カクヨム発作品アニメ放送記念企画! 『継母の連れ子が元カノだった』 紙城境介先生インタビュー

7月6日(水)よりTVアニメが放送開始する角川スニーカー文庫の人気作品『 継母の連れ子が元カノだった 』は、第3回カクヨムWeb小説コンテスト「ラブコメ部門」で大賞を受賞したカクヨム発作品です。そこで、放送開始記念企画として、原作者の紙城境介先生にアニメの見どころやWeb小説との向き合い方についてお話を伺いました。作品のファンの皆さまはもちろん、自身の作品の書籍化やメディアミックスを目標とする作者の皆さまも必読です!

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――『 継母の連れ子が元カノだった』(以下、連れカノ)は第3回カクヨムWeb小説コンテストの大賞作品ですが、あらためて、本作を書きはじめたきっかけを教えてください。

紙城境介(以下、紙城):別のサイトで書いていた『最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ』がラブコメ以外の要素もある作品だったのですが、ラブコメ部分の受けがすごくよかったんです。それなら「一回ラブコメ一本で書いてみよう」と思い立ちました。『最強カップル』を書くまで、一度もラブコメを書いたことがありませんでした。
『連れカノ』は最初、「一話で終わってもいいかな」と思って、短編として完結設定で出したんです。そしたら、ランキングがちょっと上がったから、続きを都度都度考えて書いていきました。たまたま頑張ってたら、10万文字を超えそうだったので、ついでにカクヨムコンに参加する、みたいな感じでした。

――当時、連載をしていて、読者の反応はいかがでしたか?

紙城:申し訳ないんですけど、感想を一切見ないタイプなんです。ランキングがあるから好評そうということは分かっていたんですが、どのくらい好評なのか分かっていませんでした。ただ、設定を思いついた時点で「伸びるんじゃないか」と思ってたんです(笑)。
見るからに強力な設定だったので、誰かに書かれる前にやらないと駄目だと思って、全てのスケジュールをうっちゃって、即書いたという流れでした。
元々、デビュー作とその次の作品くらいまでは、自分のスキルを全部詰め込んでいい作品にしようと考えていたんですけど、それだと伝わりにくいなぁ、と感じていました。徐々にスキルを分割して一つの作品を書くことを心がけるようになり、そのうちの一つにラブコメがあったという感じです。

――思い切った決断ですね! 「ラブコメ」に注力したことで、『連れカノ』は純度100%のラブコメになっていると思いますが、何と言ってもキャラクターが魅力的です。5人の主要人物の中で、特に気に入っている登場人物は誰ですか?

紙城:いさなですね。他のキャラは関係性ありきで、二人をセットで考えているんですけど、いさなはそれに一人で対抗できるように盛り盛りで書いたので気に入っています。あと、敬語で喋るキャラが好きなんです。

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――アニメでも早くいさなを見たいですね! ところで、アニメ化の決定について聞いた時はいかがでしたか?

紙城:最初に聞いた時は完全確定ではなかったので、そんなに飛び上がって喜ぶみたいな感じじゃなくて、ぬるっと決まった感じでした。

――ぬるっと(笑)。アニメ化にあたって、要望を出された点などあったのでしょうか?

紙城:特にありませんでした。漫画もそうなんですけど、基本的に全部お任せのスタンスなんです。原作者という立場もちょっと厄介で、はっきり言ってそのメディアについては素人。それなのに、ものすごく意見を珍重されるというか……。脚本会議にも参加させていただいたのですが、どこまで口を出していいか迷ったりもして。序盤で言うと、ストーリー自体は1話完結型なのですが、原作通り順番にやっていくと結構とっ散らかるところを、いい感じにまとめてもらいました。
小説は情報の立て方がリニア(直線的)なので、地の文でつなげてしまえば何とかなってしまう。でも、アニメは声と絵と音と同時多発的で、情報量が多い。水斗と結女って、傍目に見てると、二人だけで察し合って、なんか成立しているやりとりがちょくちょくあるんですよ。
たとえば、1話だと、バスタオルの結女に水斗が上着をかけるシーン。原作でも、そこは結女が一人で暴走気味なんですが、水斗は完璧に対応する。「これはテレパシーだな」と(笑)。アニメは小説に比べて心理描写が弱めなので、そのあたりがうまく伝わるといいなと思っています。初回はぜひその場面に注目していただければ。

――見逃せないシーンですね。全話を通して、ほかに印象に残っている場面などはありますか?

紙城:実は、完全に原作にない回があるんです。あれは自分では一生書かない話なんです。終盤の回なので詳しくは言えませんが、それをアニメの脚本家のかたがちゃんと原作のエピソードを拾いつつ、新規で作ってくれました。楽しんでもらえたら嬉しいです。

――原作にない回、とても気になります。アニメ放送が待ち遠しいですが、今日7月1日に最新第9巻も発売されました。こちらの見どころを教えてください。

紙城「第2部完!」という感じです。独自に使っている用語がありまして、シリーズの特に盛り上がりの部分を「パワースパイク」って呼んでいるんですけど、1回目のパワースパイクが第4巻で、1.5回目くらいが6巻、2回目が9巻というイメージになります。第2部は完ですが、第3部はこれから始まっていくイメージなのでご安心ください。
あと、明確な見どころで言ったら、9巻はほぼほぼ水斗と結女の視点だけになるんです。原点回帰じゃないですけど。二人の物語を楽しんでもらえると思います。

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――インタビューにはスニーカー文庫の担当編集者Kさんも同席いただいていますが、編集者視点でのオススメポイントはどこでしょう?

担当編集者K中身のイラストで、かなりガンガン攻めてる結女に出会えます! いつもより、肌色が多いので、開けてからのお楽しみということで。水斗と読者の皆さんが悶々とさいなまれてくれるのではなかろうかと思います(笑)!

――第3部に続いていくということで、長く愛されているシリーズとなりましたが、あらためて人気の秘訣やポイントはどこにあると思いますか?

紙城:設定でしょうか。これ以上インパクトのある設定が浮かばないかもしれないと思っているくらいです。ライトノベルだと結構ハイコンテクストな設定になったりしがちなことがあるんですけど、『連れカノ』は汎用性のある設定なんですよね。義理の兄弟と元カノというのはどちらも誰でも知っている概念だし、パッとタイトルを見た時に設定のインパクトが分かりやすい。あるとしたらそこですかね。

――タイトルから登場人物の関係性が一瞬で分かる、というのは強力ですね。さて、ここからは紙城先生の創作論についてお伺いできればと思います。昨年オンラインで配信した「カクヨム小説創作講座」では担当編集者Kさんを講師に迎え、紙城先生の創作論をお伺いしました。そこでも、ラブコメを「ロミジュリ型」と「ニセコイ型」に分類されるなど、ロジカルな印象を持ちました。小説を書く上で、心がけていることはありますか?
※「カクヨム小説創作講座」はアーカイブ動画として販売中です。ぜひご視聴ください。

紙城:デビュー前に色々と試行錯誤して、ちょっと理論的にやった方が合っている感覚があったんです。理論派でもあるんですけど、元々は自分の感覚を理論に落とし込んでるタイプですね。6個目の感覚がある感じかもしれません。
心がけは「序盤を甘えない」ことと「つなぎのシーンを作らない」ことです。昔は自分もそうだったのですが、つなぎのシーンって必要に思えるけど面白くないからあんまり書きたくない、みたいなことがあります。そういうシーンにめぐり合ったら、全部飛ばすようにしています。意外とそれでも成立するんですよね。公募で長編を送る際に、いつも規定枚数の上限を突破してしまうので、どうにか枚数以内におさめることを考えるうちに無駄なシーンが消えていきました。
Web連載で毎回起承転結を作ろうとすると、逆に全体のストーリーでみたときに要らない話が入りがちなんです。

――先ほど、読者の感想は見ないと伺いましたが、ノイズになるからあえて目に触れないようにしていたということですか?

紙城:精神に波を作りたくなかったんです。いい感想にしても、そうでない感想にしても、波を処理するリソースを、書くことと上手くなることに費やしていった方がいいのかなと考えていました。自分がそういうタイプというだけなのですが、上手くなることを一番のモチベーションの源泉にしているので、それが可能なんだと思います。

――『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』で第1回集英社ライトノベル新人賞の優秀賞を受賞し、デビューされました。その後、第3回カクヨムWeb小説コンテストを受賞するまで、どのような意図でWeb小説に取り組んでいたのでしょうか?

紙城:デビュー作が書けた時点で、デビューはできると思いました。「それじゃあ、シリーズの練習をしよう」と思ってWeb小説の連載を始めました。連載という形式で何ができるのかを試していたんです。毎日更新しようという時は、最後まで全部書いて、更新の予定表を一から十まで出して、やったこともあります。毎日書いていくと、じっくり考える時間がないんですよね。

――まさに「上手くなる」が執筆の核なのですね。『連れカノ』は様々なメディアミックス展開をしている中で、今もカクヨムに掲載を続けています。Web連載と書籍版の位置づけや関わり方はどのように考えていますか?

紙城:本当はその位置づけをちゃんと計画してやらなければならないと思うんですけど、そこまで手が回っていません。「カクヨムで始めたからカクヨムで最後までやるべき」と思って掲載しています。今は書籍版よりWeb版が後の掲載になってしまっていますが、理想的なあり方として昔考えていたのは、普段はコンスタントにWeb連載があって、何カ月に一回かのイベントとして書籍版があるというかたちです。……まぁ、間に合わないです(笑)。

――2018年にカクヨムコンで大賞を受賞し、約5年が経ちました。これまでの5年を振り返り、これからの作家生活のビジョンをどのようにお考えでしょうか?

紙城:さっき自分のスキルを別個に分割して出すという話をしましたが、そろそろまた統合したいと思って色々考えています。今なら前より分かりやすくできるだろうなぁ、と。

――それはぜひ読んでみたいです。最後に、カクヨムで小説を執筆している皆さまの中には、自分の作品がアニメ化されることを目標にしているかたも多いかと思いますので、メッセージをいただければ幸いです。

紙城:毎日更新は体を壊すから、ほどほどに。くらいですかね(笑)。精神がぶっ壊れるので。とにかく必死にやってた頃に、毎日更新どころか日に三回ぐらい更新しないといけない状態になったことがあって、それは1週間くらいで「無理だ」と思ってあきらめた経験があります。
ひたすら時間に追われながら書いていると身にならないので、疲れたと思ったら休むのが大事です!

――紙城先生、ありがとうございました! いよいよ7月6日(水)より、『継母の連れ子が元カノだった』のアニメ放送が始まります。カクヨムユーザーの皆さま、ぜひご視聴いただければ幸いです! アニメの詳細情報は公式サイトや、公式Twitter(@tsurekano)にてご確認ください。

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