ひたすらに書き溜めて15年、 執念のショートショートが悲願の書籍化!「殺す時間を殺すための時間」発売記念 どくさいスイッチ企画インタビュー


R-1グランプリ2024史上初のアマチュアファイナリスト・どくさいスイッチ企画による超短編集「殺す時間を殺すための時間」が、2024年10月31日に上梓される。本書は、彼がWeb小説サイト「カクヨム」に綴りつづけた大量のショートショートをブラッシュアップし、書き下ろしを含む60本に厳選して書籍化したもの。普段はコントや落語で人を〝笑わせる〟ことの多いどくさいスイッチ企画であるが、本書に収録されたショートショートは、明るさだけではない、彼の人間味が凝縮されている。どくさいスイッチ企画は、なぜショートショートを書くのか、そして本書に込めた想いとは。

kakuyomu.jp



——ショートショートを書き始めたきっかけを教えてください。

どくさい 大学時代に、mixiというサイトで書きはじめました。mixiは日記を書くサイトですが、当時日記に書けるようなことがなくて(笑)。単調で暗い出来事しかなかったので「これを人様に読ませるのは申し訳ない」と思い、日記の代わりにショートショートを書き始めたのがきっかけです。大学時代にずっとmixiで書きつづけ、卒業後は頻度が落ちたんですが細々と書きつづけ、それをまとめてカクヨムに転載したものが、今回の書籍化につながりました。

——ショートショートだけでなく落語やひとりコント、大喜利とさまざまな活動をされていますよね。それぞれ表現方法が異なると思いますが、どんな違いがありますか?

どくさい 大喜利は思考の一番手前にあり、考えすぎず「思いついたことをバンバン出していく」もの。楽しい趣味だと思っています。一方で、コントと落語は人に提供する商品でもあるので、すごく真剣に考えるようにしてます。

——どくさいさんが書くショートショートには、暗いお話が多めですよね。落語やコントとは世界観が異なりますが、自分の中ですみ分けているのでしょうか?

どくさい ショートショートを書き始めた当時は、思いついたことをバーっと書いている感じでした。最近は、明るい設定を思いついて、かつ自分ひとりで表現できるものだったらコントにしちゃいます。なのでショートショートは、暗い話……というか、嫌な話が多くなっていると思います(笑)。

——コントは「人を笑わせる」という前提があるので、暗い設定でつくれないですもんね。

どくさい そうですね。笑えないテーマや、複数人が登場する話、展開がつくれない場合はショートショートにしています。コントも落語もお客さんに嫌な思いをさせないようにつくっているけど、ショートショートは個人の中で腑に落ちるものとしての作業だったので、嫌な気持ちになるものでも書けた。なので、私の人間的な部分がもっとも出ているのはショートショートなのかもしれません。読み返すと、「これを書いた当時、こんなことを考えてたんだな」と分かります。ただ、基本的に暗い人生を送ってきたので暗い話が多いんですけど、本当に嫌だったときって意外と〝いい〟話を書いてるんですよ。そういうのも、個人的にはおもしろいですね。

——どくさいさんがやっている活動は、すべて「ことば」を使いますよね。ことばを扱ううえで、こだわりはありますか?

どくさい コントや落語に関しては、なるべくセリフを短くして「お客さんに伝わりやすい表現にしよう」と思っています。でもショートショートに関しては、あんまりそのポイントをいちばんには考えていないかもしれません。多少伝わりにくかったとしても、こっちのほうがしっくりくる、と思えばそうした言い回しを採用したりとか。もともとは趣味としてやっていたこともあって、ショートショートを書くときは、基本的に筆が止まることがないんですよ。思いつくまで時間はかかるんですが、アイディアが生まれてから作品にまとめるまでの時間は、すごく短いと思います。だからいちばん自分を制御せず世に出しているものが、ショートショートなのかもしれませんね。取り繕っている部分がない気がします。

——収録されているショートショートを読むと、芸人さんが書いたとは思えないくらいの生々しさを感じます。

どくさい 芸人さんのショートショートだと、前例にバイク川崎バイクさん(「電話をしてるふり」/ヨシモトブックス)がいらっしゃいますよね。私も拝読したのですが、すごくさわやかで明るくて、すてきだと思いました。私のは、それとはまったく毛色が違いますね……(笑)。「芸人が書くショートショートなんだから、こういうのをやろう、こういうのはやめよう」……みたいな発想は一切なくつくったことも、売りのひとつかなと思います。

——「本を出す」ことは、どくさいさんにとってどんな出来事でしたか?

どくさい 本を出すのは「目標」でした。もともと読書がすごく好きだったし、長い人生のなかで1冊でも良いから本を出せたらな……とはずっと思っていたんです。自費出版だったとしても、最終的に世に出せればと。それがこんな形で叶うとは、思ってもみませんでした。本を出すためには「文学賞をとる」とか「知識を得て専門書を出す」とか、そういうルートしかないと思っていたから。

——R-1グランプリ2024決勝のオンエアの2日後に書籍化のオファーが来たとうかがいました。「本を出しませんか」と連絡が来たとき、最初に報告したのは誰ですか?

どくさい 妻です。「信じられないことが……」と話しました。「おめでとう」とは言われましたけど、R-1決勝が終わった直後だったし、その段階ではお互いなにがなんだかよくわかってなかったんですよね。うれしいというよりも、驚きのほうが大きかったです。

——本に収録されているショートショートの中で、特に気に入っているのはどの作品ですか?

どくさい 「転科サイト『ねこナビ』」(カクヨム版「ショートショート『ねこナビ』」)「ですね。けっこうのんきな話なんで読みやすいかなと。あと「めったにないこと」(カクヨム版「ショートショート『めったにないこと』」)も。これはmixi時代に書いたショートショートで、これもまた、のんきな話なので好きですね(笑)。それから、すごく嫌な話のジャンルですが「総憎力」(カクヨム版「ショートショート『プラスティシティ』」)も好きです。この話は〝嫌な描写〟を頑張った記憶があって。書籍化にあたりさらに〝嫌〟にしました。書籍化のために書き下ろした作品だと、「剣と魔法のラヴォラトリ」がいちばん好きですね。普段書かないライトノベルのジャンルを模倣しながら書いたので、その頑張り具合も見てもらえたらなと思います。

——書籍化にあたり、過去作品に結構手を加えているんですか?

どくさい そうですね。昔に書いた作品は、出てくるものがめっちゃ古かったり、今じゃピンとこなかったりするんです。たとえば、音楽を聴いているのがウォークマンだったりとか(笑)。こりゃいかん、と修正しました。こういう作業は、編集者さんと二人三脚で進めてきました。どの話を入れるか選んで、さらに直すのに半年かかりました。

——この本は、カバーも印象的ですね。デザインにはどくさいさんの意見が反映されているんですか?

どくさい 好きな小説家で大前粟生さんという方がいまして、この方の小説「ピン芸人、高崎犬彦」(太田出版)のカバーデザインをしている方にお願いしました。すごく奇抜な装丁でこだわりを感じたので、「私もこの方に頼みたいです」とお願いして。めちゃくちゃ暑い日に、編集者さんと事務所まで打ち合わせに行ったのを覚えています(笑)。デザインの希望自体はこちらから出したわけではないです。ただひたすら、編集者さんが「この人は天才なんです」とプレゼンをしてくれて……(笑)。そこから読み取ったイメージから、デザイナーさんがつくりあげてくれました。インパクトが強くて、すごく気に入っています。このご時世、あまり「殺す」って字を思いっきり入れてる表紙ってないですよね。ほぼデスノートのような仕様ですが、それもすごくいいなと。

「殺す時間を殺すための時間」書影
「殺す時間を殺すための時間」書影


——今年はR-1決勝進出にはじまり、上京や本の出版など、変化の大きな年だったと思います。今年の活動を踏まえ、今後どんなことをやりたいと思っていますか?

どくさい とにかく、今の活動を「つづける」ということです。今は経理関係の仕事が収入源の柱なんですが、それでもいいから、とにかく食っていける状態を維持しながら、そのすき間で、今やっているようなコント、ショートショート、演劇などをつくることで、なるべく多くの人の〝暇つぶし〟をしたいと思っています。多くの人の目に留まるものをつくって、受け取ってくれた人の時間を忘れさせる……っていうと大仰な感じですが、とにかく皆さんの退屈な時間を「殺せる」ものをつくりつづけたいです。

(写真=武田真由子 取材・文=堀越愛)

「殺す時間を殺すための時間」帯あり書影

「殺す時間を殺すための時間」
著者:どくさいスイッチ企画
定価: 1,650円 (本体1,500円+税)
発売日:2024年10月31日
判型:四六変形判
商品形態:単行本
ページ数:328
ISBN:9784041153505

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