コンテストや賞に出すような長編小説を書こうと思ったら、普通、そんな風にはできないと思うんです。大体は別の要素を追加してストーリーに一本筋を通そうとする。何か物作りをしてみたり、スポーツをしてみたり、バンドをしてみたり……恋愛に限定するとしても、くっつくなり別れるなりしてお話にケリをつけようとするでしょう。実際、私も最初はそうしようと思ったのです。
でも、この作品に限っては、そういうストーリーらしいストーリーは不純物だと判断しました。ただキャラクターとシチュエーションだけがあればいい。ストーリーなんて付けたら本来の魅力を損なう、と。
結果的にコンテンツとしての純度が高まって、魅力が伝わりやすかったことが大きかったのかな、と。
──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?
私は元々、一つの作品にいろんな要素を詰め込みたがるタイプで……一方、『継母の連れ子が元カノだった』は、『昔付き合っていた二人が義理のきょうだいになる』というたったひとつのアイデアに全振りしてできています。そこが一番の違いだと思います。
──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?
前の質問の答えからの続きみたいになりますが、コンセプトをシンプルにすることですね。壮大な世界観を作っても奥深い描写を考えても凝ったストーリー構成にしてもいいですけど、コンセプト――つまり作品の入口だけはシンプルでなければなりません。
例えば、説明に200字かかる複雑なコンセプトを設定してしまった場合、ツイッターでの口コミを丸ごと捨てることになる理屈です。それではどれだけ面白くても、その面白さを見ず知らずの人に伝えることは難しくなってしまう。
逆にコンセプトがシンプルだと圧倒的に伝わりやすいし拡散もされやすくなります。ツイッターでタイムラインを眺めていたら、たまに何千リツイートもされている短い漫画が流れてきますよね。あれって全部シンプルじゃないですか。そういうことです。
そういう考えがあって、タイトルもキャッチコピーもあらすじも伝わりやすさを最優先にして考えました。
──好きなキャラやストーリー展開について、こんな要素があったら読んでみたい!というポイントはありますか? また、それは今回の受賞作に反映されていますか?
好きなストーリー展開は、メタフィクションです。現実世界と物語世界が境界を失くして溶け合うようなストーリーが好きです。あとループも好き。
ですが、まあそれは、なんと言いますかカロリーが高いので、半年に1回くらい摂取できれば充分ですね。日常的に摂取しているのは両思いの男女がもだもだじれじれするラブコメが多めで、『継母の連れ子が元カノだった』はそちら側の脳を使って書いています。
好きなキャラは――というか、私の場合、好きな関係性になってしまうんですけど、反目し合いながら通じ合っている、というようなのがツボです。男女に限らず。
▲主人公・水斗のキャラクターデザイン。両親の再婚により元カノが義理の姉(妹?)になってしまった。小説ならなんでも読む。(※イラスト/たかやKi)
──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスがあれば、ぜひお願いします。
これはコンテストで賞を獲りたいだけなら関係ないことなんですけど……ウェブ連載において必要になるのは、自分の作品に触れていないときの読者を想像する力だと私は思います。
例えば、10万字の長編小説があるとしましょう。これを読むのに、慣れた人なら3時間くらいですよね。では、これを7話に分けて毎日ネットに連載するとします。読むのに何時間かかると思いますか?
内容は変わってないから3時間――ではありません。
168時間です。
つまり1週間です。読んで、仕事して、読んで、ゲームして、読んで、ツイッターして、読んで――で、1週間。
本を1冊書く、というのは、3時間を楽しく過ごせる文章を書くことです。
ウェブ連載を1週間やる、というのは、168時間を楽しく過ごせる文章を書くことです。
この二つが、まったく別のことだということが、一見してわかると思います。
ですから、『読んで』以外の、『仕事して』『ゲームして』『ツイッターして』の部分のことも、ちゃんと考えなければならないのです。
じゃあ具体的にどうやればいいんだよと言われそうですけど、それは私のほうが教えてほしい。まあ定期更新から始めるのがいいんじゃないでしょうか。更新される時間がわかっていたら、読者さんのほうがある程度生活リズムを調整してくれますからね。
毎日更新は……1回やってみればわかりますけど、アレは人間のやることではありません。作業量以前に、毎日締め切りが来るというストレスで身体がぶっ壊れます。オススメしません。
なんか偉そうに語っちゃいましたが、私も実行は全然できていないので、一緒に研究していきましょう。以上です。
──ありがとうございました。
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